2016.6.1

コレクションのライブ配信に「Grindr」を選択

ファッションブランドがコレクションのショーを実施する際には、多くのファション関係者やセレブ、ブロガー、そしてインスタグラマーが多数招待されショーの様子を伝えます。Bloombergの記事によれば“デザイナーとそのファンとのダイレクトな繋がりはブランド・ロイヤリティに多いに貢献し、かつミレニアム世代は広告で見た情報よりも自分たちのスマートフォンのフィードに流れてくる情報を信用する傾向にある”そうです。

現在各ブランドがSNSを駆使しようと頭を悩ませているところですが、ロンドンのファッションブランドのJ.W.ANDERSON(J.W.アンダーソン)が斬新なプロモーションを行い話題となりました。なんとゲイ向けマッチングアプリであるGrindr(グラインダー)にて2016AWコレクションをライブストリーミング配信したのです。

 

JWANDERSON AW16 LIVE STREAM grindr

J.W.ANDERSONさん(@jw_anderson)が投稿した写真 –

発表は2016年J.W.ANDERSONのInstagram(インスタグラム)アカウント上にて行われましたが、ユーザーの反応は“天才!” “最高”や、“Grindr?なぜ?” など様々でした。

Grindrは700万人が利用する同性愛者向けマッチングアプリ

Grindrは2009年にJoel Simkhai(ジョエル・シムカイ)によって創設された同性愛者向けのマッチングサービスアプリです。主にゲイに人気があり、GPS機能で自分の現在位置を特定し自分の周辺にいる出会いを求めている人とメッセージを送受信できる仕組みです。現在192か国でサービスを展開、利用者数は700万人に上り、常時100万人に利用されています。このアクティブユーザーは1日に平均54分をGrindrに費やすというから驚きです。
一見ファッションとは何ら関わりのなさそうなアプリですが、では一体なぜ今回このようなことになったのでしょうか?

Grindrはラグジュアリーブランドと並びPRを強化

昨年秋、GrindrはOgilvy&MatherやOld Navyでクリエイティブディレクターとして活躍していたベテランのLandis Smithers(ランディス・スミザーズ)を同社のマーケティングおよびコラボレーションのスピアヘッドとして迎い入れました。
Smithers氏のLinkedinではこれについて、新しいグローバルラ  イフスタイルブランドというコンセプトのもとにGrindrを発展させるため、と説明。
現に、その後すぐにそれまで自社内でプロモーションを行っていたGrindrは、NYやロサンゼルス、そしてパリを拠点にラグジュアリーブランドをメインクライアントに持つコンサルティング会社である「PR consulting(PRコンサルティング)」と契約をしました。

 

Hello, #Grindr. #PRClifestyle

PR Consultingさん(@prconsulting)が投稿した写真 –

PRコンサルティングのクライアントには「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」や「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」、「サルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)」など世界のハイブランドばかり。

ラグジュアリーブランドもGrindrは広告出稿に値する媒体と認識

また、PRコンサルティングのPierre Rougier (ピエール・ルージュ)と Sylvie Picquet-Damesme(シルヴィ・ピケ・ダムス)はWWDの取材にて、“Joel(Grindrの創設者及びCEO)は平等のためにGrindrに情熱的だし、私たちもLGBTQのコミュニティに前向きなメッセージを発信することにとてもやりがいを感じている。

ファッション業界にいる人々には私たちがGrindrをクライアントとして迎え入れたことは驚きだったかもしれないが、これは700万人を超える世界中のユーザーと100万人のアクティブユーザーを持つとても大きなプラットフォームだ。ファッションやライフスタイル、美容、ラグジュアリー産業はGrindrを、影響力や潜在能力を持つ消費者に届けるにはありえないプラットフォームだという見方はしないだろう。“と発言。


Grindr側とPRコンサルティング側の意見から両者が同じ目的に向かって良好な関係であることが伺えます。

ファッションは性的なプラットフォームでもある

そんな彼らの新しい挑戦の最初の動きは何だったのしょうか?それがつまり、今回のJ.W.ANDERSONのライブストリーミングだったのです。
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THE CUT より

ニューヨーク・タイムズのリポートによると、J.W.ANDERSONのデザイナーであるJonathan William Anderson(ジョナサン・ウィリアム・アンダーソン)は、同アプリをファッションの“性的“側面のハイライトとして選んだといいます。

彼はまた、“結局ファッションは性的なプラットフォームでもあるのだと思う” “我々はみんな人間であるから、皆誰かにとって性的に魅力的でなければならない。それはつまり衣服という名のゲームである。“とも発言。
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Vogue.com より
実際に彼のコレクション、特にメンズウェアでは性別の境界を曖昧にするようなエロティシズムが潜在的ではありますが、明白に見て取ることができます。

これらは今年1月のロンドン・ファッション・ウィークで発表され、Grindrでも配信された2016年秋冬コレクションの一部です。まるで女性もののようなシルエットのコートとジャケットが特徴的なルックですが、色使いやティールまでもジェンダーレスな雰囲気を醸しています。今回のコレクションではどのルックも透明なチョーカーをしていますが、肌の色が透けて見えてそれもまた色っぽさを感じさせます。

Anderson氏によると、J.W.ANDERSONは “性と美の境界を押し広げるために”常にアンテナを張っているといいます。彼はターゲットとする客層を拡張し、現在のファン層の多くはゲイやバイセクシャルの男性となっているのです。

米国では8,840億ドルも市場のある「ピンク・マネー」

ところで、「ピンク・マネー」というものをご存知ですか? これはLGBTの購買力を示した言葉で、ピンク・マネーによってもたらされたLGBTのための市場を「レインボー市場」と呼びます。このレインボー市場ですが、馬鹿にできないほどの成長を見せているのです。なんと2014年の調査ではアメリカにおけるピンク・マネーは8840億ドルに上り、全世界ではその数値は数百万兆となります。

つまり今回のGrindr×J.W.ANDERSONという一見関係のなさそうなもの同士のコラボレーションは、LGBTの経済活動の活発化、LGBT向けサービスを新たな方向に展開しようとするGrindr、そして性別という境界を取り払おうとするJ.W.ANDERSONのそれぞれ動きと目的が合わさって成し遂げられたものでしょう。

さいごに

まだまだ日本では馴染みがなく、どこが現実味のないLGBTという存在ですが、海外ではごく当たり前のように存在し、マーケット化しています。ですからGrindrのようなアプリが700万人ものユーザーを誇っており、J.W.ANDERSONを代表とする性別という概念を漸減しようとするファッションブランドが出現、手を取り合っているのだと思います。

日本で行うには少々難しいと思われるプロモーション方法ですが、実際に日本でもセクシュアルマイノリティ界隈では認知度も高く、利用者は増えています。Periscope(ペリスコープ)やSnapchat(スナップチャット)の様なライブ配信の親和性の高いSNSではなく、 Grindrの様なマッチングサービスでライブ配信を実施した事例は大変興味深く先進的な事例です。

今回の事例で見ても分かる様に、ライブ配信ツールでライブ配信をするのではなく、熱量のあるコミュニティやメディアであればその場を活用してプロモーションをかけるということが重要だと分かるのではないでしょうか。日本でも支持されているGrindrが今後どのような動きを見せていくのか注目です。

Written by
COMPASS編集部
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