6月3日、2016-2017シーズンUEFAチャンピオンリーグの決勝戦「ユヴェントス対レアル・マドリード」が開催されました。米国のテレビ放送局「FOX」の、スポーツ中継部門「FOXスポーツ」がVRスタートアップLiveLikeと協業し、この決勝戦の観戦をVRで視聴者に提供しました。
テレビ放送局が、単なる映像だけでは実現できない、没入感のある視聴体験を視聴者に提供する試みとして、非常に興味深い事例です。
挑戦するFOXの姿勢
FOXは米国で、ABC、CBS、NBC、と並ぶ4大テレビ放送局の1つとされています。FOXは、1話1時間1シーズン24回、リアルタイムに出来事が展開するアクションサスペンスドラマ『24ーTWENTY FOURー』を手がけたことでも有名です。また、演出やナレーションなどの脚色なしで、警察官の活動を撮影したドキュメンタリー『全米警察24時 コップス』など、これまでにない斬新な手法を積極的に導入してきました。
新しいことに挑戦していくFOXの姿勢は、LiveLikeとの協業によるVRへの取り組みにも表れています。FOXは単なる映像ではなく、VRで実際に試合場にいるかのような臨場感を、視聴者に提供することを狙いとしています。サッカーのUEFAチャンピオンリーグ以外にも、アメリカンフットボールNFLの決勝戦の「スーパーボウル」、全米大学体育協会男子バスケットボールトーナメントなどの試合観戦をVRで提供しています。
VR配信プラットフォーム「LiveLike」
LiveLikeは、既存のテレビ放送局の映像撮影の流れを踏襲しつつ、視聴者に簡単にVRを配信できるプラットフォームです。そのため、新たな視聴体験を視聴者に提供したいと考えているテレビ放送局を中心に、注目を浴びています。LiveLikeはこれまでに、電通ベンチャーズをはじめとする投資家から合計591万ドル(約6億円)の投資を受けています。
次に、LiveLikeの、映像をVR化する流れをご紹介します。
①撮影
3次元カメラ、スタンダードなビデオカメラ、360度カメラを用いてスポーツの試合を撮影します。フィールドのさまざまな地点にカメラを設置します。これにより、試合の様子を異なるアングルからの臨場感あるVRで視聴者に配信できます。
②映像伝送
既存の中継車から映像をLiveLikeに伝送します。
③LiveLikeの映像処理
LiveLikeが送られてきた映像を処理します。
④スマホアプリでVR配信
放送局毎にカスタマイズ制作されたVR視聴用のスマホアプリ経由で、試合がVRで視聴者に配信されます。視聴者はアプリをダウンロードし、モバイルVRヘッドセットかGoogleカードボードを用いて試合観戦することが可能です。
今後はアバターとなり交流する仕組みも
VR試合観戦の例をご紹介します。視聴者は試合までにスマホアプリ「FOX Sports VR」(アンドロイド、iTunes)をダウンロードします。
Microsoft Visual Studio YouTube
VRヘッドセット、グーグルカードボードにスマホを装着します。
VR空間にはスイートルーム「VR Stadium Suite」が視聴者に提供されます。ここで、試合のハイライトも視聴可能です。
「VR Stadium Suite」からフィールドを一望でき、フィールドの様々なアングルから試合を観戦できます。
たとえば、ゴールネット裏から。さらに巻き戻し再生も可能です。
チームの選手情報、ポジション、シュート・パス・ファール回数などの試合情報も閲覧できます。
また、試合のハイライトを選択して視聴することも可能です。
LiveLikeは今後、視聴者が3Ⅾアバターとなり、他の視聴者とVR空間で交流できるようにする計画もしているそう。
インターネットの動画配信サービスなど、競合サービスが増えているテレビ放送業界。顧客満足を向上させるためにも、新たな視聴体験を視聴者に提供する機会を、常に模索しています。