日本に本社を持つ小売企業が、世界80か国3600店舗展開を達成した。一体そんな勢いのある小売企業はどこなのか、と思うだろう。ダイソー?無印?イオン?ユニクロ?はたまた…
そのどの企業でもない。正解はメイソウ(MINISO・名創優品)だ。メイソウは中国を中心に世界各国で主に雑貨販売を行っている店舗である。 雑貨から日用品まで、日本のDAISOのような品揃えで、金額は日本円で200円〜300円のものを多く揃えている。
イラストやパステルカラーなど可愛い色味を用いた商品や、低価格にしては洗練されたデザインが魅力なラインナップを揃え、若い女性を中心に人気を集めている。
メイソウの商品パッケージには日本語を使用しており、店舗の内装においても日本語のコピーを多用している。
が、メイソウは2013年、中国・広東省広州からスタートした企業だ。メイソウCEOは中国人起業家の葉国富氏。メイソウ創業以前にはアクセサリーショップのチェーン店「哎呀呀(Aiyaya)」を創業し中国全土に展開している。共同創業者は日本人・三宅順也氏。彼は文化服装学院出身の日本人デザイナーとして、メイソウ店舗に「日本人デザイナー」と銘打たれたポスターが飾られている。さも日本で有名なデザイナーかと認識されそうだが、日本での知名度はほとんどない。
メイソウは、中国人経営者による中国商品の小売販売にもかかわらず、「日本ブランド・日本デザイン」と銘打ち、世界展開を行なった稀有な事例だ。
メイソウの会社登記は、東京・銀座。しかし実質的な経営・資本は中国にあり、あくまで日本の本社登記は「日本ブランド」の事実を作るためのものだろう。
メイソウは私が現在生活している日本の裏側の南米コロンビアでも精力的に店舗を展開している。コロンビア国内に現段階で23店舗展開。コロンビアのみならずラテンアメリカ圏の北米メキシコにも精力的に展開しており、店舗数は2018年末時点で100店舗を超えている。さらにメキシコ国内のメイソウの店舗数は2019年内に180店舗になると報告されている。ちなみにダイソーも無印もユニクロもコロンビアにはない。アジア以外に目を向けてグローバルにみるとメイソウがリードしている格好だ。
今回、本記事を書くにあたりこのばく進中のメイソウの海外店舗(南米コロンビア・メデジン)を訪問。さらに現地消費者への聞き取りも試みた。その結果判明したのは海外における日本のソフトパワーの蓄積の凄さとそれが十分に活用されていない”もったいなさ”であった。
日本では”当たり前”なものが、海外だと独自性のあるものとして認識される
メイソウの実態を探るべく南米コロンビア・メデジンに所在する実際に店舗に足を運んでみた。
店舗の外からも大量のぬいぐるみが積み重なっている様子が確認できる。こういったディスプレイをしている店というのはメイソウ以外にはまず見かけない。インパクト大だ。
入口には「FROM JAPAN TO THE WORLD」とコピーがどでかく掛かっている。ぬいぐるみに続き、このコピーである。メイソウのことを詳しく知らない人は完全にメイソウを日本企業だと認識するだろう。
写真のように、メイソウ店舗の内装は非常に洗練されている。
メイソウのデザインコンセプトは「シンプル、ナチュラル、ハイクオリティ」でブランドコンセプトは「自然、ありのまま、本質回帰」。店内には多様な商品が陳列されているものの統一感があってシンプルさもある。さらにシンプルでありながらも、ゆるキャラのぬいぐるみやかわいらしい雑貨、内装のデザインが”暖かみ”を感じさせ、落ち着く空間となっている。この”暖かみ”とは極めて日本的なものだと認識している。
競合他社と対比してみるとわかりやすい。DollarCityというカナダ発の小売店がコロンビアに展開しているのだがその”暖かみ”は一切なくあくまでも合理的な印象を与える。
一方、中国小売のメイソウは日本的な”暖かみ”を再現することに成功し独自の空間を創り上げている。
商品棚も商品を手に取りやすいようにそれぞれの商品に最適化されて設計されており快適な購買体験が提供されている。
商品ディスプレイに関しても見事。おしゃれでかわいらしいい空間が演出されている。まるで日本の雑貨店にいるような感覚。
アロマディフューザーは同じく世界展開している日本の小売企業・無印良品で世界的ヒット商品となっているものだ。
メイソウにおいてもアロマディフューザーは定番の商品として陳列されているがデザインもシンプルでかわいらしい。アロマディフューザーは現地コロンビアにおいては見かける事の少ない商品。店内のコロンビア人は物珍しそうにテスターを使用していた。
あえて言語をローカライズしない。海外から見た日本の強みを生かした商品設計
ダイソーでも見かけるフェイスローラーは8900ペソ(日本円340円)。日本国内だとありふれた商品だが、コロンビアでは見かけることのない日本的な商品と言える。現地のコロンビア人の女性はこのフェイスローラーを次々と商品かごに投入していた。
フェイスローラーの商品パッケージを見ると日本語の説明書きが載っている。これがメイソウの商品が「日本の商品」であることを消費者に認識させる役割を果たしている。
フェイスローラーの商品パッケージのみならずメイソウのほぼすべての商品パッケージには日本語の説明書きもしくは何らかの形で日本発の商品であることを示したものが多い。
このイヤホンの商品パッケージもコロンビア現地の言語であるスペイン語ではなく日本語を載せている。日本が世界で認識されている「職人気質」「クオリティの高い製品」といったポイントを活用し、メイソウはあえて言語をローカライズしないのだ。
たとえばiPhoneは、商品の機能や仕様はグローバルに統一されている。しかし言語は各ローカルの言語を採用している(ディスプレイの言語表示から説明書etc..)
しかしメイソウはその言語のローカライズすらあえて最小限にしている。その目的はつまり”日本”を体験してもらうためだろう。コロンビアでは日本語を読む機会はほとんどないし日本語をコロンビア人に見せると「うわっなんだこれ?凄い!」と驚かれることが多い。過去に蓄積されてきた、日本企業やアニメといったコンテンツで受けた日本のイメージも併せって良いサプライズを与える。
メイソウはECでの買い物を好む人も増えている時代に、そうしたサプライズ性や、商品の豊富さカラーリングなど、メイソウは店舗ならではの体験を提供していると感じる。
経済産業省が2018年5月16日に発表した「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると日本の消費者向けEC市場規模は前年比8.96%増の17兆9845億円。小売の売上全体に対するEC売上の比率も前年比で0.43ポイント増加して、6.22%となった。着実に消費者がECで買い物をするようになっている証拠だ。そんな時代において”店舗”ならではの体験を提供することが求められる。メイソウはその点において模範となる存在ではないだろうか。
日本のイメージを巧みに活用して新興国の消費者のニーズを汲み取るメイソウ
まずメイソウの店舗内で遭遇した2人組の大学生に話を聞いてみた。彼女たちはメイソウを日本の企業だと認識していた。メイソウに対する印象を聞いてみたところ「これまで見たことない商品があって凄く新鮮」「かわいらしいものが多い。品質も良さそう」とのことだった。
またメイソウで商品を購入済みのコロンビア人によると「コロンビアでは一般的には中国の商品は安いけど品質が悪いというイメージがある。でも日本の商品に対しては品質が良いというイメージがある。」とのことだった。
日本の商品は品質が良い、またはユニークなものが多いというのがコロンビア人の一般的な日本へのイメージだ。そのイメージは非常に強力なものであり一朝一夕で築けるものではない。過去から今日に至るまで日本企業の家電やアニメ輸出を通して蓄積されてきた日本のソフトパワーと言えるだろう。
そして、その日本のイメージを巧みに活用して新興国の消費者のニーズを汲み取っているのがメイソウだ。
コロンビア現地において安価で雑貨・インテリアを買おうと思うと中国人が経営する雑貨店やDollarCityくらいしかオプションがない。事実、私はメイソウを見つけるまでは中人経営の雑貨店やDollarCityを利用していた。しかし、それらの店の商品というのは安かろう悪かろうでデザイン性はあまりよくないし品質も良いとは決して言えないものだった。わずかに価格は上がるもののデザイン性の高い商品が揃ったメイソウで買い物をしたほうが満足できる。
そうして日本発のコンセプトの商品、日本語を店内で多用するなど日本押ししてきたメイソウだが最近では独自の商品開発にも力を入れている。
ハローキティ、アドベンチャー・タイム、ぼくらベアベアーズ、マーベル・スタジオなどのキャラクターを生み出してきた日本・米国の企業と提携。これら提携企業のキャラクターを活用して商品開発にも取り組んでいる。
アドベンチャー・タイムのフック。アドベンチャー・タイムはゆるキャラの様だが米国で人気のアニメキャラクターだ。
ノルウェーのデザインスタジオPermafrostとコラボしたデザイン性の高い商品もリリースしている。
パクリからグローバルブランドに脱皮したメイソウ
実質は中国企業だが、登記場所やデザイナーの起用、言語などによって包括的に日本企業と認知させるやり方を徹底し、世界規模のブランドとなったメイソウ。日本では、度々パクリと呼ばれて批難もされてきているメイソウ。確かにその手法がモラル的に良いのかという議論もあるが、そんな議論をよそ目にメイソウはもはやグローバルブランドとしての地位を確立させつつある。以下ダイソーと無印良品の良品計画の店舗数比較である。
ダイソー:店舗数(2019年3月現在) 日本3367 国外28カ国2175 計5542店舗
良品計画※無印良品含む:店舗数(2019年7月現在) 日本458 国外27カ国517 計975店舗
MINISO:店舗数(2019年7月現在) 世界80カ国 計3600店舗
さらに2018年12月、メイソウは「2022年までに100カ国、1万店舗展開する」と公表している。これは大風呂敷を広げてるわけではなく現実的な目標ではないかと考えられる。なぜそう言えるのかというと北米メキシコにはつい1年半前までメイソウの店舗はほとんどなかった。それなのに今ではメキシコ国内に100店舗以上も店舗が展開され首都メキシコシティの街中の至る所にメイソウの店舗がある。メイソウは物凄いスピードで世界中に店舗を増やしている。これは当然ながら現地消費者の支持があってこそだ。メイソウの”日本的”なコンセプトが世界中でバカウケしてるのだ。
メイソウの躍進を通して見えてくるのは日本のソフトパワーの蓄積の凄さである。それと共にそれが日本企業によって十分に活用されていない”もったいなさ”も際立つ。
中国企業メイソウが日本企業に先んじて”日本的”なコンセプトで世界中で人気を得ている事実は少々残念ではあるがメイソウの日本のソフトパワー活用例から参考にできることは多いだろう。なおメイソウ創業者の経歴や創業から今日にいたるまでの経緯についてはPRWireやこちらの記事に詳しく書いているので参照いただきたい。
日本を多面的に捉え、日本からグローバルブランドは作り出すことができるか?
中国国内でもメイソウの爆進撃は一つのロールモデルとなっており、メイソウのやり方を模範した小売企業も続々と登場している。
ゆうやと、と書かれた日本語がなんとも理解不能なUSUPSO(優宿優品)は外装も内装もメイソウを模範している小売店だ。USUPSOも中国企業にも関わらず、東京に本社があると謳いながら海外展開を行い、現在アメリカ・フィリピン・インドネシア・ドバイに出店を行なっている。
また、同じ手法で北欧風の雑貨を展開するNOMEという小売も存在する。こちらも同じく低価格でデザイン性を北欧風に寄せた雑貨を展開。本社はもちろん中国だ。
また、近年世界で流行中の韓流ブームにあやかり、韓国風の雑貨を展開する企業も。こちらもメイソウと同じくハングルを多様し、K-POPを店内で流し、韓国ブランドのように思わせて中国や東南アジアで展開。メイソウの成功は、多くの経営者を刺激し、こうした模範店は続々と生まれてくるだろう。トレンドを捉え即反映する姿には驚かされるばかりだ。
日本の持つコンテンツパワーやクオリティを、グローバルに変換しどう展開していくか?中国企業はそのあたりがだいぶ優れているといえるだろう。
この状況を見て「パクリじゃないか!」と目くじらを立てるのは簡単だが、メイソウの成功例から学ぶことも多々あるのではないだろうか?
アニメ、COOL JAPAN、職人・伝統など、一面的で見てしまいがちな日本企業だが、いかに多面的に日本の優位性を捉えビジネスに変えていくかが今後問われていきそうだ。