イベントマーケティング・SNSマーケティングの情報を発信するWebメディア「COMPASS」(コンパス)は、3月29日「COMPASS Secret Salon Vol.2―オンライン・オフラインの垣根を越えたコミュニティづくりとはー」というマーケター向けイベントを実施しました。株式会社エイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)のコーポレート・コミュニケーショングループ 丹下陽一郎さんをお招きして、H.I.S.が仕掛ける旅する女性に向けたコミュニティ「タビジョ」の取り組みや、その成果についてお聞きした様子をお届けします。
スピーカー:株式会社エイチ・アイ・エス コーポレート・コミュニケーショングループ 丹下陽一郎
モデレーター:COMPASS編集長 石井リナ
ハッシュタグ#タビジョを付けた投稿は10万件以上
石井:H.I.S.さんは、旅する女性に向けた「タビジョ」というコミュニティを運営されていると思うのですが、取り組みを教えて頂いても良いでしょうか?
左)石井リナ 右)丹下陽一郎氏
丹下:「タビジョ」はユーザーコンテンツを活用したInstagramアカウントに始まる、旅する女性のためのコミュニティです。旅のきっかけや話題をいかに作れるのかというところが我々のミッションなのですが、FacebookやTwitterなどを活用し、コミュニケーションをとっていくなかで、自分たちだけでこのミッションを達成することは難しいなと感じていました。そうした課題があったなかで、Instagramと出会いました。風景の中に自分たちを溶け込ませて写真を撮影するという、アクティブに旅をする女性たちのリアルな写真をリポストしていく形で情報発信をしていけば、競合との差別化にも繋がると思いました。
タビジョのInstagram
石井:タビジョのアカウントは全てユーザーコンテンツで成り立っているんですよね。また、凄いのがタビジョのアカウントに取り上げてもらうために、旅した写真に「#タビジョ」というハッシュタグをつけられるのですが、既にその数は10万枚にものぼっていますよね。
#タビジョのハッシュタグ投稿は10万件以上
丹下:思い切って自分たちの素材ではなく、ユーザーの素材を借りてみようと思って始めたのですが、最初は連絡をとっても「あなたたち何者ですか?」というような冷たい反応もありました。ハッシュタグ「#タビジョ」をつけた投稿は1万枚を超えるのに、半年かかりました。しかし、そこから集まるスピードがあがり、今では1万枚の投稿数が、わずか10日で集まるようになりました。
みんなが主役になれる場を
石井:タビジョのInstagramでは、通常のフィードだけではなく、公式レポーターによる、Instgaram StoriesやLIVEも積極的に行われていますよね。具体的にはどういったコンテンツを配信しているのでしょうか?
公式レポーターによるInstagram Stories
丹下:公式インスタグラマーを数名選出して、実際に海外に行って頂き、Instagram StoriesやLIVE配信をしていただいています。フォロワー数だけで選出しているわけではなく、昔からコミュニティにいらっしゃるアクティブな方を選出しているんです。今年の1月の台湾を皮切りに、ハワイ、韓国、オーストラリア、バリ島などへご旅行していただき、旅の様子を発信してもらいました。観光局などのご協力もあり実現している取り組みです。
石井:公式レポーターなど、彼女たちを積極活用する背景には何があるのでしょうか?
丹下:アクティブなインスタグラマーたちは、我々だけが特別視しているわけではないんですよね。彼女たちは他の企業やブランドからも注目されています。多くの業種やサービスのアカウントがある中で、旅行の情報を発信している我々を、いかに注目し続けてもらい、深く関わって頂くかというところは重要なのかなと思います。
石井:タビジョの凄いところだと思うのですが「#関西タビジョ会」や「#沖縄タビジョ会」だったり、自然発生的にユーザーコミュニティが出来上がっていますよね。
自然発生したユーザーコミュニティ
丹下:これは嬉しい偶然でしたね。競合アカウントの公式インスタグラマーは、フォロワーが数万人以上いる場合が多いんです。タビジョの場合は、フォロワー数だけで優劣を付けるのではなく、みんなが主役になれる場をつくりたかったので、そうしたところがみなさんに喜んで貰えて、コミュニティも派生していったポイントなのかなと思っています。
石井:「#タビジョ」のハッシュタグを見て、タビジョは認識しているけれど、H.I.S.が運営していることは知らないユーザーもいるかもしれないなと思うんです。そこはどのように考えられていますか?
丹下:無理やり知って頂く必要はないかなと感じます。海外旅行においては、私たちのシェアもあがってきているので、海外旅行の喚起ができれば、おのずと弊社への流入も増えてくるのではと思っています。
コミュニティ形成後、ツアーの商品化へ
石井:タビジョはまさしくオンラインでコミュニティ形成した好事例だと思っているのですが、Instagramアカウントの他にはどのような施策をされているのでしょうか?
丹下:「Like the World」という旅に関するオウンドメディアを運営しており、タビジョのみなさんに、お気に入りのフォトスポットなどをご紹介いただく「タビジョマガジン」を作りました。現在までに40名前後の方に登場していただいています。他にも、SNSで反響のあるスポットを集めた「タビジョマップ」という施策も行っています。「タビジョマップ」もタビジョのみなさんの写真で形成しているのですが、掲載させていただくと、「取り上げられました」と喜んでくださる方も多いんです。タビジョのみなさんが喜んでくださるコミュニティづくりを愚直に行っています。
石井:オフラインの施策は行われているんですか?
丹下:表参道に「旅と本と珈琲とOmotesando」という弊社の店舗があるのですが、そこでタビジョの方に向けたリアルイベントを実施しています。世界一周をされているような方やタビジョ公式インスタグラマーの方に登壇頂いて、写真の撮り方を学ぶというようなワークショップも行いました。
石井:オンライン上だけでコミュニティ作りをするのは難しいと思われますか?
丹下:そうですね、オンラインだけでのコミュニティづくりもできないことはないと思いますが、実際にタビジョ同士も会いたいという気持ちが強いんですよね。リアルイベントには、北海道や関西から来てくださった方もいらっしゃいました。頻度の問題で、私たちから提供する場は、基本的にはオンライン上になるかと思いますが、リアルな場でオンライン上の友人に会えるというような結びつきの強い場所にしていきたいですね。
石井:そうなんですね。タビジョのコミュニティを通して、どのような成果に繋がっているのでしょうか?
丹下:タビジョのブランドでツアーが発売になりました。いまオーストラリアのバイロンベイという場所が人気急上昇なのですが、そこに行けるシャトルバスを走らせたり、#タビジョで投稿されるようなスポットを組みこみながら、ツアーを作っています。今後もタビジョのみなさんとコミュニケーションをとって、より望まれる商品にできたらいいなと思いますね。
石井:素敵ですね!最後に今後の展望を教えて頂けますか?
丹下:まだまだ願望みたいなところもありますが、「情報感度が高く、旅や写真を撮るのが好きで、何事にもアクティブ」といったタビジョの方々の特徴に、シナジーのあるような他の企業の方とタイアップもしてみたいなと思いますね。他には、自発的に立ち上げていただいた各地の「タビジョ会」のようなユーザーコミュニティの活性化、プラッシュアップですね。写真展や、彼女たちの写真で作ったガイドブックの販売、タビジョ専用のカウンターも作ってみたいです。そして、ビジネスへの貢献の可視化として、タビジョツアーの販売数にはこだわっていきたいと思っています。
石井:本日はありがとうございました!
Instagramに始まり、オウンドメディア、リアルイベントなど各チャネルを行き来して、形成した「タビジョ」コミュニティ。10万件のハッシュタグ投稿があること、自然発生的にコミュニティができあがっていることを見ても、H.I.S.が作り上げたコミュニティの熱量を伺い知ることができます。企業がすべきファン作りという点において、非常に参考になるモデルケースなのではないでしょうか。
Interview photo:ENO SHOHKI