現在テクノロジーが急速に発展しているなかで「Femtech(FemTech)」という市場が注目されつつある。
FemTechとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」からできた造語で、女性が抱える健康問題やライフプランを解決するためのテクノロジー・サービスのことだ。FemTechに当てはまるカテゴリーは幅広く、月経や妊娠・子育て、更年期、メディカル、セクシャルヘルス、ファッションと分類されている。
サービスの例を挙げると、スマホで生理周期を管理できるトラッキングアプリや、卵巣年齢を測定し自分の妊孕力を知ることができる検査キットなどだ。
Global Market Insights Inc.のレポート結果によると、2018年時点でのFemTechの市場規模は165億ドルだが、2025年には487億ドルまで成長する可能性があると言われている。今回はそんなFemTechについて、これまでに国内外で人気を集めているサービス・商品を紹介。そして、実際にFemTechを使用したことがある方にお話を伺った。
専門店もオープン。国内でも盛り上がるFemTech市場
日本国内で、FemTechが盛り上がりを見せている。
先週の4月11日(土)には、「Femtech Fes!(FemTech フェス)」がオンラインにて開催された。Femtech Fes!とは、2019年から始まった国内外のFemTech商品やサービスの見本市。今年はオンラインでの開催となったが、国内外のFemTech市場の動向やFemTechアイテムについて発信され、「とても勉強になった」「ボクサータイプの生理パンツが安心感ありそうで欲しくなった」「早速購入した生理パンツの到着が楽しみ」など、Twitterには多くの反響が寄せられている。
https://twitter.com/hellofermata1/status/1247845318068023297?s=20
FemTechが盛り上がっているのは、オンライン上だけではない。大阪梅田の百貨店・大丸は、2018年に女性向けのセルフプレジャーアイテムを販売する催事を行ったところ、当月の催事売上1位という成績を残し「セルフプレジャー商品は特殊な市場ではない」と気づいたことから、2019年11月に幅広いFemTech商品を取り扱うショップ「MICHIKAKE(ミチカケ)」をオープン。
FemTech商品はECサイトで購入する客が多くなるかと予想していた様だが、意外にも店舗で商品を購入していく客が多かったのこと。客層が高い百貨店でも需要のあるFemTechは、年齢関係なく受け入れられる市場なのかもしれない。同店舗はオウンドメディアでの情報発信も行なっている。
その他にも、今年に入ってからライフステージごとの悩みに特化したサプリメントを提供する「natural tech(ナチュラル テック)」や、卵子凍結に関する情報の提供やコンシェルジュのケア、提携クリニックのマッチングなどのサービスを提供する「stokk(ストック)」、サプリメントや低用量ピルなどをサブスクリプションできるサービスの「sai+(サイ)」など様々なFemTechサービスが誕生している。
また、インフルエンサーによる発信も盛んだ。大学在学時に、胸の小さい女性のためのランジェリーブランド「feast」を立ち上げ、その5ヶ月後に株式会社ウツワを起業し、現在24歳で経営者であるハヤカワ五味さんは、SNSで生理や女性の悩みについて発信をしている。中でもYoutubeに投稿されている下記の動画は、3.6万回以上再生されており、ミレニアム世代を中心に、性についてオープンでありたい、正しい情報を得たいという気持ちが膨らんできている。
今後は、こういった女性の悩みに関連してFemTech関連の情報発信の需要も高まってくるだろう。
2013年ごろから成長をみせるFemTech領域
2000年ごろから、女性の健康問題の解決を目的とした取り組みを行う企業が増えていたが、拍車をかけたのは2013年にデンマークの起業家、Ida Tinさんがローンチした「Clue(クルー)」という生理日・排卵日を管理できるアプリである。
Clueでは、生理日を入力し、次の生理日や排卵日の情報を知ることができるだけではなく、毎日の気分や食欲増加、肌の調子、睡眠時間などを含む30個の項目から、希望の項目を選んで記録していき、その情報に基づいて体調の変化をトラッキングしてくれるシステムだ。
開発された2年後の2015年、Clueは180か国以上の国で使用されるアプリとなり、アクティブユーザー数は200万人を超えた。様々な切り口によって体調管理ができるというのは、月経前症候群(PMS)で、イライラしたり体がだるくなったり、頭痛がひどかったりというような症状がひどい方にとっては、生活を助けてくれるアプリになるだろう。
Clueに続いて、様々な企業が女性の健康問題を解決するようなサービスを開発することが増えた。
そんな状況の中、Ida Tinは、企業が個々の商品を説明するときに抽象的な表現しかできておらず、製品をしっかり伝えられていないことに気づいた。その時に生み出したカテゴリーが「FemTech」である。FemTechという言葉ができてからは、企業は開発したサービスを”FemTech製品”として世に広めていくようになった。
様々な分野でローンチされる、FemTech
2011年にローンチされたニューヨーク発のオンラインショップのみで購入できるD2Cブランド「Thinx(シンクス)」は、ナプキンやタンポン、月経カップなどが要らず、ショーツ自体が血液を吸収してくれる生理パンツを販売。生理がくるたびに、ゴミを出さずに済むサスティナブルな点や、プロモーションにトランスジェンダーモデルやプラスサイズモデルを起用したことで話題となった。
ポップでかわいいパッケージの避妊薬を販売していることで注目の的となった「hers(ハーズ)」は、スキンケアやヘアケア、アクネ用のアイテムを取り扱うオンラインサイト。
日本では、最近になりようやく低用量ピルの認知が拡大し、使用する人が増えてきたが、まだまだピルを恥ずかしいと感じる人や、使っていることを知られたくないと思う人も多いだろう。しかしhersのようなスタイリッシュでお洒落な見た目だと、ピルに興味を持ったり、ピルを恥ずかしいものだと思わなくなったりするのではないだろうか。
2016年にローンチされた「Ava(アバ)」は、就寝中に装着するだけで5日間の妊娠しやすい日を提示してくれるトラッキングブレスレット。妊娠を望む女性や不妊治療を受けている女性をサポートしてくれる、アメリカ中心に人気のFemTechアイテムだ。
2016年ごろに欧米を中心にヒットしたのは、生理用品のサブスクリプションサービスを行っている「LOLA(ローラ)」だ。”初経から閉経まで、女性の体を生涯サポートするブランド”をミッションに掲げ、オーガニックのナプキンやタンポン、PMSによる不快感をケアするためのマルチビタミン剤やオイルを定期配送をしている。
コットン製品は、合成繊維や染料を使用しないオーガニックコットンを使用している。オーガニックコットンを使うことで、生理中に肌がかぶれてしまう女性特有の悩みを軽減しながら、環境に配慮した製品となっているのが特徴だ。また万が一、バッグから見えてしまっても問題ないような、洗練されたモダンなルックスが魅力である。
他にも、2016年にはアメリカ・サンフランシスコの会社「Carrot(キャロット)」が、企業向けにオンラインで妊活ができるというプラットフォームを提供している。デロイト トーマツ コンサルティングの調査資料によると、2019年4月にシリーズAで1,150万ドルを調達したと発表されており、資金調達総額は約1,500万ドルとなる。
Carrotと契約すると、企業に属す従業員はオンラインのプラットフォームで専門家による妊活のコンサルテーションや、卵子凍結、体外受精など幅広い妊活サービスを受けることができる。従業員は、福利厚生の一環としてサービスを受けれることができる仕組みになっており、プラットフォームを通して企業に費用申請をできるようになっているのだ。妊活を始めると、定期的に病院へ通うことが必要となるが、オンラインプラットフォームを使うことで、行く手間を省けるのは効率的である。
1年に1度開催される、世界のテクノロジー見本市・CESでも、2019年からFemTechへの注目度が高まっており、毎年様々なFemTechがローンチされている。
日本の最新事例。「乳がん検診は痛い」というイメージを覆すかもしれないFemTechに妊活サプリ
一方、日本での先駆けは、2000年にサービスをスタートした生理日が管理できるサービス「ルナルナ」だ。2018年12月時点では、1300万以上アプリがダウンロードされており、日本を代表するFemTechアプリとなっている。
ルナルナはWWD JAPANの取材に対して、「これからは妊活・不妊治療のサービスや、お産環境をサポートできるサービスを開発しようとしている」と語っている。国内先駆けのFemTech企業の新たなサービスに期待したい。
また、LINEを活用したFemTechも。わたし漢方株式会社が運営する「わたし漢方」はLINEにアカウントを追加をし、いくつかの質問に答えると、一人ひとりの症状や体質にあった漢方薬を選んでくれるというサービスを展開中だ。
出典:「わたし漢方」公式ホームページ (LINE相談画面のスクリーンショット)
わたし漢方のLINEを追加後、5分くらいのアンケートに答えたのちに漢方アドバイザーから漢方を提案してもらえるという流れである。メンバー登録をすると、月々定額でアドバイザーに漢方の相談や注文することが可能になる。
そして今、国内で注目されているFemTech企業がある。2016年に設立されたスタートアップ「Lily MedTech(リリー メドテック)」は、新たな乳房用超音波画像診断装置「リングエコー」の開発を実現することにより、乳がん検診のあり方を変えていくという。
日本では11人に1人の女性が患うといわれている乳がん。現在、乳がんの早期発見をするために使われている、乳房専用のX線撮影装置はマンモグラフィーで、乳房を透明の板で圧迫して撮影する方法である。
この方法は、乳房を圧迫するため強い痛みを感じることがあったり、X線での検査になるので被ばくのリスクがあるのだ。しかし、Lily MedTechが開発する「リングエコー」は、リング状の超音波振動子が動きながら乳房を撮影するため痛みを伴うことがなく、超音波なので被ばくリスクがないのが魅力だ。
2019年7月にはアフラック・イノベーション・パートナーズより資金調達を受けており、開発スピードを向上させ量産化に向けて社内外での体制を整えていく予定とのことだ。
MEDERI株式会社が2020年3月にクラウドファンディングのCAMPFIREでスタートした、ウーマンウェルネスブランド「Ubu(ウブ)」は、妊娠を望む女性のために栄養素を凝縮したサプリメントだ。
クラウドファンディング公開24時間で目標金額200万円を達成したことでも話題となった。
サプリメントの他に、妊娠を希望される女性及びパートナーそれぞれに「妊娠・キャリア・子育て」などにまつわる問いかけをする「コーチングカード」もセットになっており、産婦人科医、助産師、管理栄養士などの専門家による24時間365日繋がるLINE相談窓口も行なっている。
オンラインとオフラインを融合して、自分の身体と将来に向き合う時間をサポートしていく。
苦しいのは我慢して当たり前。そんな女性の思考を一変してくれるテクノロジー
このように女性の健康状態やライフスタイルをサポートしてくれるFemTech製品が増えている中で、実際にサービスを使ったことのある方は、FemTechによって何か変化はあったのだろうか。今回は、テクノロジーに特化したクリエイティブ制作をしている株式会社ワントゥーテンの中間じゅんさんにお話を伺った。
中間さんは、仕事で行った女性のヘルスケアプロジェクトがきっかけでFemTechという言葉を知ったそうだ。「FemTechを知れば知るほど、月経や妊活、妊娠・産後のケア、更年期障害など、ライフステージごとの課題に沿ったソリューションがあることがわかり、より興味が深まった。」と当時のことを語っている。
これまでにApple Watchの「周期記録App」と、上でご紹介した周期管理アプリ「Clue」、そしてLINEで月経周期管理ができパートナーと共有が可能なサービス「PAIRCARE(ペアケア)」の3つのFemTech製品を使った経験があるそうだ。
サービスを使った感想を伺ったところ、このように回答してくれた。
「女性が女性のために作った製品がほとんどなので、機能性や使用感がストレスフリーで使いやすかった。私はPMS期に気分の波があり、生理前半は腹痛で憂鬱な日々を過ごしていたが、サービスによって体調の変化をある程度予測できるので、事前に過ごし方を工夫したりスケジュールを立てたりして、快適に過ごしている。
今まで健康の課題について、我慢することが当たり前だと思っていたが、FemTech製品の使用を始めたことで考えがガラッと変わった。サービスにより、日々気持ちよく過ごすことができるので、前向きな気持ちになった。」
中間さんは、FemTechの概念を知りサービスを利用することで、婦人科系の疾患に無知だったことに気付き、自らそれらのことを学ぶようになったという。それから、婦人科系の病気は早期発見が重要だということを知り、定期的に検診に行ったり、マンモグラフィーを受け始めたりと以前の生活や思考とは一変したそうだ。
海外に比べると、日本でのFemTechの認知度は低い傾向にあるのが現状だ。しかしFemTech市場が拡大することが認知の拡大につながり、より多くの女性の健康問題の改善や生活の質をあげることになっていくのだろう。そして、自分の体と向き合うことが多くなることによって、定期的に婦人科に通う女性が増加していくのではないか。
世界で注目されているFemTech市場。日本でもFemTechについて浸透してくること、そしてより多くの女性の健康問題を解決してくれることに期待したい。