時代を彩るアイコンに会い、ミレニアル世代の実態に迫る企画「#ミレニアルズ解剖」。今回は国内最大級のLGBT向けメディアを運営する「GENXY(ジェンクシー)」の代表取締役伊藤萌美さん。脱サラし起業、そしてLGBT向けのメディアを運営するに至った彼女。
立ち上げた背景や想い、そして運営していく中で起こった気づきとは。そして彼女がLGBT業界と向き合ってきた5年の中で、社会からLGBTに向けられる目線はどのように変わったのでしょうか。
強い想いがあったわけではない
—まず、会社を立ち上げた経緯を教えてください。
伊藤:前はネット企業で働いていて、いろいろあり思い切って会社を辞めました。会社を立ち上げたのは5年前です。当時は会社を辞めたくて自分で何かしたかったので、会社をやろうと。最初はメディアではなく通販ECサイトをやっていたのですが、メディアに舵を切ったのが3年くらい前です。
その当時は、ゲイ向け雑誌はあるものの、ネットメディアで質の良いものがなかった。そこでゲイの編集長を据えて、LGBT向けのライフスタイルメディアとして始動しました。
—「GENXY」(ジェンクシー)について教えてください。
伊藤:ジェンクシーは、LGBTの方々(主にゲイ男性)向けに情報提供を行うネットメディアで、LGBT専門メディアとしては国内最大規模のユーザー数(現在20万強)です。
国内外の最新LGBTニュースから、エンタメ、ライフスタイル、ラブ&セックスまで総合的に扱っていて、当事者の生活を豊かにする有益な情報提供を心がけています。
—メディアといってもなぜLGBTについてだったのでしょうか?
伊藤:私が高校の時にキリスト教系の学校に通っていたのですが、同性愛にも比較的寛容で、「誰であれ隣人を愛せよ」という教えだったんです。あとは身の回りにLGBTの人が多かったというのもありますね。
—何か強い想いがあったのでしょうか?
伊藤:これを言うと意外に思われるのですが、実はそういう強い想いは無かったんです。
というのも、私はアライですが、LGBT当事者でないので、積極的にコミュニティーに入り、「権利を獲得しよう!」と主張するのはおこがましいかなと。
LGBT権利運動はアクティビストの方やNPO団体に任せて、私たちはLGBTの方のライフスタイルを向上するべく何かできないかと。それが生活を豊かにする有益な情報提供(=メディア)だったんですよね。
—日本でLGBT向けメディアを運営する上で懸念などはあったのでしょうか?
伊藤:元々欧米ではLGBT向けのメディアがたくさんあり、広告出稿も多く行われていることは知っていたので、日本でできないことはないだろうと。むしろ日本だとそれほど宗教に関する問題やヘイトスピーチが盛んではないから、上手くいくのではないかと思っていました。最近になって日本でもやっとLGBTが認知されはじめて、時代が追いついてきた感覚ですね。あとは、いつも頑張ってくれている編集長に感謝しています。
—なるほど。もちろん単なる一種のセクシャリティなので、難しいかと思いますが、ゲイの方たちの傾向とかってありますか?
伊藤:ゲイの方は旅行好きがとても多いですね。海外のゲイイベント、グルメ、リゾート、娯楽を求めて。特にタイ、台湾などのアジア圏は頻繁に旅行する人が多いです。
ゲイの方達は、SNSや出会い系アプリなどを駆使して、旅先の現地の人とつながって交流をするなど、ストレートには考えられないほどアクティブに旅行を楽しみます。
あとLGBTの方達はネットリテラシーが高いといわれていますが、本当にその通りだと思いますね。
—広告出稿されるような、LGBTを意識されているような企業は、どのような業種が多いのでしょうか?
伊藤:特定の業種に偏ってはおらず、多種多様な企業にご出稿いただいています。ですが多いのは、美容家電、嗜好品、アパレル、旅行関連など。GENXYはメディアの特性上ゲイ男性が7割以上なのですが、彼らも普段は社会で働く一般男性なので、消費ジャンルはストレートの独身男性と大差ないんですよ。
ただ、ストレート男性に比べて自己投資思考が強いので、美容、アパレル、旅行などに高い消費が見られるのは確かです。
寛容になったからこその「ちぐはぐ」も
—LGBTを取り巻く環境の変化は起きていると感じられていますか?
伊藤:最近は「LGBTブーム」としてメディアに取り上げられることも多いですが、まずは90年代初頭に第一次ゲイブームがあったんですよ。今は第二次ゲイブーム(LGBTブーム)ですよね。
日本で「LGBT」という言葉が社会に認知されるようになったのはここ数年です。それに伴って若い当事者はセクシャリティをオープンにする人が増えてきている印象です。海外からの情報もどんどん入ってくるので、特にミレニアルズ世代はLGBTに寛容な人が多いですよね。セクシャリティ云々ではなく、人は人、自分は自分、という考え方なんでしょうか。
—社会が寛容になってきたということなんでしょうか。
伊藤:都市部はそうですが、地方だとまだまだですよね。地方だと単純に人口が少ないので、LGBTも少ないし、情報量も少ない。そうなるとセクシャリティをオープンにはしづらいので、とても生き辛い環境だと思います。
あとは、LGBTという言葉は知っていても、勘違いをしている人は多いでしょうね。
—例えばどのような勘違いでしょうか?
伊藤:特に女性に多いですが、「わたしゲイの友だちが欲しかったの!」と、その人のキャラクターではなく、ゲイという表面的なものしか見ていない人が多いです。
あとは「最近LGBTブームだから、これからLGBTになる人が増えるんじゃないの?」という人もいます。
ゲイ&レズビアン&バイは”誰を好きになるか”という性的指向であり、トランスジェンダーは性自認なので、「流行ってるからヤる、飽きたからヤメた」といったトレンドではありません。
LGBTが話題になればなるほど、そういう間違った認識を持つ人が多いです。日本は過渡期なのでしょうがない部分はありますが、LGBTを特別視せずに「ストレートの人たちとなんら変わらない普通の人なんだよ」ということを理解してほしいし、それを広めていきたいですね。
―欧米と日本のLGBTへの理解度の違いは感じますか?
伊藤:そうですね。例えば、海外ドラマではよくLGBTの人が出てきたりするじゃないですか。あとはハリウッドスターでカミングアウトしている人も多いですし。
日本だと映像作品でLGBTが描かれることは少ないし、描かれたとしても誇張されたオネェだったり笑いのネタにされるような端役だったりと、本質的な理解が進んでいないですね。
アメリカでは、芸能人もそうですが、様々な業界のプロフェッショナル(政治家、弁護士、企業のトップなど)がカミングアウトしています。日本はまだまだ少ないので、各業界のアイコンとなる人物が重要ですね。
「編集部では自分がマイノリティ」
—伊藤さんがGENXYを立ち上げて、思ったことや変わったことはありますか?
伊藤:実は、編集部では私だけストレートなんですよ。編集長もエディターも、外部ライターも全員ゲイ&レズビアン。LGBTの方は社会全体ではマイノリティですが、会社では私がマイノリティで、LGBTがマジョリティと逆転しています。
私はストレートなので、LGBTの方のサポートはできても本質的にわからない部分が多々あります。ですが、今の環境だとマイノリティという立場を感覚的に感じることができるんです。たまに、その中に自分が居ることによって話についていけなくなったり、肩身の狭い思いをしたこともありますが、逆に良い経験ですね。
—自分がマイノリティだと感じられる経験は、普段はなかなかない経験ですよね。
伊藤:マイノリティの感覚って、海外旅行した時と似ているなと思います。日本人は欧米に行くとマイノリティだし、それはそれで新たな発見がある。マイノリティという立場からしか見えないことがあるし、そこから学べることもあるから。
—最後に、今後のGENXYの展望を教えてください。
伊藤:会社としてメディア以外にも複数事業を展開しているのですが、これからやりたいことは、何かコミュニティースペースを作れたらと思っています。場所は新宿二丁目で、昼から夜までリアルな溜まり場としてのカフェとかオープンテラスのフードコートなどがあったら、みんなが集まれる心地よい場所になるかなと。
今はSNSなどのネット全盛の時代ですが、コミュニティーはリアルな場所があることで根付くこともあると思うので。もちろん今まで築いたネットの土台を生かしながら、今後はネットとリアルを絡めた面白いことができたらと思っています。
Interview:Rina Ishii
Writer:Shimon Watanabe
Photographer:Mariko Kobayashi