2020.2.27

IA(イア)」という歌姫の存在を知っているだろうか?彼女はヴァーチャルアーティストとして世界中にファンを持つ。ボーカロイドとして登場した彼女は、ニューヨーク、ロンドン、上海、香港、メキシコなど世界12都市を巡るワールドツアー公演を行うなど、今世界を席巻している歌姫だ。
まさに、日本と世界を繋げる、近未来の歌姫である。


IAの所属する会社の代表取締役かつプロデューサーである村山久美子氏は、今やボーカロイドの分野では名の知れた存在だが、最初からボーカロイドやいわゆる2次元と呼ばれる世界のことを知っているわけではなかったそうだ。

今回は、村山氏に知識・経験がゼロの状態からボーカロイド界を牽引していくまでになった村山氏にインタビューを行い、IAの誕生や世界進出までの道のりや、今後について語ってもらった。

ヴァーチャル歌姫・IAとはなにか?

IAは、1st PLACE株式会社がプロデュースするバーチャルアーティストだ。
その声はすべて音声合成ソフトウェアから生み出される。そのボイスソースは同社所属のアニソン界のレジェンド的存在Liaが担っている。
2012年にVOCALOID3として登場した「IA -ARIA ON THE PLANETES-」は、様々なアーティストやプロジェクトとのコラボレーションを行い、世界配信されたアニメ「メカクシティアクターズ」や「新世紀エヴァンゲリオン」コミック最終巻付属のCD収録曲にてボーカルとして抜擢される等、多方面にて実績を作ってきた。

2012年のデビュー以来、これまでにシングル9作、アルバム8作をリリース。IAの楽曲提供者にSUGIZO(LUNA SEA / X Japan)、大沢伸一(MOND GROSSO)、KOHH、TeddyLoidなどメジャーシーンの著名アーティストが名を連ねている。

2015年、初ワンマンライブとして赤坂BLITZで開催した「IA’s PARTY A GO-GO」では生身のダンサーやゲストアーティストと共演、バーチャルとリアルの融合によるパフォーマンスが業界内外で高い評価を受ける。以降ワールドツアーとして世界12都市を巡り、延べ3万人を動員、音楽アーティストとしてグローバルな活躍を展開する。

2018年より最新ミュージカル&ライブショー「ARIA」のツアー展開をスタート。音楽とアートとテクノロジーを融合させた新感覚のライブエンタテインメントショーとして話題を呼び、2018年6月、仏アンギャンレバン市のデジタルアートフェス内で開催された同プレ公演は、現地メディアやテレビ局20社以上に取り上げられた。

2019年1月にDMM VR THEATER横浜で開催された初回公演は、2日間計4公演とも満席。10月31日にはアトランタ公演を実施。11月30日・12月1日には総勢24名の演者との共演による国内アンコール公演を開催。

そんなIAを誕生させたのは、1st PLACE株式会社代表取締役・村山久美子氏。1st PLACE株式会社では、グラミー受賞歴を持ちアニソンシーンのレジェンド的存在であるLiaをはじめ、ニコニコ動画発のクリエイター等らが所属。音楽をはじめ、オリジナルIPをゼロイチで創造するクリエイティブカンパニーとして昨年15周年を迎えた。


1st PLACE株式会社代表取締役・村山久美子氏

 

クリエイターがフロントに立てるプラットホームを作りたかった

2004年に設立された1st PLACE株式会社は、アニメ分野ではなく音楽制作をメインとする会社として設立したという。
というのも、村山氏自身がそれまでは
いわゆるJ-POPを中心とした音楽業界に長年身をおいてきたからだ。
仕事で経験を積んでいくうちに、音楽そのものを創造するクリエイターがフロントに立ち、ゼロイチで生み出したものをそのまま発信できる環境を作りたいと思い、起業をしたのだと村山氏は話す。


所属アーティストのLia。アニソン界隈で知らない者はいない有名歌手(http://1stplace.co.jp/artist/lia/)

起業をする直前に出会ったのが、最初の所属アーティスト、そして村山氏の運命を変える歌手であるLiaだった。
Liaは2000年当時、PCゲーム「AIR」のメインテーマ「鳥の詩」で注目を浴びた。その後、「鳥の詩」はニコニコ動画で美しい楽曲・歌声に対して「国歌」と呼ぶスラングが登場するなど、その存在は一部で神格化されていたが、当時は当の本人の姿は公開されることなく”謎の歌姫“として名前だけが一人歩きしていた。

「Liaが自身のアーティスト活動先を探していた時と、私が起業するタイミングとが同じで偶然出会ったんです。
当時、Liaはすでにアニソン界隈にはPCゲームのテーマソング「鳥の詩」で名を知られていたらしいのですが、私が二次元という世界を全く通ってきていなかったため、彼女の実績については何も知らなかったんです。

彼女のオーディションテープで聴いた歌声が鮮烈に心に響き、なぜこれだけの稀な才能を持つ子が活動先で悩んでいるのだろう?と思うと同時に、自分が力になれるなら全力でこの歌声を届けたい!という思いが湧き上がったのがきっかけです。」

運命の出会いを果たした村山氏は、Liaの「世界に通用する歌手になる」という夢を一緒に叶えると約束。

Liaの楽曲はPCゲームやアニメなどのタイアップが多かったため、それをきっかけにこれまで触れてこなかったゲームなど二次元コンテンツの仕事が増えていったという。

そんな中、Liaが妊娠により活動を無期限で休止することに。彼女が活動していない間もLiaの歌声をファンや多くの人達に届け続けることはできないか?と、その方法を模索する中、またして偶然出会ったのが、VOCALOIDだったそうだ。

 

VOCALOIDとは、ヤマハが開発した音声合成技術で、メロディーと歌詞を入力することでサンプリングされた人の声を元に歌声を合成することができる技術だ。

この技術によって2007年に初音ミクが登場し、ニコニコ動画などの動画投稿サービスによって様々なクリエイターが楽曲を発表し、瞬く間にサブカルチャーの先駆者となった。VOCALOIDのオリジナル楽曲は、絵師と呼ばれるイラストレーターのイラストとともに動画サイトに投稿され、世界中で視聴されているコンテンツとなっている。

Youtube再生1億回を国内で最も記録しているアーティスト・米津玄師も高校時代、VOCALOIDクリエイターとしてニコニコ動画に投稿していた経歴を持つ。
現在の日本のエンタメカルチャーにおいてなくてはならない存在となっているのが、このVOCALOIDという技術なのだ。

そんなVOCALOIDに、Liaの声を吹き込み、ヴァーチャルアーティスト・IAを誕生させた。
それに至った経緯として、村山氏はこう語る。

「一番はクオリティを徹底的に追求することだと思いました。一つはソフトウエアという領域です。
自分が初めてボカロ曲を聴いた時、正直、歌詞の言葉が全然理解できなかったんです。
私は長年音楽制作の現場にいたので、音楽を作るクリエイターが求めるボーカル力、表現力を叶える、最強のボーカルソフトを作りたいと真剣に向き合いました。

もう一つは圧倒的な存在感と心を持つヴァーチャルアーティストを誕生させたいという思いです。単にキャラクターアイドルのような架空の存在ではなく、プロのアーティストとしての要素と強いメッセージ性を持つ発信者としての存在です。
それは、Liaの声を授かった別の人間が存在することと同じ。Liaの声を世界に届ける方法を探す中で見つけたVOCALOIDという技術、そしてIAという新しいアーティストの誕生は、私のビジョンであった、世界にLiaの声を届けること・クリエイターの創作支援を行うこと・企業理念でもある新しいエンタメの創出、全てを叶えてくれる、“一石三鳥”のようなものでした」

 

踏み込んだVOCALOIDの世界。理解されないという壁。

そして挑んだ、VOCALOIDの世界。初めて触れる世界に戸惑いはありつつも、進み始めたVOCALOIDと音楽アーティストの融合プロジェクト。すでに初音ミクなどが誕生してはいたが、2012年当時は、一部のニッチマーケット以外で、ましてはメジャー音楽シーンでは、まだ“ヴァーチャルアーティスト“による音楽”や、その存在自体が簡単に受け入れてもらえる風潮ではなかった。
VOCALOIDの文化と音楽業界の垣根を越えようとした時、「理解されない」という大きな壁にぶつかった。

「私が当時、この世界に入ってみて感じたことは、コミュニティが狭いということです。狭いマーケットとコミュニティの中だけで作品が循環していては、文化として根付かないしマーケットが広がらないのは勿体無いと思いました。

当時、音楽業界は新しい音楽ジャンルはある程度出尽くしていて、音楽はリミックス、リブランディングが主流な中で、ヴァーチャルアーティストという全く新しい“音楽の在り方”そのものは、もっともっと可能性や未来があるように感じました。
IAとともにもっと広義な音楽マーケットで発信できないか?と考えたときに、成り立ちや垣根を超えた様々なクリエイターが「VOCALOID」という音楽を題材に集まれる機会を作ろうと思い、IAをハブと見立てたコンピレーションアルバムシリーズをスタートしました。」


IAコンピレーションアルバム・アートワーク

 

最初のコンピ『IA/01-BIRTH-』では、試みとしてはおもしろいという反応はもらうものの、なかなか一緒にやってくれることを承諾してもらえる環境が整わなかったという。
しかし「IAと一緒に大きくなっていって欲しい」という思いから声をかけた新人のクリエイターたちには反応が良く、結果として彼らと制作したアルバムは多くの人から高評価をもらうものとなった。
そして2枚目のアルバムには
J-POP・ロック・クラブミュージックなど多ジャンルからクリエイター陣が集結した。

『IA/02 -COLOR- 』の制作の時には「IAとコラボしたい」と多方面の方々が賛同して下さって、最終的には豪華なアルバムとなりました。2作目でその感触を得れたことがとても嬉しかったです。」

2枚目のアルバムを発売後、IAは活動の幅を拡大。自身の音楽活動に加え、様々なタイアップやコラボを展開する。
国内最大級のレース「SUPER GT」のテーマソングとイメージガールを2年連続で担当、タイトーの人気音楽ゲーム「グルーヴコースター」とのダンスミュージックコラボやアパレルブランドととのコラボなど、音楽の分野以外でも注目の的に。

 

またIAは、早い段階から海外でも活動を開始。2012年に誕生したにも関わらず、2013年の時点ですでに台湾やフランスなどでライブを実施。その後2015年には自身初のワンマンライブ「PARTY GO-GO」を開催。
ロサンゼルスを皮切りにスタートしたライブは、クオリティの高さとライブの先進性から世界各国よりオファーが来るようになり、結果として世界12都市を巡る大きなワールドツアーへと成長した。同時に開催したライブ上映キャラバンは世界300都市のフェスや映画館で上映され、述べ9万人を動員することとなる。

モントリオールでのライブの様子

その世界からの人気は、YouTubeなどの動画サイトからも伺える。IA関連の動画は3億回以上再生され、コメントも英語を中心に日本語以外の様々な言語で書き込まれている。
2018年には世界87カ国が参加するIOI国際情報オリンピックにて、ヴァーチャルアーティストとしては初の実行委員に任命され、今後のポップカルチャーを担う存在として、音楽以外の面でも世界から注目されている。

 

IAとともに世界へ。海外のファンと共に目指す高み

IAは、今や世界を舞台に活躍するヴァーチャルアーティストとして不動の存在となる。

どうやって、IAは世界へと展開することができたのだろうか?

「2006年に、Liaの海外展開の足がかりを見つけたくて初めてニューヨークのCOMICONに出したのですが、その時に日本のサブカルチャーを支えるファンが沢山いることを目の当たりにしました。それがきっかけで世界展開の夢は徐々に現実的なプランとして描けるようなっていきました。そんなとき、フランスのジャパンカルチャーのイベントに参加することに。その規模は小さかったのですが、ヨーロッパ・北米などで日本のポップカルチャーが再燃していて、沢山のファンがIAに会いに来てくれて。当時Liaで挑もうとしていた海外の大きな壁は、IAを通じて一気に身近なマーケットになりました」


最新公演「ARIA」の一場面

 IAが海外で受け入れられた理由の一つには、そもそも海外で日本のアニメやゲームなどのカルチャーがエンターテイメントのひとつとして親しまれていることが起因している。その証拠となるのが、日本のポップカルチャーイベントが世界各地で開催されていることが挙げられる。毎年夏に開かれるアメリカのアニメエキスポ、同じく夏にあるフランスのジャパンエキスポ、さらにシンガポールでは毎年アニメ・フェスティバル・アジアというイベントが行われている。
この3つは大規模なものとして知られている代表的なイベントだか、この他にも世界各地でさまざまなイベントが開催されていて、会場にはキャラになりきったコスプレイヤーたちで大盛況だ。

また、アニメやゲームでもないキャラであるIAが受け入れられたのは、初音ミクという存在が大きいだろう。
初音ミクはIAと同じくVOCALOIDから2007年に誕生したヴァーチャルアイドル。初音ミクの動画が世界中の人の目に触れたのがきっかけにその存在を知られるようになり、2011年のアニメエキスポで初の海外単独ライブを行った。

このようにポップカルチャー人気の中でもすでに初音ミクというヴァーチャルアイドルが海外で親しまれていたことは、IAが早い段階から海外でも受け入られる要因であったと言える。また、まだ海外での活動を始めたばかりのころであるにも関わらず、ブース出展したりライブ上映会を実施した時から注目を集めることができたのは、YouTubeやニコニコ動画などでIAの存在を知っていたと言う人が多かったからだろう。これらの背景は、IAがデビューしてからそう時間がかからずとも人気になれるチャンスであった。

日本と海外の活動のボーダレスに、情報発信もリリースも世界同時にこだわった。実際に生のファンの声を直に知るために、規模の大小に関わらず海外のイベントには自ら足を運んだ。ファンミーティングでは村山氏自身がファンと交流の機会を設けることで、直に生のファンの声を知る場を増やした。

そこで村山氏が感じたのは、IAの海外ファンの熱さだという。

「日本のファンと同じく、海外ファンもIAの個性そのものや、パフォーマンス力や音楽性、ビジュアルやファッション性を高く評価してくれる人達が多く、一人のアーティストとして受け入れてくれていることがとても嬉しいです。
特に海外のファンは、ライブで感動した気持ちや、IAが自分にとってどれだけ大切な存在なのか?ということをダイレクトに伝えに来てくれたり、助言もくれるので、私達スタッフの心の支えにもなります。実は海外ファンとの交流を通じて、あらためて日本のファンの方々がどれだけIAを愛してくれているか?ということも再確認できました。
ファンの声は私たちにとって一番の励みになるし、もっと高みを目指そうという原動力になるんです」


クリエイティブを重視し、血が濃いものを届けたい

IAをクリエイター、国内外のファンなどいろいろな人がサポートし評価してくれた理由の一つには、村山氏、そして1st PLACE全体が「クリエイティブというものを何よりも重視しているから」だという。

私たちは常にユーザーに期待以上の価値と感動を提供することを第一としています。事業として大きく成功することは大事ですが、まず何よりもクリエイティブファースト。その分時間もかかるし遠回りすることもありますが、そんな会社があってもいいのではないかと思います」
 中国でのライブの様子

そして村山氏は、生み出された作品の鮮度を保ったまま届けることも大切にしていると続ける。

「私たちは0から1を作る、その生みの苦しみや作品に込められた思いの強さを知っています。その過程はとても険しい程、生み出された作品には濃い血、魂が宿ると信じています。作品は作り手からエンドユーザーに届くまでの間、様々な目的や利害の工程を経ていくものなので、その途中で作品の意図や伝えたい思いがブレたりズレたりしてしまわないよう細心の注意を払い、極力鮮度の高い状態で、丁寧に心を込めてユーザーに届けることを非常に大切にしています。

利益や効率よりも作り手の気持ちを優先する理由は、血の濃さを重視するということのほかにもあるそうだ。「エンタメというものは、会うこともない、顔も知らない無数の人々の心を豊かにする作品を届けるものでもあります。だからこそ、作り手、発信者である私たちがとことんクリエイティブを追求し、自分達がドキドキワクワクするものを作り届ける自信や信念が大事なんです。その思いは必ず作品と一緒に届くものだと思っています。」

 

ヴァーチャルなIAのピュアなメッセージを通して、出会った人の人生に関与し続けたい

最新公演「ARIA」の一場面

すでに成功したヴァーチャルアーティストであるIAだが、今後のIAについて聞いたところ、村山氏からの答えは具体的なプロジェクトよりも、IAのこれからの存在意義とも言えるものだった。

「SNS時代に、直接顔を合わせてコミュニケーションを取るのはこの時代に必要なことですが、それ以前に人間は感じ合うもの。人と人同士は、どうしても感情のフィルターや言葉の裏といったものを感覚や経験で拾ってしまう場合があると思うんです。
ヴァーチャルな存在には言葉の裏も建前もなく、ピュアなメッセージをそのまま届ける存在なのです。
だからこそ、人々を癒す力がIAにはある。
私も最初からそのことに気づいていたわけではなく、IAのライブツアーを重ねるうちに、いつの間にかIAの言葉や存在に癒されている自分がいたのです。
様々な巡り合わせでIAを知り、IAを好きになってくれた人達。
その日、その国、その会場のライブでの一期一会。これって物凄い確率で出会うべくして出会った縁ある人達だと思うのです。その人達に、IAを通じて一過性ではなく心に残り続けるエンタテインメントを届け、人生にいい関与をし続けられたら素敵だと思います。」


最新公演「ARIA」の一場面

 

ヴァーチャルアーティストという最新テクノロジーにより生まれたIA。
そんなIAと村山氏は、人々に濁りのないまっすぐなメッセージを届け人生に寄り添うために、これからも一緒に走り続ける。

 


【IA OFFICIAL SITE】http://1stplace.co.jp/ia/
【IA OFFICIAL Facebook】https://www.facebook.com/IA.WORLD.PAGE
【MUSICAL & LIVE SHOW”ARIA”】http://planetesaria.com/

Written by
Kanako
1996年生まれ。埼玉県出身。大学で語学や海外カルチャー、コミュニケーションを勉強。卒業後はフリーランスとしてライターや編集を中心に、人々の生活を楽しいものにするために「広める」仕事をしている。愛読書は雑誌、バイブルは"gossip girl"、尊敬する人はアナ・ウィンター。
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Kanako
1996年生まれ。埼玉県出身。大学で語学や海外カルチャー、コミュニケーションを勉強。卒業後はフリーランスとしてライターや編集を中心に、人々の生活を楽しいものにするために「広める」仕事をしている。愛読書は雑誌、バイブルは"gossip girl"、尊敬する人はアナ・ウィンター。
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