飲食分野でのテクノロジー分野は世界で注目されている。日本でも、人工知能が作るクレープ屋さん「エスプリ・ド・エスプリ」や、レシピ開発を行うAI「シェフ・ワトソン」が登場するなど飲食xITは日進月歩だ。

 

そんなフードテックの先端を行く異色の飲食店は、2011年、テクノロジースタートアップのメッカであるシリコンバレーに出現した。グリルチーズサンド店「The Melt」だ。

来店前にオンライン(アプリ)で商品を選択し注文でき、店舗で列に並ぶ必要なくスマホのQRコードをスキャンし熱々のグリルチーズサンドをすぐに受け取れる。

飲食におけるオンラインとオフラインを融合させた、新たな購買チャネル創造の事例として紹介されてきた。

The Meltの創業者はテクノロジーに精通したシリアルアントレプレナーのJonathan Kaplan氏。2011年創業当初は500店舗展開の目標を掲げ、飲食をテクノロジーで変革すると表明。メディアにも大々的に取り上げられた。

しかし、8年経過した現在の店舗数はたったの7店舗だけ。Jonathan氏はCEOを退任した。一体何が問題だったのか。端的に言うと「テクノロジー活用が目的となってしまい消費者のニーズを掴むことができなかった」のが原因である。

飲食はじめ小売におけるテクノロジー活用が叫ばれている今だからこそ、The Meltの失敗例から学べる教訓がある。

 

テクノロジー・エリートが率いる飲食店「The Melt」

The Melt創業者Jonathan Kaplan氏は小型携帯カメラを製造・販売するFlip Videoを創業したテクノロジーに精通した人物だ。

 

The Meltはアップル、グーグル、インスタグラムなど米国有数のテクノロジー企業に投資してきたベンチャーキャピタル「セコイアキャピタル」などから2500万ドルの資金調達を実施している。The Meltはテクノロジーを活用し飲食業界に革新をもたらすと期待されていた。

 

The Meltはオンラインのプレオーダー制を採用し接客業務を削減。

営業開始当初の基本メニューは5種類のグリルチーズサンドとスープのコンボのみとした。さらに45秒でグリルチーズサンドを調理できる調理器具も開発し、少ない人員で店舗を回せるようにし、5年以内に500店舗を展開する算段であった。

 

テクノロジー活用に先走り消費者のニーズを掴めていなかった

しかし、The Meltの現状の店舗数はわずか7店舗だけと成功したとは言い難い。不調の最大の原因は消費者のニーズを掴むことができていなかった点だ。

 

稼ぎ時の夕食時、The Meltには閑古鳥が鳴いた。消費者は基本的に朝から昼食時にかけてグリルチーズサンドを購入したのだが、夕食時になるとグリルチーズサンドを購入しなかった。

 

テクノロジーを駆使して調理した出来立てのグリルチーズサンドそのものも消費者から不評だった。現に2011年オープン当初のグリルチーズサンドの評判を見てみると散々なものとなっている。

 

「グリルチーズサンドとスープで8.95ドルは高すぎる。シリコンバレーの資金で立ち上がった事業にありがちな誇大広告、全国拡大プラン。でも彼らは良い料理を作ることを忘れている。」

 

こうなってしまったのは飲食ビジネスに経験のある人物がThe Melt経営層にいなかったことにあると考えられる。事実、2016年には創業者のJonathan氏がCEOを退任。ドミノピザやKFCで25年の勤務経験があるRalph Bower氏と交代した。

 

この交代にあたりJonathan氏はSilicon Valley Business Journalに対して以下のように語っている。

”テクノロジーはThe Meltのビジネスにとって重要だ。しかしながら人が来店する理由にはならない”続けて”Ralph氏はもっとレストランのオペレーションを熟知している経営者だ”

 

テクノロジーでオペレーションをミニマルに最適化したことは当初のThe Meltの強みでもあり弱みにもなった。

 

前述したようにグリルチーズサンドだと昼時しか集客できなかった。そこで夕食用のメニューを増やすことになった。しかしながらメニューを増やすとなると既存の店舗の設備で調理するのが難しくなった。増設する必要が出てきたうえに店員を新たにトレーニングする必要も出てきたのだ。

オペレーションをミニマルに最適化しすぎたあまり、臨機応変に対応するのが困難になってしまったわけだ。

 

歴史は繰り返す、失敗から得られる教訓

The Meltの失敗はあのセグウェイの失敗と重なる点がある。電動二輪車セグウェイは2001年に発表された。

ビル・ゲイツ氏、スティーブ・ジョブス氏、ジェフ・ベゾス氏などテクノロジー界の重鎮にセグウェイのアイデアは評価され、未来の乗り物としてメディアに大々的に取り上げられ話題となった。

 

当初は米国で100万台を販売後、海外にも販路を拡大する予定であった。しかしながら販売開始後、3年間で販売されたセグウェイの数はたったの6000台。現在、警察官のパトロールに採用されるなど一部では利用され続けているが、一般に普及することはなかった。

 

セグウェイ開発者のディーン・ケーメン氏は医療機器を発明してきたアイデアマンであるが、乗り物に精通している人物ではなかった。アイデアを評価していたビル・ゲイツ氏、スティーブ・ジョブス氏らにしても同様だ。彼らは自分たちの専門分野においてはプロダクトを正当に評価できただろう。しかし乗り物に関しては専門外である。

 

セグウェイの運転は免許がいるのか、公道で走れるのか、盗難防止をどうするのかなどなど消費者が購入するのに躊躇する要素が多かった。そもそも最大時速18キロであり自動車の代わりとしては遅すぎたし、自転車の代わりには数十万円するセグウェイは高すぎる。セグウェイを利用するメリットはほとんどなかったのだ。

 

セグウェイは消費者のニーズを掴めていなかったのに関わらず、最先端テクノロジーで移動できるプロダクトという話題性だけが先行。

テクノロジーで飲食を変革する(予定であった)The Meltも飲食業界で経験のある人がチームにおらず消費者のニーズを掴めていなかった。

 

原点に立ち返るThe Melt

2016年、The Meltは新たなスタートを切った。The MeltのCEOに飲食業界の経験豊富なRalph Bower氏が就任。

Ralph氏は既存のThe Meltのグリルチーズサンド以外のハンバーガーやサイドメニューを追加したり自然素材のPRに注力、内装も暖かみのあるデザインに変えた。

さらに従業員による接客も重視するようになった。オンラインから注文・決済できるプレオーダー制は継続して採用している。テクノロジーのメリットを活かしながらも飲食店の原点に回帰したと言える。

 

The Meltの失敗から学べる教訓はあくまでも消費者のニーズを満たす、より良い顧客体験創造を目的にテクノロジーを活用するべきであるということだ。

 

飲食におけるテクノロジーの活用は現在ホットなテーマとなっている。日本ではスターバックスが来店前にアプリを通して注文・決済できる仕組みを2019年中に試験導入すると表明している。他の飲食店もスターバックスに続く可能性もある。テクノロジーが提供する新たな顧客体験創造の動向を注視し続けたい。

 

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森本進也
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森本進也

ライター。1989年生まれ。IT、経営、マーケティング、金融、バイオ、医療等の領域において海外の最新トレンドを追っている。好きなメディアはTechCrunch、Business Insider、Scientific American。