(画像:MOW公式サイトより)

森永乳業株式会社が販売するカップアイス「MOW(モウ)」シリーズのCMをTVやSNSで見かける機会は多いだろう。俳優の高橋一生氏扮するスーパーの店長が、異様な熱量で「MOW」への愛を店内のお客さんへ伝えるCMだ。

2017年3月に高橋一生氏がCMに起用され、同CMシリーズの展開が始まった。

同CM展開は、テレビだけではなく店頭からSNS動画までと幅広い。

2年目となる今年、新たな施策として5月からオリジナルARコンテンツ『高橋店長とMOWタイム』を開始した。

同コンテンツはスマートフォンのARを活用した施策で、アプリを起動する時間帯や曜日で内容が変化し、20種類以上の動画が視聴できる。

アイスクリームのパッケージを読み取るとオリジナルの動画が再生されるこの仕掛けは、SNSを中心に拡散されており、高橋一生氏のファンはもちろん、幅広い層に支持された。

テレビCMを基軸に様々な媒体でプロモーションを仕掛けるために必要なこととは何か?なぜARの施策に取り組んだのか?

今回、森永乳業株式会社「MOW」広告のクリエイティブチームである株式会社博報堂第一クリエイティブ局・髙田毅氏と、ARなどデジタルの施策を担当した株式会社博報堂DYデジタル・北條愛氏に話を伺った。

SNSで同CMの反応を検索してみると、CMの世界観に引き込まれ「私もあのスーパーに行きたい」というコメントがたくさん見られた。高橋一生氏扮するスーパーの店員は大変ハマり役という反応も多い。

CMのヒットの理由には、企画に対してキャスティングがハマっていたというのも大きな理由の一つだろう。今回のCM自体の企画意図はどういったことだったのだろうか。

株式会社博報堂第一クリエイティブ局・髙田毅氏(編集部撮影)

髙田「まず、MOWは商品としてクオリティが大変高い商品です。乳化剤・安定剤不使用で国産生クリームをはじめ、厳選した素材を使用しているというアイスクリームは、スーパーで130円前後で販売されている手軽に買える商品では他にありません。もちろんクライアントさんとしてはそういった点を訴求したいが、成分上のことや製造過程についてはテレビCMでは詳細につたえきれないので、そこから「選ぶ理由のあるアイス」というコピーが生まれました。

商品の良さを広告で全部言わずに寸止めする。どんな理由があるのか、その先はSNSでいう仕掛けにしました。CMでは主観でオススメをしてもらう。それには、スーパーの店頭で店員さんがオススメしている設定であれば不自然な感じがしなくていいな、と。それに当てはまる方を考えたときに高橋一生さんという様々な役回りのできる俳優さんであれば、MOWに対して異常に愛情が深いというキャラも似合うのではないかと思いキャスティングさせていただきました。MOWの細かな製造過程について表立っては言わないけれど、MOWを買ってくれている人を見るとついつい興奮して、その気持ちが抑えられなくなる高橋店長、というシリーズが生まれました」

今回、主婦層をターゲットにしたCMということで、旬な俳優が主婦の商品を選ぶ選択眼を褒めるといった内容も主婦層の心をくすぐった様子だ。

MOW(モウ) TVCM『高橋店長、愛を伝える』篇 30秒

それらも構想の内と話す高田氏は、テレビCMと同時にSNSで拡散される動画の仕掛けも行っていたと語る。

 

髙田「SNS動画の施策は昨年の仕掛けとして行ったのですが、マス以外ではそういった商品の細かいスペックについて伝えるために、6秒動画を作ってTwitterで配信していきました。拡散をするとインセンティブとしてレアな動画が見れる、という仕掛けにしたりだとか、とにかく数多く動画を作って。内容もSNSと相性の良い面白系の動画にしたので拡散もされやすかったですね」

 

高橋店長シリーズのテレビCM1年目はSNS動画の施策を、2年目となった今年の施策がARを活用した施策だったと語る。

同施策はマスでの告知だけではなく、WEBも軸にしたプロモーションだったようだ。

RTがしやすい動画施策と違い、AR施策の拡散というのは一見難しいように思われるが、どうやって広めていったのだろうか?

株式会社博報堂DYデジタル・北條愛氏(編集部撮影)

北條「ローンチのタイミングでファンの間で流行って拡散されたのが最初ですね。こういった施策の際にはこれくらいのファン層がいるからこれくらいバズるだろう、というある程度の目処はつけるのですがあとは流れに任せています。

初動は俳優のファン、そこから次第に広がっていき、コアなところからそうではない潜在的な層まで広がっていきました。意外だったのが、iPhoneの画面録画機能を使ってTwitterだけでなくInstagramでも広がったことです。ストーリーズで投稿される例が多く見られました。

デジタルの施策ではインタラクティブでシェアしたくなるものを作るというのが強み。

今回のようなマスで仕掛けたわけではなく、WEB上だけでファン同士が拡散してくれる形は理想形でしたね」

専用アプリをDLしてMOWのパッケージにスマホをかざすと様々な高橋店長の動画が見られるという施策。見られる動画は、フレーバーや曜日、時間で変わるため、毎日それぞれの動画がユーザーよりSNSにアップされ話題となった。

公式Twitterのプロモーション告知動画は30万回近い再生と、高いエンゲージメント率だ。

 

北條「今回、ARを活用した施策だったのですが、ARという技術自体は2010年頃からスマホアプリとして登場していました。ですが、スマホ自体が定着していなかったためARが爆発的に流行ることもなかった。Pokémon GOといったARアプリが流行し、日本でスマホが普及した後の2017年あたりがAR元年と言われています。誰でもスマホを持ち、手元にARができる環境が整ったからこそこういった施策が打てるようになりました。ARを活用した施策は今後も考えることが増えていきそうですね」

 

一方で、若者のテレビ離れと言われている昨今だが、テレビCMとWEB施策を企画する上でどういった考え方の切り分けをしているのだろうか?

 

髙田「実際にテレビを見る層が減っているのは数値としても出ていますし、CM動画を見る媒体もテレビではなくSNSで、という層は多いです。とはいえ、テレビCMもWEB施策も企画の構造や本質は変わらないです。共感や拡散したくなるような、受け手にとって自分ごと化できるかどうかが最も大切で。表現はどうであれ、コンテンツとして面白くなっていることが必要。

UXデザインといわれている、生活の動線を考えて広告を作る、という考え方は元からありましたが2010年頃にTwitterが普及しはじめ、デジタル上での動線を考えることも大切になってきました。そこで大切になってきたのが、『クリエイティブの中でユーザーにトラップを仕掛ける』ということ。あえて全てを説明したり完璧にするのではなく、ユーザーにツッコミを入れる余地をつくるということですね。例えばCMの中に隠れキャラがいたりだとか、謎が仕込まれていたりだとか、ユーザーがTwitterで「俺は気づいたよ、みんな知ってる?」と言わせるフックをつくっておく。それがSNS時代の拡散や話題に繋がっていくと思っています」

 

バズる要素には余白が必要、という高田氏の言葉は確かに、と頷かされた。

スマホ時代で誰でも手軽に検索し、発信できる時代だからこそ、CMで全てを言うのではなくユーザーにアクションをさせる余白を持たせておく。

今回のテレビCMの仕掛けとしてさらに目を引いたのは、テレビCMの中で高橋店長が手描きで作った商品訴求POPが、実際の店頭で張り出されている仕掛けだ。

MOW(モウ) TVCM『高橋店長のPOP作り』篇 30秒 高橋一生

このCM内で出てくるPOPが、全国のスーパーのアイスクリーム売り場に張り出されている。

 

CMの持つ特性を活かしつつ、動画内で完結するのではなく実際の店舗施策までを一貫している施策は、マス・デジタル・リアルを包括したUXデザインの事例として際立っている。

 

最後に、今後やってみたい広告表現について伺った。

 

髙田「やはり、デジタルとマスの融合ですね。テレビCMの歴史は長く、大抵の表現は出尽くしている。が、テクノロジーとの組み合わせや掛け算でさらに新しく面白くなっていきそうです。新たな視聴体験によってCMの可能性を広げていきたいですね」

 

北條「デジタルの施策もただ見るだけではなく、体験できるものにしていきたいです。自分が発信できるような時代なので、一緒に作っていけるインタラクティブなものを広告で与えられたら良いなと思います」

 

AR以外にも、今後ますます新たなテクノロジーは登場してくる。その中で、長い歴史を持つテレビCMの知見と新たな技術の掛け合わせは加速していくだろう。そうした加速によってUXデザインという観点もより複雑性を極めてくると予測されるが、その中でどういったクリエイティブが出てくるのかこれからも楽しみだ。

 

 

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保科 さほ
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保科 さほ

1990年生まれ、鳥取県出身。 デザイナー、採用人事、タレントマネージャーなどの職種を経てフリーライター・プランナーに。ガールズカルチャー,サブカルチャーを軸に企画・ライティングやクリエイティブディレクションを行う。 エモかわいい女の子のスナップメディア・東京女子物語主催。http://tokyogirlsstory.com/