FacebookやTwitterのタイムラインに配信されている動画コンテンツ。「分散型メディア」が注目を集めてから、表示回数はさらに増したように思います。
様々なメディアが試行錯誤を繰り返している中、大人のトラベル&カルチャー動画マガジン 「ルトロン (LeTRONC)」は各プラットフォームの特性に合った動画コンテンツを配信することで、着実にメディアを成長させていっています。
わずか半年で月間40万UU、1000万リーチを記録しているルトロン。今回、運営会社である株式会社オープンエイト代表取締役社長兼CEOの高松雄康さんにSNSでウケる動画の要件、分散型メディアの今後などを伺ってきました。
ルトロンにしかない4つの強み
石井リナ: スマホ動画メディアが続々と立ち上がっていますが、ルトロンの強みはどこにあるんでしょうか?
高松:ルトロンの強みは大きく分けて4つあると思っています。それはトラベル領域への挑戦、クオリティの高さ、制作本数、そして多彩なコンテンツパートナーですね。
まずトラベル領域への挑戦について話すと、これだけ多くのスマホ動画メディアが立ち上がっているにも関わらず、トラベル領域に取り組んでいるメディアが一つもない。それはなぜか、制作コストがとにかく高いから。ロケに行かなければコンテンツが作れないので、すごく大変なんです。それをきちんとやれているのは強みだと思いますね。
高松: コンテンツの特徴としては、ひたすらクオリティを重視し、大人の女性が行きたくなるスポットを紹介しています。他社にはない事例でいうと、六本木アートナイトのコンテンツが特徴的です。六本木アートナイトは金土日の3日間で開催されたイベントなのですが、金曜日に撮影に行き、その日のうちに編集して、土曜日にコンテンツをアップしている。ユーザーを動かすことを考えると、土曜日までにコンテンツをアップすれば、今まで六本木アートナイトに興味がなかった人たちにもアプローチできる。これを分散化メディアで実現できるところはないと思っていて。ルトロンの主力コンテンツの一つになっています。
石井リナ: どれくらいの方たちがコンテンツ制作に携わっているんですか?
高松: 企画・編集を行っている社内メンバーは8人。外部のカメラマンなどを含めると、全部で25人くらいだと思います。
石井リナ: 意外と少ない……。結構な頻度で更新されているので、もう少し多いのかと思ってました。
高松: 制作本数に関しては、仕組み化されていることが大きいですね。一般的に動画制作って労働集約型の仕事なんですけど、ルトロンではマニュアルを作り、役割分担をしている。きちんと仕組みを構築できているからこそ、月に200本以上の制作本数を維持できています。
コンテンツパートナーに関しては、Yahoo BeautyやTRILLといったメディアにコンテンツを配信していますし、今後LINE NEWSにも配信される予定です。他社との違いだと、渋谷区観光協会の公認メディアに選ばれているのは特徴的だと思います。
渋谷区観光協会とは、ハロウィン特集を作ったり、年末カウントダウン特集を作ったり。大きなイベントに合わせて一緒にコンテンツを作っていくことが決まっています。これを一つのモデルにして仕組み化することで、どんどん横展開していきたいですね。こういった点が他社にはないルトロンの強みだと思います。
オーガニックリーチを伸ばすためには?
石井リナ: 半年で40万UUを獲得されているそうですが、どこが一番ユーザーに認められている部分だと思いますか?
高松: “コンテンツ is キング”という言葉がある通り、結局はコンテンツなんです。今はうまくいっているように見えるかもしれないですが、実は僕たちも立ち上げ当初はすごく苦戦していて。画像や動画はクオリティーが高いし、見た目も良かったんですけど、逆にそれがプロモーションビデオ(PV)のような綺麗な映像になってしまい、ユーザーに全く響いていなかった。それは数字に顕著にあらわれていました。
ソーシャルでのリーチ数を稼ぐために広告を投下し、リーチ数を伸ばすことはできていたのですが、オーガニックリーチがすごく伸び悩んでいた。
石井リナ: 何が原因だったんでしょうか?
高松: いろいろ原因を分析してみて、最終的に出た答えは“コンテンツがユーザーに刺さっていない”ということ。組織から仕組みまで、すべてのことを見直してコンテンツの中身を変えていったら、一気に変わりましたね。今は広告投下をほとんどせず、オーガニックリーチだけでメディアを成長させられています。
分散型メディアにおいて、重要なのはリーチ数ではなくエンゲージメントの数なんですね。“いいね!”やリツイート、コメントなど何でもいいのですが、ユーザーがどれだけ反応してくれたかが大切。
結局、リーチ数なんて広告を投下すれば数字を作れてしまうんです。そんな数字に意味はないので、コンテンツの質を上げて、ユーザーのエンゲージメントを高めることに注力すべき。そうすればメディアも自然とグロースしていくんじゃないでしょうか。
雑誌のリプレイスではない、目指すべきは「ポケモンGO」
石井リナ: リリース後からルトロンの動画は綺麗だなと思っていたのですが、具体的にどこを変えていったのでしょうか?
高松: キーワードとコンセプトを設定してから、企画会議をするようにしました。そうすることで、自分たちが重要視しているキーワードとコンセプトに合わない企画は全部弾かれていく。それをやり始めてから、“メディアの色”が出てきたように思います。
石井リナ: 他にも決められているルールなどはありますか?
高松: 何年経っても見られる、ストックコンテンツを意識して制作を行っています。そのため、ルトロンにはタレントが一度も出てきたことがない。
タレントを出すことで話題になり、ビュー数を稼ぐことはできると思いますが、あくまでそれは一時的なもの。著作権も発生してしまうし、いつ見られなくなるか分からない。トラベル、カルチャーの領域は1年後、2年後に見られるかもしれないので、ストックコンテンツになることを強く意識しています。
石井リナ: なるほど。ルトロンが目指しているのは、雑誌のリプレイスですか?
高松: もちろん雑誌のリプレイスも考えていますが、理想の形はポケモンGOですね。僕たちは最終的に動画コンテンツを通じて、ユーザーを動かしたい。
石井リナ: 「ルトロンを見て◯◯に行った」というのを増やしたいんですね。
高松: そういうことです。最近になって、ジムに入ることを決めた人や、演劇×ダイニング「劇メシ」を予約した人の事例を耳にするようになりました。これが自分の考える、「人を動かす」ということで、そういう意味では雑誌のリプレイスでもあり、テレビ番組のリプレイスなのかもしれません。一概に何かのリプレイスとは言えないですね。
注目を集める分散型メディア。今後の行方は?
石井リナ: ということは、メディアのKGIはエンゲージメント率になりますよね。
高松: はい、その通りです。エンゲージメント率を最重要視しています。
石井リナ: シェアやリツイートされるものはエンゲージメント率が高いことは分かるのですが、一方でシェアされてないけど響いているものがあるなと思っていて。そのあたりの見分けは結構難しいと思っているのですが、どのように考えていますか?
高松: これは前職での経験が大きくて。圧倒的なメディアの作り方って、濃くすることが全てなんです。「コンテンツを見て、いいな」と思ってもらえることは嬉しいですし、ユーザーがたくさんいてくれるのはいいのですが、最も大事にしたいのはルトロンを毎日見てくれるユーザー。
その人たちは間違いなく“いいね!”を押したり、シェアしたり、何かしらのアクションをする。それは能動的にルトロンと関わりたいと思っているから。例えば@cosmeは口コミを書き込むユーザーが重要で、クックパッドはレシピを投稿するユーザーが重要ということと同じだと思っています。まず濃くする。そして濃くしてから広げていくのがいいと思います。
石井リナ: いま、FacebookやTwitter、Instagramなど様々なメディアを運用されていると思うのですが、同じ動画をアップしたときの反応に違いはあるのでしょうか?
高松: 全然違いますね。例えば最近、プロレスを教えてもらえるジムの紹介動画をFacebookとTwitterで配信したとき、反応が大きく異なりました。Facebookはエンゲージメント率が低かったんですけど、Twitterは過去最高の数値を叩き出した。
石井リナ:それはプラットフォームの特性の違いが大きそうですね。
高松:Twitterの方がトレンド好きが多く、話題になりそうなものに反応する傾向があると思っています。一方、FacebookとInstagramは詳細のデータがなく感覚値になってしまうのですが、トレンドがどうこうではなく自分が興味持ったものに対して反応する人たちが多いな、という気はしていますね。
石井リナ: ありがとうございます。最後に、分散型メディアは今後どうなっていくか、どのように考えられていますか?
高松: 分散型メディアも分散化させることが目的ではないし、コンテンツのディストリビューション先がユーザーの存在している場所になっているだけ。市場的にメディアのポジションが変わるかと言われると、そうは思わない。
コンテンツデリバリーの仕方は変わるけど、メディアのポジション自体が大きく変わる可能性は少ないと思っています。コンテンツデリバリーに関して、今までは検索エンジンが最強だったから検索してメディアに来てもらう仕組みをいかに作るか。そこに注力していたんですけど、検索をしない時代になってしまった。
それから、自分たちのメディアのコンテンツを各プラットフォームで見てもらうためにはどうしたらいいかを考えるのが仕事になっていった。それが一番大きく変わったことだと思います。ただ置いておけばいいということではなく、各プラットフォームの置き方を考える時代になっていると思いますね。
石井リナ:例えばですけれど、いま多くのフォロワーを持っている、Facebookが廃れてしまったら、どうしますか?
高松: 自分たちはその事態が起きるリスクも想定しているので、プラットフォームを主軸にビジネスを考えていない。やっぱり、プラットフォーム依存のビジネスは厳しいと思っていて、あくまで手段としか捉えていない。
もし、Facebookが見られなくなったら、次のプラットフォームとどう組んでいくかを考えればいいだけだと思っています。
石井リナ: 細かい運用の話までお伺いすることができ、とても勉強になりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました!
「動画元年」とも言われた2016年。分散型動画メディアの数はすごい勢いで増え続け、その多くはリーチ数獲得のために、資金を投下する。いわゆる“ゲリラ戦”の様相を呈している中、早い段階で方針を切り替えたのがルトロンです。コンテンツの“質”にこだわった動画を各プラットフォームに適切に配信することで、成長を遂げています。サービスのグロースを意識してしまうと、情報発信者として最も重要な“コンテンツの質”がついつい忘れられてしまいがちですが、それではメディアのファンは増えていきません。正しい情報を、きちんとしたクオリティで届ける。それこそが最も大事であるということを、ルトロンの話を聞いて、改めて痛感しました。今後の動向も引き続き、チェックしていきたいと思います。
Interview photo:ENO SHOHKI