2017.12.7

季節のイベントに合わせて、企業がプロモーションをするのは日本に限った話ではない。諸外国でも、多く見られる動きである。今回は、インドで行なわれているラーキー(ラクーシャ)・バンダンという、祭りに合わせて行ったプロモーションに注目したい。


男尊女卑が根強いインド

ラーキー・バンダンとはインドで、毎年7月後半から8月前半の満月の日に行われる、ヒンドゥー教の祭礼だ。健康と幸福を祈り、妹から兄へ、姉から弟へと、女性兄弟が男性兄弟にラーキーと呼ばれる聖なる紐を渡し、手首に結ぶ。ラーキーを結ばれた男性は、女性兄弟を生涯に渡って守ることを約束し、またラーキーのお返しにお小遣いやお菓子などを贈る。


ラーキーを結んでいる様子 TIRAKITAより

 

ラーキーを結ぶ相手は血縁関係のある実の兄弟である必要はなく、大切な人に贈るのが習わしだ。また、歴史上においては、ラーキーを結び、男性からの保護を求める女性が多数いたとされている。

 

女性が兄弟や大切な男性からの保護を求める背景にあるのが、インドにおけるヒンドゥー教のカースト制度と男尊女卑思想だ。ヒンドゥー教のカースト制度とは、ヒンドゥー教徒を階級分けする身分制度。現在、インド憲法によりカースト制度に基づく差別は禁止とされているが、今だに差別が残っている地域もある。そのためインドの中では、カースト上位の者は下位の者に対して何をしても許されるという社会がかつて存在した。

 

加えて、インドは非常に男尊女卑の傾向が強い。インド政府の統計によると、性的暴行は20分に1件発生していると言われている。さらに今までは、性的暴行が起こっても、加害者の男性は警察に捕まることなく、裁かれることもなかった。過去のインドにおいてこれは当たり前のことだったのだ。


都市部のジェネレーションZは 性平等を支持

インドでは現在、都市部を中心に、男尊女卑の考え方は変化してきている。これは、2009年にインドの都市部ムンバイ近郊に住む10歳から16歳の青少年、総勢1040名を対象にして行われた調査によってわかった。この調査の結果、7割を超える(71%)の青少年が、性の平等性を支持する考え方を持っていることがわかった。

 

また加えて、IT産業の普及により、カースト下位の人でも富裕層になることができ、インドの社会事情全体が変化してきている。しかし、この風潮はまだインド全土に広がっているわけではない。

 

このような事情を受け、ラーキー・バンダンにも変化が見られる。ラーキーを受け取った男性が、ラーキーを贈ってくれた女性を保護するという意味合いは失われてきているのだ。今日におけるラーキー・バンダンは、兄弟姉妹の間で愛と絆を深める祭りとしての認識が強い。また、ラーキーとして贈るものも、紐だけではなく、グリーティングカードや、様々な香りのついたカラフルなバンドなど多岐に渡っている。

 

毎年ラーキー・バンダンが近づくと、様々な企業がラーキーとプレゼントをセットにした商品を出し、プロモーションを行う。そうした中でステレオタイプな慣習に疑問を呈し、より先進的で興味深いプロモーションを行ったのが、インドの製菓会社Dukes Waffyだ。


古き慣習を革新する #SheIsMyBro

2017年のラーキー・パンダンに合わせ、Dukes WaffyはTwitter上で#SheIsMyBroというプロモーションを行った。兄弟姉妹間の絆を深めることが目的の祭礼で、なぜラーキーを贈るのは女性から男性のみなのだろうか。女性に対してラーキーを贈り、ラーキーを受け取った女性も誰かを保護する存在になれるのではないか。

 

こうしたメッセージは、インドにおいて革新的であり、若者の思考を汲み取ったプロモーションであった。そしてDukes Waffyは、今回のメッセージを込めたショートムービーを製作し、Twitter上で配信した。

このショートムービーでは、「あなたにとって兄弟とは何か。」、「兄弟はあなたに対して何をしてくれるか。」といった疑問を投げかけ、少年少女がそれぞれの思いに答える。

 


Dukes Waffy Twitterより

 

その後Dukes Waffyは、Twitter上でプレゼントの当選者を決めるためのコンテストを実施した。コンテストへの参加方法はいたってシンプルである。Dukes WaffyのTwitterアカウントをフォローし、Dukes Waffyが提示した質問をリツイート。さらにその質問に対する答えをハッシュタグ#SheIsMyBroをつけて、リプライするだけだ。

 

そしてこの参加者の中から抽選で当選者が選ばれ、当選者にはDukes Waffyから商品が送られた。

 

都市部の若者を中心に、価値観が変わりつつあるインド。今回のDukes Waffyのプロモーションは、変わりつつあるインドの価値観にうまくマッチしたプロモーションと言える。若者へアプローチする際には、若者の価値観を理解することが求められるだろう。

 

Written by
石井リナ
COMPASS編集長 1990年生まれ。SnSnapで事業開発を担当し、COMPASSの編集長を務める。新卒でオプトへ入社し、WEB広告のコンサルタントを経て、SNSコンサルタントとして企業のマーケティングに従事。デジタルプロモーションを中心としたライター業や、セミナー講師などとしても活動を広げている。 執筆書籍:「できる100の新法則 Instagramマーケティング」
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石井リナ
COMPASS編集長 1990年生まれ。SnSnapで事業開発を担当し、COMPASSの編集長を務める。新卒でオプトへ入社し、WEB広告のコンサルタントを経て、SNSコンサルタントとして企業のマーケティングに従事。デジタルプロモーションを中心としたライター業や、セミナー講師などとしても活動を広げている。 執筆書籍:「できる100の新法則 Instagramマーケティング」
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