ほとんどの人が一度は経験するであろう、就職活動。企業と学生、双方の価値観や志向性がマッチすることで“採用”となるわけですが、そこに至るまでの過程でお互いに本音で語り合うことはできているでしょうか?
「弊社を志望した理由はなんですか?」
「私が御社を志望して理由は〜〜〜」
きっと多くの人は“相手に求められている”であろう答えを事前に用意し、それを話します。そのため、就職活動においてお互いの本音がぶつけられることは、ほとんどありません。
そこに着目し、一風変わった説明会を開催した会社があります。その会社とは博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ。同社は2017年4月8日〜12日にかけて開催した自社説明会内の特別プログラムとして、「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」を開催しました。
この説明会は、特殊な技術によって社員の説明に対するモヤモヤ度を測定し、モヤモヤ度が高かった説明をした社員には、上司や後輩、同僚、家族といった身近な存在がサプライズで登場し、改めて同じ質問に答えるように促す、というもの。“普段の自分”を知る存在が現れたということで、社員は本音で話さざるを得ないというわけです。
なぜ、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズは「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」を開催しようと思ったのか?その裏にはどんな狙いがあるのか?今回、株式会社博報堂 マネジメントプランニングスーパーバイザー 西本裕紀さん、アクティベーションプラナー 関谷拓巳さんに話を伺ってきました。
建前だけのコミュニケーションは企業と学生、お互いに不幸
ーー「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」を開催することにした、きっかけは何だったのでしょうか?
西本:まず、前提の部分から話をしたいと思います。弊社は毎年、採用活動を行うにあたって、いろんな会社と同じように会社案内の冊子を作ったり、Facebookページを作ったりしていますが、それ以外にWebコンテンツの作成に力を入れていて。毎年、人事と現場のプランナーが一緒になって企画を考え、自社のHP(ホームページ)内にコンテンツを展開しています。ちなみに過去は、『HAKUHODO FUTURE ME』『HAKUHODO DNA』などのコンテンツを作りました。
なぜ、Webコンテンツの作成に力を入れているのか。それは、ひとりでも多くの学生に「広告会社はこうやってアイデアで人を動かすことが仕事なのか」と分かってほしいからです。面白いと思えるような仕組みを取り入れたコンテンツを作成し、それを実際に体験してもらう。それによって、「広告会社っていいな」と思う学生がひとりでも増え、エントリーの母集団を拡大していくことが主な狙いになっています。今回の「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」も、そうした数あるコンテンツのひとつという枠組みで、現場のプランナーと一緒になって企画から考えていき、誕生したものです。
左)西本裕紀さん 右)関谷拓巳さん
企画を考えるにあたって、プロジェクトメンバーと「今年っぽいものは何か?」をテーマに挙げながらブレストを行なっていきました。さまざまなアイデアがあったのですが、自分が人事として全国に説明会をしにいく中で、学生から会社内のキャリアやプライベートとのバランスなど、会社の“本当の姿”を探るような質問をたくさんされました。これが学生側のインサイトだと思い、プランナーに共有して具体的なアイデアに落とし込んでいった結果、あの形になっていきました。
また、従来の就職活動に課題意識はもちろんあります。企業と学生、お互いが自分のことを良く見せるために建前でのコミュニケーションが中心となっていて、もっと本音で話し合う関係が作れないか、と思っていたんです。企業からすれば、採用のミスマッチにつながってしまいますし、学生からすれば「こんな会社だと思っていなかった……」という事態に陥りやすくなってしまう。それってお互いに不幸なことだな、と。
だからこそ建前を抜きにして、本音で語り合う環境を用意することはすごく意義があることだと思いましたし、「お互いに本音で語り合おうよ」というメッセージを広く届けるために、この説明会を開催しました。そのため、他社さんで同じようなことをやりたい、という方が出てきたらとても嬉しいですね。喜んで私たちのノウハウを全てお渡ししたいと思っています。
ー 企画を形にしていく中で大変だったところはありますか?
西本:かなりブレストをやって企画が出来上がっていったので、そこは大変でしたね。
関谷:毎年、何かしらのコンテンツを発信しているので、どんな企画にするか、すごく悩みましたね。それに加え、これまではWeb限定でのコンテンツ展開だったのですが、今年は世の中の流れ的にも違うことをやりたい、ということでかなり時間を使って考えました。
また、自分はプランナーとして関わったのですが、博報堂・博報堂DYメディアパートナーズという会社の名前を背負って取り組んでいたので、プレッシャーがすごかったです(笑)。
「面白い」を通り越して、「好き」になってもらえた
ー 実際に開催してみて、学生からの反応はいかがでしたか?
西本:他の説明会の場で「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」に参加した学生たちと直接話す機会があったのでですが、感想を聞いてみたら、多くの学生に「博報堂・博報堂DYメディアパートナーズのことが好きになった」と言ってもらえました。それはすごく嬉しかったですね。
個人的に「面白い」と「好き」の間には高いハードルがあると思っていて。単純に面白いだけのコンテンツはこれまでも出来ていたと思うのですが、そこから一歩踏み込み、「好き」になってもらえた。これはひとえに社員の魅力があってこそだと思いましたし、そこにアイデアがうまく乗っけることができたのかな、と思います。
ー サプライズされた社員から、何か言われましたか?
西本:社内でも広く慕われていて懐の深い社員を選んだのですが、面白がってくれたのではないかと思います(笑)。何か面白いことを企てて、実行する人たちが集まっている会社なので、理解があると言いますか、うまく巻き込まれてくれました。
ー 実際にエントリー数が増えるなど、効果はありましたか?
西本:今年は広告業界に限らず、学生が志望業界を絞り込む傾向が強く、各社のエントリー数が軒並み減っているという噂を聞くのですが、弊社は昨年と変わらずなので、健闘している方かなと思います。
「粒ぞろいより粒違い」を実現するために
ー 毎年、新たにWebコンテンツを考え、展開されているとのことですが、採用においてどのような課題感があるのでしょうか?
西本:弊社は以前より「粒ぞろいより粒違い」という採用方針を掲げています。これは全社員に同じ能力や価値観を求めるのではなく、それぞれが持っている個性やバックグラウンドを重視するというものなのですが、既存の採用方法では“広告業界に興味のある人”の母集団しか形成できない。今まで広告業界に興味はなかった人にもアプローチしていき、より多様なバックグラウンドを持った人の母集団を形成し、採用につなげていきたい思いがありました。
そのため、不特定多数の人にアプローチできるWebという場所で、面白いコンテンツを展開していくことにしました。また、こうした取り組みを通じて、綺麗な広告を作るのが仕事ではなく、人の気持ちを動かすことが醍醐味だと思うので、そういったところを分かってもらえれば、という思いもありました。
ー 最後に今後の展望を教えてください。
関谷:今回の説明はサプライズだったので、継続していく予定はありません。来年は、きっとその年の動向を踏まえたコンテンツを作っていくことになるのかな、と思います。
西本:個人的には、これまでの取り組みも踏まえて、もっと地方の学生に見てもらえるようにしたいですね。まだまだ弊社は地方の学生からの知名度は高くないので、こうした取り組みを継続的に続けていき、地方の学生からのエントリーも増やしていきたいと思います。
ー ありがとうございます!今後の取り組みも楽しみにしています!
今年の4月に開催された「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」。決して奇をてらったわけではなく、従来の就職活動のあり方に向き合うとともに、自社にとっての理想の採用を真摯に考えられているのが印象的でした。着飾った姿ではなく、ありのままの姿を見せることでファンにする。採用に限らず、日々のマーケティング活動にも通ずる考えではないでしょうか。
Photographer:Shohki Eno