いま、世界中のIT企業が進出している、インド。なぜインドはIT大国となったのだろうか?
インドのITのいまを紐解き、いまインドで伸びているスタートアップの紹介を行う。
急成長を見せるインドのITビジネス
インドのIT業界は、2000年以降急速に成長を見せている。2000年には80億ドルの売り上げが、2017年には約20倍の1540億ドルにまで拡大。売り上げの8割は、輸出によるものだという。輸出の6割はアメリカで、次いでイギリス、欧州となっている。
世界経済においても、インドはITの最大の輸出国であり、2006年時点で国内のGDPの40%を占めており、ITビジネスはインドにとっても重要なビジネスなのだ。
スタートアップも急増しており、2016年以降、毎年1000社以上のスタートアップが誕生しており、その数は世界2位のスタートアップ大国・イギリスに次いで第3位だ。
また、ユニコーン企業と呼ばれる、時価総額10億ドル以上の企業も2018年時点で14社登場しているという。このスタートアップの伸び力も、アメリカ・中国に次いで世界で注目されるIT国家たる所以だ。
インドのシリコンバレー・バンガロール
そんなスタートアップを支えるIT都市がバンガロールだ。バンガロールはアメリカのシリコンバレー・中国の深センのようにIT都市として注目される都市。近年では、グーグルやマイクロソフト、インテル、サムスン、フェイスブックなどの企業や、トヨタ、ソニー、ホンダなどの日本企業など350社を超える外国企業が拠点を置いている。
「中国が世界の工場であれば、インドは世界のITサービスセンターである」という評価もあるようだ。また、IT企業だけではなく、世界中の小売りや金融企業も拠点をバンガロールに構えている。
バンガロールにはITエンジニアが100万人以上おり、2020年にはシリコンバレーのエンジニア数を越すと言われている。世界最大のIT拠点となるのも目前だ。
前述したように、スタートアップも急速に増えているインドだが、その背景にはバンガロールに拠点を持つグローバル企業によるアクセラレータプログラムを運用し、支援をしていること、世界的なベンチャーキャピタルがバンガロールに来ていること、インドのIT起業家がエンジェル投資家として若手を支援していることにあるという。
日本には上陸していないアメリカの大手ベンチャーキャピタルが、バンガロールには進出しているという。
インドの人口は2027年に中国を越し、世界一となる。
2015年の国連の発表によれば、2027年にインドは中国を越して世界一の人口を抱える国家となる。現在世界一位の人口の中国は、一人っ子政策の影響により2027年ごろには現在の日本と同じく高齢化の問題に直面する。15歳以上65歳未満の生産年齢人口が減少するため、中国国内で人材を見つけることが今よりも困難になっていく。
そんななか、インドは20歳未満の人口が4割となり、経済拠点としての魅力を高めて行くだろう。
中国が過去10年ほどでアメリカに次ぐ世界第2位のスタートアップ大国になった事例から、テクノロジーとスタートアップと人口が急速に伸びて行くインドが、これからのビジネスのキーとなるのは明白だ。
政府主導のキャッシュレス化によって電子決済サービスが普及。
そんなIT大国・インドでは、政府主導でキャッシュレス化が進められている。
キャッシュレス決済は、民間の経済活動を活性化するだけでなく、インド政府が抱える、ブラックマネーの撲滅、偽札対策などの課題にも対応できる。また、インドのような広大な国土に紙幣を流通させるにはATMなどへの膨大な設備投資も必要となる。地方都市や農村部では、まだまだATMの普及率も低く、移動ATMなどもあるほどだ。また、貧困層は銀行口座を作れない人も多かったため、2009年からインド政府は、指紋と網膜情報に基づいたデジタルIDを全国民に配布する政策を実施している。2016年までに、約11億人の国民にデジタルIDを発行した(参照:infoBRIDGE)。
そのような政策も相まって、インドでは電子決済サービスが急激に普及した。インド最大の電子決済サービスのPaytm(ペイティーエム)は、日本のPay Payのモデルになったといわれている。
2018年5月時点での登録ユーザー数は3億人以上で、2016年12月から1億3000万人増加している。約2年間で日本の総人口規模のユーザー数を獲得したことになる。Paytmの使い方は簡単で、アプリからデビットカード、クレジットカード、ネットバンキングのいずれかでチャージをし、QRコードをスキャンするか、携帯電話番号を入力するだけで、即座に料金を支払うことができる。相手のアカウント情報があれば、個人間送金も可能だ。店頭での支払いはもちろん、公共料金、バスや電車のチケット、屋台での支払いでも利用することができる。さらにはPaytmのプラットフォームから映画やホテル、フライトの予約もできるのも魅力的だ。リサーチから予約、決済まで一貫して行えるため、非常にスムーズに検索することができる。
近年インドではITスタートアップの成長が目覚ましく、国内発の新たなモバイルサービスが広まっている。
ライドシェアサービス・Ola
(出典:techcrunch)
ライドシェアサービスのOla(オラ)はインドでのUberの最大のライバルといわれており、最近は。さらにOlaは、短距離移動だけでなく、都市間の長距離移動も配車可能なほか、車内エンタメや「Ola Money」という決済・オンラインショッピング機能、「Ola Select」と呼ばれる定額制のサブスクリプションプランなど、Uberとの差別化戦略に注目が集まっている。
低価格ホテル予約サイト・OYO Hotels and Homes
ユニコーン企業でもあるOYOは、ホテルと提携して一部の部屋を借り、無料Wi-Fi、朝食、エアコン、テレビをふくむ30項目のチェックリストを独自に作成し基準を満たしているホテルにOYOブランドを与えて部屋を提供しているサービスだ。日本ではヤフーとともに合弁会社を設立し、今年3月に敷金・礼金0円の賃貸アパートサービス「OYO LIFE」を開始した。現在、名だたる大手ホテルを押さえて、客室保有数で世界2位にランクインするOYOは、起業6年のスタートアップ。先日、7月18日に日本で開催されたカンファレンスでは、現在25歳の若さでOYO創業者のリテシュ・アガルワル氏が登壇し「あと数カ月で世界一のホテルブランドになる」と語った。
インド版食べログ「Zomato」
(出典:zamato HP)
Zomatoは、レストランの評価・予約をすることができるアプリで、フードデリバリーも行っている。家にいながらも様々な店舗の料理を注文することができる手軽さから人気を集めている。
レストランをアプリ上でフォローすることができ、リアルタイムな情報を手に入れることが可能だ。さらに、たくさんレストランを評価したり、写真をアップロードすることでユーザーには称号が与えられる。レストラン側の情報量も増え、称号のあるユーザーはフォロワーが増えていくので、両者win-winとなる仕組みとなっている。食事だけでなく、ラッシーやデザート店なども取り扱っており、ZomatoLiveというライブやクラブイベントなどの予約もすることができる。
数あるインドのローカルデリバリーの中でも、地場のスタートアップとしては最高額となる4550万ドルの投資を受けた「Grofers」は、ネットスーパーのようなサービスを提供している。
(出典:Grofers HP )
食材だけでなく、電化製品や、コスメ用品など多岐に渡って配送を受け付けており、配送料も45Rs(約90円)と激安だ。現金支払いはもちろん、クレジットカードやオンライン決済にも対応している。
注目すべきは、ローカル小売店への販売販路を提供している点だ。最近は日本でもAmazonや楽天といったネット通販の普及から、商店街のようなローカル店販売が落ち込み、打撃を受けている。だが、Grofersは、ローカル店の販売販路を提供することで、共存を図っている。プラットフォーム上に商品を掲載するだけで、地域の消費者にアクセスでき、さらには自前で配達網を手配しなくても、Grofersのデリバリー機能の利用で即時配達が可能になる。中には売り上げの30%がGrofers経由という小売店もあるそうだ。
Grofersは、消費者のみならず、地域の小売店にも販売促進を通して大きなメリットを提供している。また、インドでは郊外から都市へ仕事を求めてやってくる人が多くいるが、Grofersはデリバリーボーイ3000人の雇用も生み出している。
急速に動きを見せるインドのITビジネス。バンガロールの動きを見ていると、世界のITビジネスの今がわかると言われている。着実に市場を拡大し、優秀な人材を確保するバンガロールの動きに、今後も目が離せない。