こんにちは、COMPASS編集長の石井リナです。
TRANSIT GENERAL OFFICE(トランジット ジェネラル オフィス 以下トランジット)というと、MAX BRENNER(マックス ブレナー)や、ICE MONSTER(アイスモンスター)など数多くのブームを生み出したショップを手がける企業です。また、「イケてるフードショップは大抵トランジットがやっている」というイメージが浸透するほど、仕掛けたお店は数多く、また、カルチャーも根付かせています。今回はトランジットの代表である中村貞裕さんに取材させて頂き、話題になるショップの空間作りや、トレンドを作り出す秘訣、ご自身の東京に込める想いなど、お話をお伺いさせて頂きました。
昔から写真スポットが作られていた
石井リナ:トランジットというと、Sign(サイン)やbills(ビルズ)、MAX BRENNER、ICE MONSTERなど運営されていますよね。リアルな空間を作り出す上で、心がけていることは何でしょうか?
中村さん:僕達は空間を作る仕事が多いので、音楽やアート、デザインコンテンツなどを極力空間にいれるよう、心がけています。今でいう、「写真スポット」になる場所を作るということは自然と昔からやっていましたね。
石井リナ:昔からやられていたんですね。
中村さん:そうなんです、細かいディティールまでこだわっていて、アートとかもある空間の方が楽しいでしょ?撮影されるためだけにやっているわけではないんだけど、最近ではSNSの台頭もあり、より写真を撮られるようになったっていう感じかな。
「海外への憧れ」がトレンドに繋がる
石井リナ:トランジットが運営されているPacific DRIVE-INは、元々知らなかったのですが、Instagramで流れ始めて「あ、ここ行かなきゃ!」って思わされたんですよね。そしてちゃんと行って、SNSにも投稿しました(笑)トランジットが仕掛けるお店は、SNSでも話題になるお店も多いと思うんですが、その背景には何があると思われますか?
中村さん:おお、すごいね!(笑)あのお店は、みんな看板の下で撮影するけど、それは自然発生的になんだよね。あれは広まってくれたらいいよね、位だったし、有り難いなと思ってます。
石井リナ:仕掛けているわけではないんですね。
中村さん:もちろん仕掛けているもの、作っているものもあるけど、それが全てではないんですよ。僕達の小さなこだわりはプラスアルファーにすぎないからね。SNSで話題になるのが多いのは、僕達が手がけているショップは「海外らしさ」があるショップが多いからだと思う。日本人のコンプレックスにも通じると思うんだけど。
石井リナ:どういうことでしょうか?
中村さん:billsでは「海外でブレックファーストを食べているみたい」とか、Pacific DRIVE-INだと「ハワイとか、マリブに来たみたい」とかそういう風に言ってくださることが多くて。海外っぽく感じさせることを結構やってるし、そうすると、カッコいいと思われる可能性が、現状だと高いんですよ。
石井リナ:「海外らしい」空間や時間を消費したくて、そこに人が集まっているということはありそうですよね。
カルチャーを根付かせられるポテンシャルがあるか否か
石井リナ:billsにみる「朝食ブーム」やICE MONSTERにみる「かき氷ブーム」など、トレンドを生み出す秘訣はありますか?
中村さん:僕達は最初の火種を持ってくるという役割ではなく、ブームになるような着火剤を持ってくる、作るということをしているんだよね。だから、コンペティターはいればいるほど良いと思ってるし、そのマーケットをいつも探しています。
石井リナ:着火剤になるようなお店の基準は、どういうところにあるんでしょうか?
中村さん:自分が、人に口コミしたくなるほど、美味しいとか、カッコいいとかそういうところだね。あと、僕達の目的はブームを作ることじゃないんですよ。ブームが出来たらラッキーくらいで、カルチャーを根付かせるというところに重きを置いてるかな。
石井リナ:カルチャーを根付かせることは、どうやって取り組まれてきたんでしょうか?
中村さん:日本にショップやブランドを持ってくるときに、重要視するのは、カルチャーを根付かせることの出来るショップなのかということ。billsの場合、朝食カルチャーを根付かせることができるショップだったというところが大きい。それがないと、ブームになるだけで閉店しているお店も今は多いけど、billsの場合、上陸してから8年間たっても右肩あがりなんですよ。
石井リナ:凄いですね。今もずっと反響は大きいままなんですね。
中村さん:根付かせたいライフスタイルやカルチャーがあるか否かという点は非常に重要だし、それが根付かないと単なるブームで終わってしまうんですよ。
石井リナ:ちなみに、女の子が好きそうなものや、カルチャーになりそうなものを仕掛けることに、長けていらっしゃると思うのですが、中村さん自身はどういう風に情報収集されているのでしょうか?
中村さん:海外に行ったり、雑誌をみたり、ネットをみたり、出来る限りの情報収集はしてると思います。僕は誰とでも話すタイプなので、直接若いスタッフとかにも話を聞くことは多いですね。
石井リナ:気になることは、ご自身で直接見たり聞いたりすることを重要視されているんですね。
「COOL JAPAN」ではなく「HOT TOKYO」
石井リナ:人々に好まれる空間を作り続けることに関しては、どのような想いが根本にあるのでしょうか?
中村さん:「東京が好きだから」ですね。発信地という意味で、「NY、ロンドン、パリ、東京」っていう都市の横並びを崩してはいけないし、自分が東京を盛り上げていきたいという想いは強いですね。いま、ファッションや音楽など様々なジャンルでも東京のポジションは落ちてきていて、ソウルや香港にひっくり返されそうだと思うんです。そういうところに危機を感じていますね。
石井リナ:確かにファッションコレクションなどでも、海外のセレブリティは東京を飛ばして、ソウルに集まるとかって言われていますよね。
中村さん:僕達は「COOL JAPAN」ではなく「HOT TOKYO」っていう言葉を掲げているんです。クールジャパンは「オタク」とか「匠」のイメージがあるけど、僕達はしているのはカルチャーやライフスタイルだから少し違うと思っていて。東京にフォーカスして世界基準で盛り上げていくっていうことがしたいと思ってます。「都市の発達なくして、国の経済の発展はない」という森ビル創設者の森さんの言葉にも凄く影響を受けてますね。
石井リナ:確かに東京がパワーのある都市になれば、世界的にも日本の存在は大きくなりますよね。
中村さん:そうだね、競合になるような会社がイケてるスポットやカッコいいものを東京に作ると、普通は悔しいとかって思うかもしれないんだけど、東京が盛り上がってほしいから、僕の場合「良かった」って思う気持ちが強いんだよね。変なものや、ダサいものを作られると悲しくなるから(笑)
石井リナ:東京への責任感や愛着ですよね。素敵です!
日本にない ライフスタイルやカルチャーを根付かせることが使命
石井リナ:ショップなどのプロデュースだけではなく、イベントケータリングや、ウエディングなど幅広く事業を手掛けられていると思いますが、全ての事業に通じる企業のスピリットはありますか?
中村さん:最近、僕達は自分たちのことを「Cultural engineering company」と言っているんです。海外の人に話したときに、僕の仕事はプロデューサーでなく「Cultural Engineer」だって言われたんですよ。ライフスタイルに影響を与えたり、カルチャーを実際に広げていこうとするような会社は、そういう風に言うらしいんだよね。
石井リナ:初めて聞きましたが、カッコいいですね。
中村さん:カルチャーを作っているホテルの1つでもあるACE HOTEL(エースホテル)の創設者ALEXと名刺交換した際に、彼の肩書は「Cultural Engineer Officer」で頭文字をとってCEOだったんだよね。僕達もライフスタイルに影響を与えるというところに関してはブレずにやっていきたいと思ってます。
石井リナ:日本ではなかなか聞かないですよね!さいごに、今後行っていきたい事業などは具体的にありますか?
中村さん:具体的には「ウェルネス」や「ナイトシーン」を盛り上げる事業はやりたいと思ってますね。あとは、世界のスポットが、「東京の代官山みたいだね」とか「下北沢みたいだね」とかって東京の街で表現されるまで、東京を盛り上げることができたら嬉しいですね。僕達がいま、東京のスポットを、「ブルックリンみたいだね」とかって話すのと同じように、世界のスポットが「代官山みたいだね」って表現されても良いはずなんですよね。
石井リナ:確かにそうですよね!そこまで東京が盛り上がっていったら、東京で生活する人間としてはとっても嬉しいです。今後もトランジットの活動を楽しみにしていますね。ありがとうございました!
「NYやパリにあるものが、当たり前に東京にあるべき。東京にあるものも、当たり前にNYやパリにないとおかしいってなるくらいに、東京を盛り上げたい。」と話される姿が印象的でした。東京のカルチャーやライフスタイルを背負って世界に向けて活動されていると感じさせられ、非常に刺激的でした。
また、東京にダサいものができるくらいなら、違う会社がカッコいいものを作ってくれる方が嬉しいと、堂々とお話される姿も、東京を背負う企業なんだと感じる1コマです。ユーザーに寄り添ってブランドを作るというよりかは、自分たちがカッコいいと思うものを発信し続けるというスタンスも、トレンドセッターならではです。今後東京のカルチャーを盛り上げる企業として、活動に期待していきたいと思います!
Photo:ENO SHOHKI