近年、日本でも企業の指標として取り入れられてきているSDGs」。これは、2015年9月の国連サミットで193か国の首脳の参加のもと定められた世界の問題を解決するための開発目標であり、2016年から2030年までの15年間に達成すべき課題として貧困、飢餓、環境問題、経済成長、ジェンダーなど、17項目が含まれる。
出典:外務省WEBサイト
環境破壊や格差社会など、様々な問題が起きている中、地球全体を「持続可能(サスティナブル)」な社会にするための取り組みだ。
日本でもスーパー等でのビニール袋有料化や、大手コンビニでのプラスチックストロー廃止など、徐々に環境に配慮したサスティナブルな考え方が広がってきた。
大量にモノを消費していた時代を超えて、近年はこだわりのあるモノを長く愛用する「シンプルライフ」や「ミニマリスト」の文化も日本に浸透しつつある。とはいえ、北欧をはじめとした環境保護対策の先進国に比べると、日本人の意識は圧倒的に低いのではないだろうか。
今回は、デンマーク在住の筆者がこの地で目にした環境保護の取り組みに加えて、現地でサスティナビリティをキーワードにグローバルな活動を展開する非営利団体「Sustainary」へのインタビューをお届けしたい。
同団体が主催する「SDGテックアワード」で受賞したデンマーク企業のオリジナリティある取り組みにも、ぜひ注目してほしい。
サスティナブル国家1位のデンマークで見た光景
筆者撮影
デンマークは、2019年に世界のSDGsの目標達成国ランキングで加盟国157か国中1位となった、サスティナブル先進国。1位デンマーク、2位スウェーデン、3位フィンランドと北欧の国がTOP3に並んでおり、日本は15位となっている。(出典:SDG Index and Dashboards Report 2019)
デンマークの首都・コペンハーゲンに降り立つと、視界に飛び込んでくるのは大量の自転車。主要道路は歩行者専用・車道に加えて、自転車専用と3つに区切られており、地元民も観光客もルールを守って利用している。ここまで徹底されていれば、人通りが多い道でも自転車事故のリスクを減らすことができるだろう。
筆者撮影
電車の中にも自転車専用スペースがあるため、自転車を電車内に持ち込んで通勤するデンマーク人も多い。
筆者撮影
前方に大きなカゴが付いている自転車もあり、子供はもちろん大人が乗っていることも。デンマークを歩いていると、時々遭遇する。
「なぜ自転車を使うのか」と数人のデンマーク人に聞いてみたところ、「環境保護のため」との回答が圧倒的に多く、おそらくデンマーク人にとって環境に配慮することは、ごく自然なことなのだろう。
また、多くのスーパーマーケットには、空き缶、空き瓶、ペットボトルをリサイクルするとお金が還元される専用マシーンが導入されている。「Pant A」「Pant B」「Pant C」と3種類に分かれていて、1〜3クローネ(約16円〜47円)が戻ってくる仕組みだ。このリサイクルシステムは、スウェーデンやドイツでも採用されている。
筆者撮影
環境保護や動物愛護への意識からベジタリアンやビーガンを選ぶ人も多く、私自身も現地人に触れながら生活するなかで、「明日なにを食べるべきか」「食品をムダにしてはいけない」という意識が以前より強くなった気がしている。
筆者撮影
サスティナブル企業アワード「SDG Tech Awards」受賞企業のユニークな取り組み
デンマークは、2030年までにCO2排出量を1990年比70%削減、2050年までに国のCO2排出量をネットゼロ(※)にするカーボンニュートラル連合(CNC)への加盟を表明しており、政治政策も環境保護に重点を置いている。デンマークの多くの企業もこの意志に賛同し、持続可能なビジネスモデルの構築に務めている。
※ネットゼロ……建物で消費されるエネルギーを賄える分のエネルギーを作ることにより、数字的にはプラスマイナスゼロになるという考え方。
そんなサスティナブルビジネスを行う企業をアワード形式で発表する、年に一度のビッグイベント「SDG Tech Awards」がデンマークで2019年から開催されている。
このアワードは、各国の機関や企業と連携を取りながらサスティナブルな社会を築こうと奮闘するNPO団体「Sustainary」が手がけており、推薦者によりノミネートされた企業を、独自の基準によって審査員が評価して表彰する。これまでにデンマークとブラジルで開催し、ユニークな事業を展開する数々の企業、非営利団体、大学などが受賞している。
主催NPO団体「Sustainary」の代表 Human Shojaee氏は、開催にあたってこう語った。
「2019年のアワードでは、廃棄物削減、社会的利益、ヘルス、男女平等など17のカテゴリー別に、受賞者をセレクトしました。このイベントの開催により、持続可能な事業に取り組む企業や機関の存在をアピールすると共に、より広いコミュニティを構築し、サスティナブルな社会づくりに貢献したいと考えています」
「SDG Tech Awards」では、どんな企業が受賞しているのだろうか。受賞企業の中から、ユニークなサービスを抜粋して紹介しよう。
■企業・スクールと提携するオンライン学習プラットフォーム「Canopy Lab」
「Canopy Lab」の公式HPより
デンマークをはじめとしたビジネススクール、教育企業、デザインセンター、団体などと提携し、オンライン学習の場を提供するプラットフォーム。中には、教育の機会に恵まれづらい途上国の少女たちを対象にした、貧困から抜け出すための知識を提供する学習コースもある。物理的に学習しているような教室雰囲気を取り入れる、学習状況を可視化する、仲間とコミュニケーションを取りながら進めるなど、学習を継続しやすい工夫がされているとのこと。
■サスティナビリティな企業を支援するコワーキングスペース「DISIE」
DISIE内の休憩スペース(筆者撮影)
サスティナブルなサービスを提供する、または提供したい起業家に対して、ツール、知識、ネットワークの提供を通じて、起業家を支援するコワーキングスペース。同じビジョンを持つスタートアップなどが集まり、日々切磋琢磨しながら事業の成長を目指している。「革新的なパートナーとのコラボレーションにより、SDGsを達成するための先駆者を輩出したい」との力強いメッセージが公式HPから伺える。
■環境保護をダイレクトに促進する建築設計事務所「Tredje Natur」
「Tredje Natur」の公式HPより
建物や公園などの設計を通じて、サスティナビリティを追求する企業。例えば、コペンハーゲンにある巨大な貯水湖を備えた公園「ENGHAVEPARKEN – CLIMATE PARK」では、この地域に降る雨が地下貯水池に溜まるため、雨水のリサイクルが可能になる。
「Tredje Natur」の公式HPより
また、CO2が30〜50%削減されるよう設計された住宅も。環境保護だけでなく、たっぷりと日光が差し込み、外からのノイズが発生しにくい設計、洗練されたデザインはデンマークの建築レベルの高さを表している。
■タブーとされている性教育をゲームで楽しく学べる「Lulu Lab」
「Lulu Lab」の公式HPより
性的権利・生理・妊娠・避妊など、タブーな話題とされがちな「性教育」について、直感的なゲームを通して知識を学べるサービス。現在は、東または西アフリカを拠点とする10〜24歳の若い女性と男性がターゲットユーザーとなっている。少人数のグループ、男女別、個別など、複数のスタイルの学習方法があり、グループでプレイするとお互いの意見をシェアすることも可能だ。同社は、ゲームにより楽しく性教育の知識を身に付けてもらうことで、性=タブーというイメージを根絶したいとメッセージを送る。
サスティナブル社会を目指し、グローバルなコラボレーションを実現するNPO団体「Sustainary」
「SDG Tech Awards」を主催し、サスティナブルな社会の構築を目指すNPO団体「Sustainary」はどのような未来を見ているのだろうか? 代表のHuman Shojaee氏に話を聞いた。
「Sustainary」の代表 Human Shojaee氏(写真右から2番目)
「私たちは地方自治体や政府と連携を取りながら、グローバルなネットワークを構築し、“サスティナビリティ”な事業を加速することに注力している非営利団体です。例えば、持続可能なビジネスの在り方を学ぶためのセミナーを開催したり、さまざまな機関や企業と連携して優れた企業を支援するキャンペーンやイベントを実施したり、といった取り組みを行っています。
2019年秋にはイギリス政府と連携し、ヨーロッパの25の市場で『サスティナブル・ファストトラックUKプログラム』を実施しました。英国国際貿易省(DIT)が主導するこのプログラムは、欧州企業の持続可能なソリューションをグローバル展開するための資金調達や規模拡大をサポートするものです。
「Sustainary」公式HPで展開する『サスティナブル・ファストトラックUKプログラム』のプロモーション動画
私たちは、適切なコンタクト先とのマッチングやグリーンファイナンスのための特別な機会を利用して、優れた欧州企業のビジネスを促進しています」
続いて、Shojaee氏は現在、世界中を震撼させているコロナウイルスの影響による施策についても語ってくれた。
「コペンハーゲン市では、現在の危機的状況の影響で4万人以上が失業しています。私たちは現在、市と対話をしながら、サスティナビリティーマネージャーのスキルを得るためのクラスの開催を検討中です。困っている人々を救い、持続可能なビジネスを加速する助けになればと考えています」
そして、2020年のSDGテックアワードは、当初6月に開催が予定されていたが、コロナウイルスの影響により9月11日に延期された。
「2020年のアワードは、プラスチック削減、移動性、建築、ファッションなどカテゴリーを一部変更しました。現在、約560社がノミネートされています。今回の世界的な危機的状況をキッカケに、このアワードをオンラインでも行えるよう模索しているところです。そうすれば日本からのノミネートも可能になるでしょう。
少し先になると思いますが、ぜひ日本の企業や機関にも参加していただき、グローバルな企業と共に国際的なレベルでプロジェクトを進めるキッカケになれば嬉しいですね」
10年後、20年後を見据えたときに、自社の事業は果たして持続可能なのか。サスティナブルなビジネスへの変換点はどこか。否応なしにワークスタイルの変革が求められる今だからこそ、環境保護先進国デンマークの取り組みを参考に思考を巡らせる機会になれば、と願う。
<取材協力>
Sustainary