2019.4.16

ここ2年の間でアメリカを中心に爆発的なブームを見せる、”シェアリングキックスクーター”をご存知だろうか?

昨今、ミレニアム世代を中心とした”物を所有しない価値観”を背景に、多種多様なシェアリングエコノミーサービスが世界中で登場している。その中でも世界的に非常に大規模な市場を持つのが乗り物や移動手段などのモビリティ市場だ。

現在、モビリティシェアサービスは、時価総額約11兆円のUberやLyftで知られる車のシェアだけでなく、自転車や電動キックスクーター(以下:キックスクーター)などその幅を広げている。本記事では、2017年にアメリカで登場して以来、劇的な盛り上がりを見せるキックスクーターのシェアサービスについて紹介し、今抱えている課題点や、日本での普及の未来について想像していく。


キックスクーターの2大企業は、元Uberの重役が仕掛けるBirdとGoogleから出資を受けるLime

1985年に世界初の電動キックスクーターが発表された。その後、2002年のセグウェイの開発によって注目が集まり世界的な普及を期待されたが、当時のぎこちない機体では普及が難しく、爆発的に広がることはなかった。

それから10年が経ち、大幅なコストカットもできたキックスクーターは徐々に移動手段としてアメリカを中心に普及しはじめる。

そして、2017年にUBERとLyftで重役を務めたトラビス・バンダーザンデンがUBERを退職後にシェアリングキックスクーターサービス「Bird」を設立。

ライドシェアリングの最大手の重要人物だった人間が、キックスクータービジネスも仕掛けているのだ。Birdは今夏までに欧州と中東の50都市でサービスを展開すると発表したばかり。

同じく2017年、Birdの競合とされる「Lime」もサービスをスタート。

「Lime」は現在アメリカ、イギリス、フランスなどで展開され、2018年7月にはGoogleの投資部門であるAlphabetやUberから3億3500万ドル(約371億円)の出資を受けている。今年3月にはGoogleマップとの連動も発表。

2社を筆頭に、現在Skip・Scoot・Spinといった同様のシェアサービス運営を行う企業が登場している。


乗り捨て可能なシェアリングキックスクーターで街を駆け回る

キックスクーターのシェアサービスが盛り上がりを見せている背景には、キックスクーターという乗り物の利便性の高さがある。例えば時速25キロ程度までスピードが出せることや、キックスクーターという乗り物の特性から渋滞に巻き込まれないこと、狭い道でも通行できることなどが挙げられる。

また、どのサービスを利用しても使い方や値段設定はおおよそ同じであることもユーザーにとっては嬉しい。キックスクーターを利用する際は、それぞれのサービスの専用アプリを用いることで、街中のどこにキックスクーターがあるかを簡単に見つけることができ、キックボードのQRコードを読み取るだけで乗車ができるのだ。

料金はキックスクーターの基本利用料が1ドル、さらに1分ごとに15セントが加算されていく。
さらに、利用後はその場で乗り捨てができるのも、人気を集めている理由の1つだ。


世界最大に盛り上がった中国のシェア自転車がぶち当たった社会問題に、キックスクーターはどう取り組むか?

一方、キックスクーターによる社会問題が広がっているのも現実だ。

乗り捨てできるがゆえに、他者の通行の妨げとなる場所にキックスクーターを置いていってしまう人がいることや、時速25キロ程度のスピードが出せるという点から安全性についての指摘がなされている。現在、サンフランシスコでは町中のあちらこちらにスクーターの乗り捨てが広がり、社会問題になりつつある。

この状態は、中国のシェア自転車の現状と似ている。
ここ数年で爆発的に持ち上がった中国のシェア自転車サービスは、現在急速に落ち込みを見せている。

中国では、mobikeとofoに2社のシェアリング自転車サービスが市場を席巻し、2016年には中国・上海が世界最大の自転車シェアリング都市になった。数年で急速に盛り上がりを見せ、日本にも上陸した中国のシェア自転車市場だったが、2018年に入るとシェアバイクの供給過多によりメンテナンスが間に合わないことやマナーを守らないユーザーが爆発的に増え社会問題となり、2018年に入ると大きな損失を出し、国際事業も撤退し現在は経営難ともいわれている。

mobikeやofoは日本でもシェアリング自転車サービスを展開したが根付かずに撤退しているが、現在日本ではdocomoやソフトバンク系など国内の企業が参入をはじめている。

すでに東京や大阪などの都市を中心に実用化が行われており、アプリとの連動で電動アシスト自転車に乗ることができる。

自転車のシェアサービス利用法も、キックスクーターのサービスとほぼ変わらず、手軽に利用できるものとなっている。

また、面白いのがBird同様mobikeの創業者である王暁峰も元々上海Uberの総経理だったことだ。世界でライドシェアの第一線を走るUberの事業者が虎視眈々と次なるライドシェアサービスの未来を想像していたのだ。

そんなシェア自転車だが、中国がぶち当たり縮小してしまった事例を、キックスクーターではどのように対処していくかにこれらのサービスが今後どう伸びて行くかがかかっているだろう。

世界中に広がるキックスクーター。「歩くことの代替品」という巨大な市場

Limeに投資をしているシリコンバレーのVC・Andreessen Horowitzのアンドリュー・チャンは、これらのキックスクーターの未来についてこう語る。

「スクーターは、楽しくかわいく、冒険的でワクワクさせる。スクーターは子どものおもちゃから発展したもので、おもちゃには次のイノベーションの可能性があると思っている。

飛行機やカーシェアリングほど多くのお金を一度に稼ぐことはできないが、都市のいたるところに配置されているスクーターをユーザーは歩行の代わりに利用し、少額の金額を払っている。まさにスクーターのシェアリングサービスは歩くことの代替手段。つまり巨大な潜在的市場を持っている。」

2018,6/13Andrew chanのTwitterより

歩くという人間の普遍的な行動自体が市場価値であるという言葉通り、現在、キックスクーターのシェアサービスはアメリカ(2018年8月時点でアメリカの26州80都市にて導入済)や欧州へも広がりを見せている。

先述したようにBirdは今夏までに中東でも市場を広げると宣言している。

また現在、日本でもUberが手がけるフードデリバリーサービスUber EATSなど、一般の人が宅配を行うサービスが登場しているが、Uber EATSの宅配にシェア自転車を利用する人もも多いという。移動のシェアリングエコノミーが異なるシェアリングエコノミーを支える形となっているのも興味深い事例だ。こうした形でシェアリングサービス同士がサービス成長を促す事例もあり、キックスクーターも例えば近隣へのメッセンジャーサービスなどと提携したらさらに飛躍することも起こり得る。

どうしたら日本でも普及するのか?大学構内や郊外の施設に可能性が眠る。

日本での導入も期待されるキックスクーターのシェアリングサービスだが、現在の日本の法律では、電動で動くキックスクーターは原動機付き自転車に該当するため、公道での走行にはナンバープレートや指示器、ヘルメットや免許などが必要となる。これにより、いきなりの日本展開はできないのが現状だ。

しかし、欧米で幅広く利用されているこのサービスを日本にも導入するため、株式会社AnyPayが福岡市と協力してmobbyというキックスクーターのシェアサービス実証実験を行っている。


(mobbyのキックスクーターを試乗する福岡市長、CNET Japanより)

また今年4月、キックスクーターのシェア事業を行う株式会社Luupは、静岡県浜松市・奈良県奈良市・三重県四日市市・東京都多摩市・埼玉県横瀬町との連携協定を締結。自治体との連携により、キックスクーターの安全性や利便性を実証実験するだけでなく、まちづくり施策との連動も期待されている。

 

そもそも、中国のシェア自転車サービスであるofoは北京大学の構内からスタートした。

当時北京大学の学生だったofoのCEOの戴威が学内で自転車貸し出しサービスを始めたのが創業のきっかけだ。

日本での新規ライドシェアサービスが市場を広げるためにも、大学という口コミが広がりやすく広大な敷地がある場所でのテストサービスは可能性を広げると思われる。

また、キックスクーターが公道を走るには道路交通法の関係もありなかなか難しいが、大学敷地内での実証実験はそのハードルが大いに下がる。

実際に筑波大学がある筑波研究学園都市には、つくばモビリティロボット実験特区と呼ばれる実験場もある。例えば筑波大学のような広大な敷地のあるキャンパスなどでの、試験的なサービス実施は親和性がありそうだ。

また、駅からタクシーを乗る距離ではないが歩くのにも少し遠い、といった駅から離れた施設への移動にも役立ちそうだ。実際に、欧米で急伸中のシェアキックスクーターサービスがWind Mobility Japanは、日本で初サービス運用の場所として、埼玉高速鉄道 埼玉スタジアム線 浦和美園駅を選んだ。

ここは、駅から徒歩15分の距離に埼玉スタジアムがあり、最寄駅として使われている。

徒歩15分の距離にキックスクーターがあれば、移動がぐっと楽になるだろう。

Wind Mobility Japanは、ベルリンを拠点とし、ヨーロッパを中心とした世界16都市でサービスを提供しているようだ。

このサービスは今年3月29日にサービスローンチされたばかり。

日本初上陸のシェアキックスクーターサービスのこれからの展開に追随する企業も注目しているだろう。

公道でなければ上記条件を満たさずとも走行が可能なため、大学や工場などの施設内移動や、観光スポット巡りなどの利用は今でも可能だ。日本において、欧米のように街中を自由にキックスクーターで走り回る事は現状できないが、安全性や利便性が証明されれば、日本での公道利用もそう遠い未来ではないかもしれない。

これから世界の移動はどのように変化していくのか、どのような移動手段が登場してくるのか、日本でのシェアリングキックスクーターの普及への期待とともに楽しみにしたい。

(執筆:竹林広 編集:前田沙穂)

 

Written by
竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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