2019.11.11

OMOという言葉を聞いたことがあるだろうか?
「Online Merges with Offline」の略称で、日本語では「オンラインとオフラインの融合」という意味になる。

2017年に提唱されたマーケティング概念であるOMOは、これまでO2Oやオムニチャネルと呼ばれ取り入れられてきた、「オンラインとオフラインを分けて考えたうえで、それぞれに最適化したユーザー体験を構築する」のとは異なり、「オンラインとオフラインを融合し、顧客のあらゆる体験を構築する」ということ。

前者はECショップとリアルショップを切り分けて考え、それぞれの購入フローを最適化するのを考えるのに対し、後者のOMOでは、提案ー購入ー決済ー配達まで全て一貫して最適化することを指す。

 

 

こうしたOMOの考え方は、スマホの電子決済が当たり前になっている中国ではすでに一般化している。中国のメッセンジャーアプリ・Wechatでは、生活品から服飾・ファーストフードの購入決済から保険加入、電車の時刻確認まで全てWechatのアプリ上で行え、オフラインとオンラインの垣根がなくなっている。
中国大手フードチェーンの周黒鴨では、Wechatと連携した顔認証を店頭で行なっており、顔認証が完了するとアプリを立ち上げることなく、顔認証のみで購入が完了するなど、中国でのOMOの進化は驚きの発展を遂げている。

日本でも、国内最大手のメッセンジャーアプリ・LINEがOMOの概念を積極的に取り入れ、2018年ごろよりLINEショッピングやLINEトラベルなど、LINE上でサービス提供が完結するOMOサービスに力を入れている。

そんなこれからのマーケティングを語るのに欠かせないOMOだが、南米・コロンビアにソフトバンクグループファンド「ソフトバンク・イノベーション・ファンド」が、最初の投資先として10億ドル(約1,080億円)を投資した、OMO宅配アプリがある。

 

それが、2015年にコロンビアで創業したコロンビア企業「Rappi」だ。
ローンチして4年足らずのRappiだが、すでにコロンビア国内だけでなくメキシコ、ブラジル、チリ、ウルグアイ、ペルー、エクアドル、アルゼンチンにもサービスを拡大している。

筆者が滞在しているコロンビアには、アマゾンのような巨大なECは存在せず、オンラインで物を買う習慣は日本ほど根付いていなかった。買い物は実店舗が主流だったが、Rappiの登場によってほんの1年でその状況はガラリと変わった。今回、このRappiを利用して見えてきた、OMOが目指すオフラインとオンラインの融合の様相をお伝えする。


Rappiが生活を向上させる。単なる宅配アプリではないRappi

南米のアマゾン・Rappiでは、レストランの料理、スーパーの肉や野菜、薬局の薬、さらにはヘッドフォンなどの品物を何でも注文できる。注文後わずか30分ほどで商品は到着。配達スピードだけ見ればアマゾンを超えている。30分で商品が到着するので実店舗にわざわざ足を運ばずスマホで買い物を完結させる人も出てきている。

RappiのビジネスモデルはUberEatsと近しい。

1.顧客がRappiスマホアプリで商品を注文する。

2.顧客の注文を受けて宅配員のスマホに自動的に宅配依頼が入る。

 宅配員のスマホに表示された宅配依頼の承諾画面

3.宅配員はその指示にしたがってレストラン・店舗に商品を受け取りに行く。

 レストランで料理を受け取る宅配員

4.宅配員が商品を受け取ったら次は顧客の元へと商品を宅配。
Rappiの宅配員用アプリのナビにしたがって宅配する。

 宅配員はバイクもしくは自転車で宅配

5.顧客宅を訪問。

6.宅配後、宅配員は距離や時間に応じた宅配料を受け取る。Rappiが得る収益源は宅配を依頼するレストラン・店舗からの手数料が主となっている。


この一連の流れが、Rappiのフローだ。
店舗側としてはRappiを利用することでオフラインではリーチできなかった人に対してリーチできるようになった。実際、レストランや薬局に行くとRappiの宅配員がひっきりなしに商品を店舗から受け取っている様子を見かける。

従来なら店舗を訪問してきた顧客にだけ商品を販売していたわけだが状況は大きく変わった。今ではRappiアプリからの注文がひっきりなしに入っており、売上拡大の大きなチャネルとなっている。店舗にとってRappiを利用することで得られるメリットは多大だ。

 

 

日常に欠かせないアプリとなった「Rappi」

 

 

顧客にとってもRappiは日常生活で手放せない存在のアプリとなっている。
Rappiのスマホアプリには様々なメニューが並んでいる。
UberEatsの様にレストランの料理を宅配してもらえるほか、スーパーや薬局、家電メーカーの品物を何でも注文できる。生鮮食品なども注文可能だ。

私は先日、深夜1時ごろに強烈な頭痛に見舞われ、Rappiで頭痛薬を購入。30分ほどで宅配してもらった。緊急時の深夜の配達にも対応し、多様な商品を宅配してもらえる点でUberEatよりも確実に勝っているといえる。

さらにRappiは日常の”困った”を解決してくれる様々なサービスを提供している。
以下でRappi上の主な提供サービスを紹介していこう。


現金引き出し代行サービス「CajeroATM」

現金が今すぐ必要な時に役立つのが「CajeroATM」だ。
Rappi宅配員が顧客に代わってATMで出金し最大で40万ペソ(約1万5000円)まで届けてくれる。その代金はRappiアプリ上でクレジット決済する。


おつかい代行サービス「RappiFavor」

「RappiFavor」は犬の散歩や物の配達などの何らかの用事を頼めるサービスだ。たとえば自分は勤務中で手が空いていないけれども今すぐ家の鍵を家族に渡す必要があるとする。その場合に「RappiFavor」を使うと良い。

自分が働いているオフィスまでRappi宅配員に来てもらい鍵を家族の元へと運んでもらえる。犬の散歩や公共料金の支払いを頼んだり買い物を頼むことも可能だ。

出張脱毛サービス、車の清掃、エアコン修理など各種出張サービス

Rappiから出張脱毛サービスや車の清掃サービス、エアコンの清掃や修理サービスなど各種出張サービスも依頼できる。決済もすべてRappi上で一括でできるので便利だ。

シェアリング電動キックボード


Rappiアプリ上からシェアリング電動キックボードも利用できる。

マップを見てどこにキックボードがあるのかや充電量の状態(50%、80%など)を確認可能だ。キックボードに記載されているQRコードを読み取って解錠。走行時間に応じ課金されRappi上から決済可能だ。

モバイル決済の「RappiPay」


モバイル決済機能「RappiPay」も便利だ。

クレジットカード、デビットカードでRappiPayにお金をチャージする。するとそのRappiPayのお金はRappi上での商品・サービスの決済に使えるだけでなく同じくRappiを使用しているユーザー同士でお金を送ったり受け取ったりできる。

 またRappiと提携しているレストランや小売などの実店舗での決済にもRappiPayは利用可能だ。

 


顧客接点を増やし大量のデータを蓄積、顧客体験向上へと活用 

 

Rappiはレストランや店舗から購入した商品の購買データだけでなくシェアリング電動キックボードの移動データ、「RappiPay」による実店舗での購買データも集まる。

Rappiはアプリ経由でオンラインだけでなくオフラインにおけるデータをも収集・蓄積し始めている。

これらの大量のデータにもとづきその顧客におすすめの商品やサービスの販売促進を行い購買率を向上させることもできる。たとえばデータからその顧客が健康志向だと分かったならば野菜やサプリ、提携ジムのプロモーションを行うことも可能となる。

まさに、OMOが理想とする「リアルチャネルもオンライン化しオフラインとオンラインが融合した状態」実現しようとしているのだ。


またそれ以上のデータ活用の可能性も今後はありうると考えられる。中国アリババ傘下企業のスマホ決済「アリペイ」には芝麻信用という機能がある。これはスマホを通じて顧客のSNSや公共料金の支払い状況などのデータを収集・蓄積し信用スコアを算出するものだ。その信用スコアに応じて顧客はローンに通過しやすくなったり、賃貸のデポジットが不要となったりする特典を享受できる。

Rappiはアプリ上でオンライン・オフラインにおける高頻度な顧客接点を得て大量のデータを収集・蓄積し顧客体験の向上に活用するOMOのユニークな事例となる可能性を秘めている。

 

現在、日本でも頻繁に勧められている決済の電子化。LINEpayやPayPayなど、競合が立ち並ぶ市場だが、電子決済のその先にあるユーザーのニーズは、RappiやWechat・アリペイのように「生活に必要なサービスを一貫化してアプリで提供してもらえること」だろう。

こうした他国の事例をみていると、電子決済戦国時代の日本で一番のシェアを握るのは、OMOの構築を握れたサービスになるといえるだろう。日本でのOMOのさらなる普及に期待だ。


 

Written by
若 旦那
若旦那 Webメディア運営、Webマーケティング代行業のほか現代ビジネスやGetNaviでも連載中。南米コロンビアと日本の2拠点生活実験中。運営ブログはこちら(https://kaigaihanno.com/kaigai/)
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