今年に入って世界で感染が拡大している新型コロナウイルス。
世界中で様々な情報が日々SNSを通じて飛び交う中、不安を煽るデマ情報や度重なるイベントの中止、インバウンドの損失など経済的ダメージが大きい。
そんな中、アクティブユーザー11億人の中国最大のメッセンジャーアプリ「WeChat」では、感染状況をリアルタイムで配信するサービスを追加するなど、テクノロジーが感染拡大を防ごうとしている。
3月5日には、一部の地域をのぞき終息に向かっていると中国は発表した。スピーディな感染拡大防止には、テクノロジーが何役も買っているだろう。
今回、メッセンジャーはもちろん日常生活に欠かせない決済、ニュース、SNSなど様々な機能が集約されている中国版LINEと言われ、11億人が使うアプリ「WeChat」で次々と追加された新型肺炎拡大防止施策を紹介する。
健康コード機能に800個を超える医療用ミニプログラムがスピーディに登場。
AlipayとWeChatに健康状態を示す「健康コード格付けシステム」がローンチ
新型コロナウイルスの拡大を阻止する対策として、2月半ばWeChatとAlipayはそれぞれ「健康コード」をリリースした。これは、健康状況をひとめで可視化するためのコードで、「良好」と判断される場合は緑のコードが表示され、学校や複合ビルなど自由に移動することが可能。
しかし、黄色だと7日間の自己検疫を要請され、赤だとさらに14日の自己検疫を求められる。
登録画面では、渡航歴や健康状態などを入力を行うようだ。その際に虚偽の申請は絶対に行わないように明記されており、政府と連携した仕組みのため、記入者は事実のみの記入しか行えない。
個人が入力した身分証明書や健康情報は政府が把握しており、隔離が必要な期間が過ぎ、かつ健康状態が確認された場合緑のコードが付与されるという。
現在はいくつかの地域に限って実装されており、プライバシーに対する不安の声も聞こえるが、対応の早さには賞賛の声があがっている。
24日間で800個の医療ミニプログラムが誕生
2017年1月にWeChatがサービスを開始した「ミニプログラム」機能は、アプリを新たにインストールしなくても、WeChat上で様々なアプリと同じようなサービスが使える機能だ。iPhoneやAndroidのAppStoreが、LINEの中にあるような状態だ。
ミニプログラムは、累計120万個リリースされ、日間アクティブユーザーは1.5億超となっており、日常に欠かせないサービスである。(2018年末時点)
そんなミニプログラムは、新型肺炎蔓延にともない、1月20日から2月13日までの24日間で800個もの医療ミニプログラムがローンチされた。
例えば、下はチェックイン機能のミニアプリだ。コードをスキャンすると個人情報を求められ、自分がどこに出入りしたかを記すことができる。
最も活用されたのは、オンライン問診だ。自宅隔離や病院に行けないユーザーに対してWeChat上でインストールなしで素速くオンライン問診が行えるプログラムだ。
オンライン問診以外の肺炎関連のミニプログラムも100個以上リリースされ、平均開発期間は2-3日とされている。今回の新型肺炎関連は異例の多さだったため、WeChatチームは24時間の審査体制を整えたようだ。
筆者の実家である河南省のマンションでは、入居者の外出後、ミニプログラムで健康チェックを行うなど、民間単位でも導入が行われている。
WeChat内で全土から自分の都市まで、感染状況を確認
感染状況がリアルタイムで届くストーリー機能
中国国内の感染状況を素速く確認できるよう、WeChatは複数のサービスで感染者数のリアルタイム情報を提供。
WeChatでニュースを配信する「トップストーリー機能」と呼ばれるニュースフィードの最上部に、中国国内最新感染状況のリアルタイム数字を表示。
累計症状者数や死亡者数、疑似症者数のほか、ハイライトでは完治し退院できた人数も確認できる。
その他にもデマ情報への注意喚起や、クリニックを調べる機能、AIによる症状判定などの機能が追加され、新型コロナウイルスに関するあらゆる情報の確認がWeChat上で可能となっている。
日本のLINEでも、ニュースタブの上部に新型肺炎の最新状況まとめへの導線を設けているが、さらに詳しい情報がWeChatでは確認することができるようだ。
また、自分の都市に絞って、感染状況を確認することもできる。
WeChat では生活インフラをサポートする「都市サービス」機能があり、医療保険残高の確認や税金申告などがオンラインで行える。このサービスにも新型コロナウイルスの機能が追加された。ここでは、自分が住んでいる町の新型コロナウイルス状況を確認できる。周辺の町の感染状況の確認や都市の切替も可能だ。
さらに詳しい感染情報も。
「ヘルスケア」ページも緊急リリースされた。WeChatPayの画面からヘルスケア情報がまとまったページへワンタップで遷移。ここでは、1で紹介した内容よりもさらに詳細な感染に関わる数字を知ることができ、ひとめで全国や自分の住む都市の肺炎状況が確認可能だ。
日本でも、スマートニュースやLINEが感染状況がひとめでわかるページを追加。
マスメディアやTwitterで情報が錯綜している状態では正しい数字がわからず不安を引き出す。
が、こうした日々使うアプリで定量的なデータが得られるのは、予防と安心に繋がっているだろう。
外出しないでマスクも野菜も手に入る。買い物もWeChatで完結。
感染拡大防止のために、中国では外出を厳しく制限された地域も多く、日本でも外出を控える動きが国内では広がっている。それでも必要な食料や日用品は購入のためにスーパーに行かなければいけないのが日本だが、中国ではそれらもWeChatで完結することができる。
WeChatではモーメンツ(タイムライン)の投稿や、公式アカウントから記事まであらゆる内容を検索できる機能「搜一搜(sou yi sou)」が搭載されている。
「搜一搜(sou yi sou)」で「新型肺炎」と検索すると、全国の最新肺炎状況や必要品の購入先などが検索結果として表示される。いわば、LINEの中にGoogle検索がついているようなものだ。
ユーザーは「搜一搜(sou yi sou)」で検索し、出てきたミニプログラムでそのままWeChatPayを使って購入が可能。
また、ミニプログラムの利便性も新型肺炎で発揮された。
ミニプログラムを活用しているECサイトも多く、例えば「マスク、アルコール消毒液」検索で、ECミニプログラムの商品や値段のプレビューが表示され、ワンクリックで商品が購入できる。もちろんWeChat payでの支払いが可能だ。
日本ではGoogleやYahoo!で検索、Amazonや楽天で購入と検索から購入まで1フローではできないが、WeChatではその検索から購入まで完結する。こうしたWeChatの利便性の高さが、今回の新型肺炎では再評価された。日本ではAmazonフレッシュが一部生鮮食品などの配送を行っているが、まだ全国でカバーできているとはいえず、今回のような事態でもECで生鮮食品を購入できるには至っていない。
日本でも新型コロナウイルスの感染状況が悪化し、企業や学校など社会的な影響が拡大している。
中国でもリテラシーの低い地域もあり全てが優れているわけではないが、テクノロジーを活用したスピード感のある対応で感染拡大防止になっているだろう。
また、不安を煽るデマ情報の拡散を防ぐ動きも素早い。
日本ではまだ終息の兆しをみせないが、どうかこれ以上の拡大にならないよう皆が情報とテクノロジーを正しく活用し行動することを願う。