時代を彩るアイコンに会い、ミレニアル世代の実態に迫る企画「#ミレニアルズ解剖」。
今回は、北海道や京都などで4店鋪のホテル経営をする龍崎翔子さんをフォーカスします。現役東京大学の学生でもあり、弱冠21歳。その若さにも驚かされます。
9月にオープンした「ホテルシー大阪」(HOTEL SHE, OSAKA)は、そのアイコニックな外観とアナログカルチャーを体感できるユニークさで話題を集めました。
彼女だからこそ提案できる、いま求められる空間とは一体どんなものなのでしょうか。そして、彼女が見つめる先には何があるのでしょうか。
「不協和音のコミュニケーションにも意味がある」
―最初のホテル経営は、北海道のホテルだったそうですね。どういった経緯で北海道のホテル経営に携わる様になったのでしょうか。
龍崎:地元が京都なので、いつか京都でお店をしたいと思っていました。ただ、創業当時、北海道にとても惹かれていて、海外からのゲストもたくさんくる土地だし、チャレンジできるんじゃないかなと思ったんです。物件を探していく中で、良い物件を見つけることができ、オーナーさんから引き継ぐことができました。
―9月には4店鋪目となる「ホテルシー大阪」(HOTEL SHE, OSAKA)を立ち上げられましたね。どういったホテルなのでしょうか?
龍崎:「ソーシャルホテル」というコンセプトでやっていて、いかにホテルの枠組みを広げていくかということを考えています。日本では「ホテルとはこうである」というような固定観念が強くあるんですよね。そのせいでホテルスタイルの幅が狭まってしまっているのがもったいないと思い、「ホテル」という箱の機能を拡張することができればと思っています。
Airbnbやゲストハウスなども流行っていますよね。これらは全て、他人の家をシェアすることや他人と同じ部屋で寝ることが目的ではなく、地元の人との交流やローカルっぽく生活したいっていうことが、根底にあるニーズだと思うんです。そういった要素を持つホテルを作りたいと思い、地域の空気感を織り込んだホテルを目指しています。
―情報社会の疲れなどによって、リアルな人との繋がりを今こそ求めているというような話もありますよね。
龍崎:私の話なんですが、ある時なんの気もなしに知人のTwitterをミュートにしたことがあって、SNSで見かけなくなるにつれその人の存在を忘れてしまう、ということがあってとても驚きました。今ってSNSで自分の必要な情報に自由にアクセスすることができますが、その反面自分に不要な情報はシャットダウンして、なかったことにできる時代だなと思うんです。
例えばですけど、Brexitや米大統領選の結果は予想外でしたよね。きっとみんな自分に不都合な情報はシャットダウンしてたんだと思います。
これらは時代の流れのもたらしたものなので善し悪しで測れるものではないと思います。ただ、ホテルという多様な思想やバックグラウンドの人が集まる空間は、主体的にはSNSでアクセスしえないような人たちと出会い、その存在を認知するという機能を持ちうると思います。不協和音かもしれませんが、この空間を通じて化学反応が生まれることを期待しています。
SNSと親和性の高いホテルであるべき
―ホテルシー大阪では「ジャケ買い」されるホテルを目指すという表現をされていますよね。
龍崎:一般的にホテルを選ぶ際には、立地や朝食、温泉の有無などで選択されていますよね。でもホテルは生活やライフスタイルを提供する場だと思うのでもっと魅力的に見せていかないと勿体無いと思っています。
―そしてメインビジュアルも印象的ですよね。
ーメインビジュアルにはインスタグラマーとしても有名なるうこさんを起用
龍崎:ジャケ買いをする(=ホテルを指名してもらう)には、写真を大々的に打ち出してグラフィックを強化しないといけないと考えたんです。当時ホテルが工事中だったこともあり、コンクリート打ちっぱなしの開放的な空間の中にベッドを入れて、綺麗な女性がいたら、今回掲げた「スポ―ティーだけどグラマラス」というようなコンセプトに上手くハマるのかなと思いました。
―15万のフォロワーを誇り、インスタグラマーとしても有名なるうこさんを起用された背景は何があるのでしょうか?
龍崎:もちろんコンセプトに合うというのが前提ですが、ミレニアルに響くホテルだというメッセージをミレニアル世代だけに届く形で訴求したかったという側面もあります。
―確かにこのクリエイティブを拝見したときに、「私たち若者向けのホテルなんだな」と感じました。SHEのネオン管などもそうですが、SNS映えするデザインや空間が多いですよね。
龍崎:今の若い人たちってツアーなどでまるっと予約するのではなく、きちんと泊まりたいホテルも選択して泊まりますよね。事前調査でホテルの口コミ写真やSNSで検索したりするじゃないですか。だから、SNSと親和性の高いホテルにするということは非常に重要だと考えています。SNSの口コミを参考にして、泊まる場所を決めるというのは、新しいレビューの形だと思います。
―実際に宿泊者の方からの反響やSNS投稿の様子はいかがですか?
龍崎:自分たちのショップではなく、誘致してコーヒーショップを入れているんですね。そこに来てくださったお客さんが「SHE,」をホテルだと認識して、コーヒーの投稿に#hotelsheosakaとハッシュタグをつけて投稿してくださったりするんです。そのショップとの相互作用もあって、今300件以上の投稿があります。想像以上の反響で嬉しいですね。
音楽アプリにレコメンドされる時代にレコードを置く理由
―ホテルシー大阪では、全室にレコードプレイヤーがあったり、旧車での送迎もあるそうですね。こうしたアナログカルチャーとの宿泊を提供する理由は何なのでしょうか?
龍崎:ホテルシー大阪のある街が「弁天町」いう街で、東京でいうと田端と川崎のハイブリッドというようなイメージの街なんですね。悪く言うと何もない街で、良く言うとレトロな街なんです。この街の中で、どうやってトレンド発信するホテルを作るかと考えたときに、「アナログ」というキーワードを掲げようと思いました。トレンドの先端であり、懐古的、街とコンセプトの媒介になると思ったんです。
ー現在21歳の龍崎さんにとって、レコードなどのアナログカルチャーは、あまりゆかりあるものではないかと思います。アナログカルチャーの良さは、どのように感じていますか?
龍崎:今私たちが消費しているコンテンツって全部ハードウェアが一緒で、ソフトウェアだけが変わっていますよね。今ってApple Musicがオススメの音楽を教えてくれる時代じゃないですか。でもそれって受動的な状況ですよね。アナログコンテンツの良さって機能よりもその「行為」自体にあると思います。ジャケットから取り出して針を落とす、そして音楽を聴くというような体験を、肉体的にすることにデジタルコンテンツとはまた違った価値があるのではないでしょうか。
私はたまたまプレゼントと友人からレコードプレイヤーを貰ったんです。それまでは漠然と素敵だなという印象を持っていましたが、映画や雑誌の中の遠い世界の話のように感じていて、自分が使う姿をイメージしたことはありませんでした。いざ貰って使用してからは、能動的に音楽を楽しむという価値を凄く感じて、またこの感動が普遍的なものであると思いました。この「レコードのあるライフスタイル」をより多くの人に体験してもらうのに、ホテルという空間はとても相応しいように感じました。
大学在学中の起業は「今やらないと間に合わないと思ったから」
―龍崎さんのキャリアについてお聞きすると、現在東京大学を休学されてホテル経営をされているそうですね。学生中に起業することについてはどのように思われていますか?
龍崎:時代的に今やらないと間に合わないと思ったことが1番の理由ですね。私は、母と一緒に経営をしているので、賛同し協力してくれたという意味では非常に恵まれていたと思います。あとは、普通に学校に通っていたら退屈すぎて病んでたなと。(笑)起業や、今のビジネスをしてなかったとしても、個人事業主とかで働いていたとは思います。
―会社のメンバーも若いメンバーで構成されているのでしょうか?
龍崎:そうですね、1番若手が21歳で、最年長でも27歳です。ホテル業界って、ホテルの専門学校を卒業した人が働くっていうような風潮があるのですが、うちの社員はセカンドキャリアとして大企業から転職して来た人たちが多いんです。メンバーも10人ほどですが、4店舗経営しているので、タフなメンバーだと思います。
メインストリームに中指を立て、カウンターカルチャーで在り続ける
―Wantedlyなどの事業紹介欄にも「メインストリームに中指を立て、抗う個人や地域の動きを大きなうねりに変えるべく」というような表現もありますよね。会社のメンバーのパワーを感じました。
龍崎:私たちの会社のメンバーに求めるモノが3つあるんです。1つは「イノベーティブ」であること。私たちはホテル業界を変える、ベンチャー企業なのでそうしたマインドを持つ人が必要だと思ってます。2つめは「ストリート」であること。常にカウンターカルチャーで居続けること。世の中で面白いとされていることを盲目的に追従するのではなく、世の中で価値がないとされているものに光をあて、価値を見出していく。3つめが「ドカタ」。「インテリドカタ」ってよく私たちは言うんですけど、考えるだけではなく、実際に手も足も使って動ける人が集まっています。
このコンセプト文は私ではなくメンバーが書いてくれたのですが、こういうカルチャーの企業なので、自然な発想なのかもしれません。
―ともにホテル経営をするメンバー
―加えてほとんどのメンバーがバイリンガルとお聞きしました。グローバル展開なども視野に入れられているのでしょうか?
龍崎:そうですね、2020年までに東京進出を果たし、海外展開も視野に入れています。
ただ、海外ではジャケ買いされるようなホテルはもう多数あります。なので逆にいうと、日本のニッチな場所でしか私たちが戦うのも難しいんじゃないかとも実際思っています。海外のホテルのInstagramも凄くお洒落で可愛いんですよ。私たちもそこを超えていかないといけないなと思いますね。なので、ホテルを軸としつつも、また新しいサービスで海外展開をしていくことを構想しています。
―最後に今後の展望について教えて下さい。
龍崎:直近のことでいうと、ホテルとゲストのインターフェイスを私たちらしく提案したいなと思いますね。それこそ、空気感が写真で伝わるようなInstagramのような予約サイトも制作したいと思っています。
ただのホテル運用会社というふうにはなりたくないので、面白いことをしている企業だなという風に認識されたいですね。新しい価値を提案でき、「日本を3ミリくらい面白くしている企業」でいたいなと思います。
Interviewer Writer:Rina Ishii
Photographer:Mariko Kobayashi
※COMPASSでは、独特の視点から事業を興したミレニアル世代へのインタビュー記事を掲載している。