ここ数年、ビジネス分野において中国の話題は日本でも大変盛り上がっている。「アジアのシリコンバレー」と言われる中国国内の経済特区・深センを中心に、テクノロジーの進化やベンチャー企業の競争が激しく、電子決済の普及や中国ユニコーン企業についてなど日本のメディアでも話題が尽きない。

その中でも、インフルエンサーマーケティング市場は年々拡大を続けている。

日本においてもYouTuberやインスタグラマーが多くの注目を集めているように、中国国内でもSNSの普及により“KOL(中国でインフルエンサーと同義語)”という言葉は広く世間に浸透した。

 

そもそも、中国国内では、グローバルなSNSの利用は制限されている。

日本でもスタンダードな、Facebook・Twitter・Instagram・LINEといったSNSアプリや、Youtube・Googleなどは利用ができない。

中国国内では、メッセージ・タイムライン・電子決済機能のあるアプリ・微信(WeChat)や、中国版Twitterと言われている微博(Weibo、以下:Weibo)、中国版Youtubeといわれる优酷(Youku)などの国内製SNSが一般に使われている。

そういったグローバルに繋がることのできるSNSではなく、国内のSNSを利用しているにも関わらず、中国のインフルエンサーマーケティング市場は年間1兆7,000億円規模。それに対し、日本は400億円程度の規模となっている。中国は人口も日本の13倍であり、SNSを利用する人数、インフルエンサーの人数も日本よりはるかに多いのだ。

 

そんなインフルエンサーマーケティングについて、日本と中国のインフルエンサー・広告主企業・マネジメントやエージェンシーの3者で議論を行うイベントが開催された。それが、CHINA-JAPAN INTERNET CELEBRITY SUMMIT Ⅱ TOKYOだ。(2018年8月29日開催)

このイベントは、日本のアライドアーキテクツ株式会社(※1)と、中国・北京ののIMS新媒体商業集団(※2)の共同主催で行われた。

※1:アライドアーキテクツ株式会社(以下:アライドアーキテクツ)は、日本・東京を本社に企業のマーケティング、特にSNSを活用したマーケティングを支援するテクノロジーカンパニーである。2016年からは、中国向けプロモーション事業を本格展開し、インフルエンサーを活用したプロモーションコンテンツの制作・拡散やSNSアカウントの運営支援など多様なサービスを通じて、日本企業の越境EC施策やインバウンド集客を支援している。

※2:IMS新媒体商業集団(以下:IMS)は、中国・北京を本社に、企業とクリエイターをつなぐ存在として広告主企業に新たなマーケティングソリューションやビジネスのノウハウを提供し、顧客ごとに最適な価値を提供している。近年の中国においては、マーケティングメディア領域で最も注目度の高い会社の一つとなっている。

3者の視点から議論を重ねることで、日中両国が今後迎える「インフルエンサー新時代」をどのように切り拓いていけば良いのかを考える。

左からこんどうようぢ、よきき、佐藤ノア、中野佑美、中村壮秀、李檬

 

中国市場影響力のある日本人は、大食いYoutuber!?

まず、今回のイベントで中国のTopKloutにより発表された日中インフルエンサーランキングを紹介する。「中国市場に対して影響力を持つ日本人インフルエンサー」ランキングは下記のようになった。

1位の木下ゆうかは、大食いYoutuberとして世界各国から注目を集め、2016年の中国国内のインターネットでは、タレントの渡辺直美と並ぶ人気を集めるといわれている。大食いという言語の壁を超える映像のわかりやすさが今回のランクインの理由でもあるだろう。

 

そして次が、「中国国内で商業価値のあるインフルエンサー」ランキング。

中国と日本のインフルエンサーにはどのような違いがあるのだろうか。現在、日本のインフルエンサーの収入は、企業からのPR案件がほとんどである。そのため、日本のインフルエンサーでインフルエンサーとしての活動だけで生計を立てられているのは、ごく一部の人間に限られる。

それに対し、中国では企業からのPR案件に加え、インフルエンサーが個人ブランドを設立し、インフルエンサーとしての知名度を活用しながら、ECを運営していることが多い。その結果、個人の活動のみによって生計を立てられる人が多数いるのだ。

「中国国内で商業価値のあるKOL」2位の、雪梨Cherie(シェイ リ、以下:シェイリ)は、自身のアパレルECショップを持っており、2017年の「独身の日」(中国のネット市場で最大の商戦日とされる11月11日のこと)では、350秒で1億元(17億円)、2時間で2億元(34億円)の売上記録を作ったことで話題になった。

日本国内ではありえない桁違いの市場規模を中国インフルエンサーは持っているのだ。

 

また、「中国国内で商業価値のあるKOL」3位となっている、张凯毅Kevin(チャンカーイ、以下:チャンカーイ)氏は、美容系インフルエンサーとして一躍有名となった。現在、彼女はTikTokのフォロワーが710万人、Weiboのフォロワーが470万人を超え、TikTokの一動画あたりの再生回数は6,000万回を超える。また、彼女の制作するコンテンツは月間1.7億リーチを達成している。

さらに、彼女は、“自分の価値を創造したい”と考え、自身のブランドを創設。自身の持つインフルエンスパワーとフォロワーをうまく活用し、月間2,000万人民元(約3億2,500万円)の売上をあげている。

彼女はなぜここまで人気になったのだろうか。元々美容に興味があった彼女だが、彼女が世間に知られるようになったのは、以前から自身に似ていると言われていた有名タレントのメイク動画を配信したことだと言う。また、彼女は女性らしい見た目とは裏腹に、男性らしいキャラクターを持っている。これが、他のインフルエンサーと自身を差別化する要因になったのだろう、と彼女は語る。

チャンカーイ氏

次にあげるのは、「中国でポテンシャルのある日本人KOL」に3位となっている山下智博氏だ。彼は、日本人でありながら中国で爆発的な人気を誇るインフルエンサーで、2012年に中国・上海市に移住。現在、weiboのフォロワーは132万人。

そんな彼が中国で人気を集められたのは、流行に注目し、次に何が流行るかをいち早く察知したからだと言う。彼は2014年頃から流行りだしたショートムービーの波に乗った。中国人が好む日本のコンテンツを把握し、それを動画にすることで中国国内での支持を集めるだけでなく、彼は自身の活動・両国の文化を通して、日本と中国の関係をより密接にしようとしている。それは、彼自身が日本も中国もとても好きな国だからだと語る。

山下智博氏

彼が語る中国人が興味を持っている日本のコンテンツとは以下の6つだ。

・旅行

・グルメ

・美容

・日本の女性

・ぶっとんだ発想

・日本の文化

日本人が中国という巨大な市場で支持を得るためには、上記のコンテンツをうまく生かす必要があると言う。

 

日本の文化は、中国の若者を中心に関心を集めており、日本文化が好きな若者を指すスラングとして「哈日(ハーリー)」という言葉も生まれている。

Weiboでも在日中国人のKOLが発信する日本文化紹介のアカウントは人気を博している。(例:林萍在日本)

なので、若者に向けて日本文化を発信するというのは日本のインフルエンサーが注目を浴びる要素として大きそうだ。

 

企業とインフルエンサーは二人三脚で

インフルエンサーをマネジメントする企業は、どのようなことに注意し、どのようにインフルエンサーと関わっていけばいいのだろうか。

吉田正樹氏(吉田正樹事務所代表取締役・ワタナベエンターテイメント代表取締役会長)は、次のように語る。

吉田正樹氏

「現在、多様なSNSが登場し、インフルエンサーマーケティング・SNSマーケティングは参加しやすい市場になっている。その反面、インフルエンサーの成長という大きな課題もある。マネジメント企業に課されていることは、“人材の発掘・教育・プロモーション”だ。

インフルエンサーが成長していく中で、彼らが長期に渡って自身の価値創造をできる体制を作る必要もある。インフルエンサーのブランド価値を高め、『何が生み出されるのか?』という期待感を醸し、多くの人を巻き込み、新たな時代を作っていくことが重要だ。」

 

また、楼氏集団Founderである袁琢(エンチョオ)氏が重要視するのは“管理”だ。

袁琢氏(右端)

「マネジメント企業は、インフルエンサー自身が優秀な管理者であるかを見る必要がある。それは、コンテンツの管理やフォロワーの管理、さらにはインフルエンサーの価値観の管理だ。中国国内で活動する上では、法律や国の価値観に合致した価値観を持っているか、ただ面白さや流行を追求するだけでなく、その価値観にあったコンテンツとなっているかも問われる。」と、袁琢氏は語る。

 

株式会社VAZ代表取締役社長の森泰輝氏は、日本のインフルエンサーが中国のインフルエンサーのように活躍するためには仕組み作りが必要だと述べる。

森泰輝氏(中央)

「日本のインフルエンサーが中国のインフルエンサーのように個人ブランドを設立し、ECを始めるにあたり、市場規模以外の障壁も存在する。それは、日本でネット決済ができる人口の少なさだ。クレジットカードではなく、LINEPayカードやバンドルカードを普及させ、年代を問わずネット決済ができるようにすることが求められるのではないか。」

 

インフルエンサーが長期的に活躍し、人気を保持し続けるためには、マネジメント企業との関わりが重要となる。マネジメント企業には、インフルエンサーをマネジメントするだけでなく、インフルエンサーを成長させ続けていくこと施策・仕組み作りが求められている。

 

では、広告主企業はインフルエンサーを使ったPRを行う際、どのようなことに注意しないといけないのだろうか。

企業が伝えたいことだけを発信してもらうなら、インフルエンサーを使ったSNSでのPRに期待できる効果は多くない。インフルエンサーを活用したPRでは、インフルエンサーが普段行なっている発信スタイルの中で、自然にPRを行ってもらうことが重要だ。そのため、広告主企業が最も重視しなければいけないのは、インフルエンサーの人選だ。

人選の中でポイントとなるのは、インフルエンサーの発信スタイルにPRしたい商品がマッチするのか。そして、PRしたい商品のターゲットが、そのインフルエンサーのファンとマッチしているのかということだ。つまり、インフルエンサーには企業と顧客の架け橋となれるかということが求められる。

 

すでに巨大で、さらに成長を続ける中国インフルエンサーマーケティング市場。日本は、中国に比べるとまだまだ市場規模やインフルエンサーの持つ力が小さい。しかし、日本でもこれから市場は拡大し、インフルエンサーの持つ力はさらに大きくなっていくだろう。今後の日中両国のインフルエンサーマーケティング市場の動きから目が離せない。

 

(画像提供:アライドアーキテクツ株式会社)

 

今回のイベントで登壇した日中インフルエンサーは以下

日本:あさぎーにょ、こんどうようぢ、山下智博、いっくん(禁断ボーイズ)、よきき、佐藤ノア(敬称略)

中国:丁一農(ディンイチェン)、罗罗布(ローローブー)、滕雨佳Amiu(テァンユーカーAmiu)、张凯毅KEVIN(チャンカーイKEVIN)、乐歌(ラエガエ)、Miss不吃藕(Missブーチーオー)、造型师小邱Elvan(ザオシンシーシャオチオ Elvan)、熊吱吱finfin(シオンチーチー finfin)、楽小漫(ラエシャオマン)(敬称略)

 

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竹林広
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竹林広

1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は温泉と寺社仏閣巡り。