こんにちは、編集長の石井リナです。
「ELLE」と言えば、モードファッション誌として有名ですが、プロモーション分野で切り取ってみても、最先端な事例を創出し、新しい取り組みをされていることでも知られています。ELLE ONLINE 20周年を祝し、Facebook、Twitter、Instagram、Snapchatの4つのSNSを横断してプロモーションを行ったこともあり、そちらのプロモーションについてお伺いしてきました。 また、今の時代にどのように雑誌社がSNSと向き合うべきか、ハースト婦人画報社エルコンテンツ部編集長代理の富永さん、SNSエディターの中村さんと対談させて頂きました。
4つのSNSを横断したプロモーションを実施
石井リナ:ELLE ONLINE20周年を記念して、4つのSNSを横断したプロモーションを実施されましたよね。こちらの概要を教えて下さい。
中村さん:「エル」はウェブマガジン「エル・オンライン」の20周年特別企画としてパフォーマー、俳優として活躍されているEXILE AKIRAさんをゲストに迎え、4つのSNS(Facebook・Twitter・Instagram・Snapchat)を横断したプロモーションを実施しました。
左)富永さん 右)中村さん
石井リナ:どのような内容だったのしょうか?
中村さん:企画名が「My Date With EXILE AKIRA」という名前なんですが、AKIRAさんとデートをしている様な気分が味わえる様なコンテンツを各SNSに合わせて配信しました。主にInstagramが主軸のプロモーションだったのですが、1日の時間軸に沿いドキュメンタリー風に動画を配信しています。7月17日に1日かけてリアルタイムで配信しました。
▼Instagram投稿
石井リナ:その他のSNSはどの様に活用されたのでしょうか?
中村さん:その他のSNSはInstagramの投稿前までの告知や舞台裏を配信する形で活用していました。Faceebookでは、舞台裏や関連情報を随時配信し、Twitterでは、事前募集した質問ツイートにご本人がリプライする形でコミュニケーションを取り、Snapchatは撮影当日に舞台裏をリアルタイムで配信していました。
▼Twitter投稿
.@rj_ri92308 #EXILE_AKIRAに質問 pic.twitter.com/YefFXnLn0S
— ELLE Japan (@ellejapan) June 16, 2016
▼Snapchat投稿例
石井リナ:TwitterのQ&Aは芸能人やメディアに開放されている特別なサービスのものですね。また、Snapchatを活用したプロモーションも日本ではなかなか少ないので、先進的な事例ですよね。
Snapchatのフレンド数は1,000人超え
石井リナ: Snapchatを活用したプロモーションの反響はどうでしたか?
中村さん:Snapchatの配信日は、現場が特定されてしまうと撮影に支障をきたすことが想定されたのでXDayとしていたのですが、事前告知もしていたので、Snapchatのフレンド数は1,000人を超えました。開設して間もなかったのですが、相当反響があったと思っています。
石井リナ:私も今回のプロモーションはアドバイザーの様な形で携わらせて頂いていたのですが、反響を聞いて驚きました。日本企業のSnapchatのフレンド数でもトップクラスではないかと思っています。ELLEがSnapchatを活用したプロモーションを行う意義はどの様に考えていらっしゃいますか?
左)富永さん 右)中村さん
富永さん:Snapchatはポップユース・カルチャーに精通している20代の若い子たちはアクティブだと思うのですが、まだ日本ではマスなSNSではないですよね。ただ、私たちがプロモーションで活用することで、もう少し上の年代の人たちが、ダウンロードし、手にとってくれる機会が増えるのではないかと思ったんです。
石井リナ:Snapchatのユーザー数自体をELLEが伸ばしていくという気負いですよね。
富永さん:そうですね、また今回、AKIRAさんとの面白い取り組みが出来たので、そういうタイミングで豊かな表現がしたかったという点もあります。
4媒体横断も不自然なことではない
石井リナ:4つのSNSを横断するプロモーションってなかなか体力のいるプロモーションだと思うのですが、なぜトライしてみようと思われたのでしょうか?
中村さん:私たちの企業理念に「360度展開を目指す」というものがあるんです。つまり、紙やオンライン、SNSなどの各メディアプラットフォーム、どこから見ても100%のパワーで発信していくということなんです。他の出版社さんだと、紙が第1で、SNSはサブの様なポジションかもしれませんが、私たちにとってはそうではないんですよね。
左)富永さん 右)中村さん
石井リナ:出版社の中では、特に先進的なマインドですよね。また、現代の出版業界の中でも、ELLEのみなさんは、デジタルリテラシーの高い方々だなという印象があります。
中村さん:そうした企業理念を掲げているので、私たちにとって4つのSNS横断ということはそこまで不自然なことではないんです。
石井リナ:今回のプロモーションにおいても、Snapchatの時間表記を模倣していたり、SNSのTwitterリプライの様子を差し込んでいたりと、細部までこだわり抜かれている印象があるのですが、そこまでされる理由は何なのでしょうか?
ELLEMEN Instagramアカウント より
中村さん: 中村さん:以前、AKIRAさんのスナップをInstagramに投稿させて頂いたことがあって、それをご本人がリグラムして下さったんです。そこから関係が深まり、今回の企画がスタートしたのですが、ファンの方々からの反響が大きくて、生半可な気持ちでは向き合えないなと思いました。AKIRAさん自身も良い意味で、こだわりが強い方なので、お互い良いモノを作ろうと努力しましたね。
オフライン・オンラインという考え方もダウントレンド
石井リナ:出版業界において、お金を払って購入してもらう雑誌と、無料で閲覧できるSNSの棲み分けが難しいという話を聞くのですが、どう思われていますか?
中村さん:以前は、紙からオンライン、SNSへなどという流れをどう汲み取るかと悩んだ時期もあったのですが、Instagramのエヴァ・チェン氏の話を聞いたときに、「オフライン、オンラインで共存する必要はない、それぞれのメディアを確立させればいい」と話してたんですね。それからは「エル」の空気を大事にしながら各メディアの特徴を活かしてオリジナルコンテンツも大切にしながら運用していますね。
左)富永さん 真ん中)中村さん 右)石井リナ
富永さん:山をイメージしてほしいんですけど、入り口ってたくさんあると思うんです。なだらかなコースもあれば、傾斜が急なコースもありますよね。「エル」というブランドを形成している私たちにとって、雑誌、オンライン、SNSなど入り口は何でもいいと思っています。どのコースを辿っても頂上にある「エル」に辿り着くと思うので。
石井リナ:それは面白いですね。個人的、とても腑に落ちる表現です。
富永さん:雑誌は、制作に1ヶ月かけられるという所が強みでしょうし、SNSには気軽さや親しみやすさというメリットがあるし、それぞれ、出来ること表現すべきことが違うんですよね。そうしたことを踏まえれば、無理してオンラインメディアが雑誌のコンテンツ内容を目指す必要もないでしょうし、SNSをやらないと、と振り回されることもなくなります。
左)富永さん 右)中村さん
石井リナ:柔軟な発想ですね。まさに仰る通りだと思います。
富永さん:私たちも試行錯誤してきた過去があるのですが、今は自然と、それぞれがすべきことや出来ることを把握しあえている状況があると思います。何が上とか下とか、オフライン、オンラインっていう切り分けもダウントレンドに感じますね。
石井リナ:確かに人の欲求もオフライン・オンラインの切り分けがないシームレスなものになってきていますよね。何の情報を得たいか、何の体験をしたいかという欲求のあとに手法を考える方がベターですね。本日はどうもありがとうございました!
ELLEのお2人と対談をさせて頂き感じたことは、良い意味で、紙の人達であるというイメージがないということでした。360度展開を掲げ、どのようなプラットフォームでもパフォーマンスを発揮できる様に努めるとお話する姿や、場所に合わせた柔軟なコンテンツ提供は、あるべき姿ではないでしょうか。
彼女たちが話すように、オフライン、オンラインという考え方も2016年のいまダウントレンドかもしれません。ユーザーの欲求がどこにあるのか、その情報提供としてどういう形がよいのか、よりシームレスに考えていく必要がありそうです。
Photo:ENO SHOHKI