2018.1.20

先日、とあるニュースがタイムラインをにぎわせました。マーケターの皆さんは、特に驚かれたのではないかと察します。フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は米国時間1月11日、自らのフェイスブックページでこうコメントしました。

「最近、コミュニティからパブリックなコンテンツが増え、互いにつながるきっかけとなるようなパーソナルな瞬間が少なくなってるというフィードバックがありました。私たちは、意義深いソーシャルな交流が増えることにフォーカスするように変えました」

パブリックなコンテンツ、つまり企業やメディアによる投稿よりも、友人や家族の投稿を優先する方針が示されたのです。フェイスブックからの流入をメインのビジネスモデルに据えていた企業は、対応を急ぐ必要があるでしょう。


似たような動きは初めてではない


採用やコンテンツのPRなど、情報発信をフェイスブックに依存していた企業も、今後方針転換を迫られるかもしれません。フェイスブックを主戦場にしていた分散型メディアは、特に打撃を受けることになります。さらに、フェイスブックが今後、傘下のインスタグラムでも同様のアクションをとるとも限りません。要警戒です。

ですが、こうした動きは今に始まったことではありません。過去にもプラットフォームの乱用により、必ずしもユーザーにとって適切ではないコンテンツが広く流布しました。フェイスブックはその度に、スパムと認定されるコンテンツを削除する微調整を行ってきました。

2016年の米大統領選挙がその一例です。ザッカーバーグ氏は、フェイスブックにフェイクニュースが投稿され、有権者に影響を及ぼそうとする試みが行われたことを公に認めています。その際もフェイクニュースを一掃する措置を多くとっていました。


広報やマーケターには「悲報」

「仕様変更」とはいえ、「原点回帰」しただけだともいえます。そもそもフェイスブックは、ザッカーバーグ氏が在籍していたハーバード大学の学生が交流を図るためのサービスとして始まったことは、多少SNSに興味がある方ならご存じのはず。

リアルな人間関係を重要視するフェイスブックは「ユーザー・ファースト精神」を掲げています。企業が自社サービスを売りつけるための投稿ではなく、親友や気になる女性など、好意を抱いている人たちの投稿を歓迎しているのです。

交流目的のSNSに企業による投稿が割り込みすぎたために、本来の目的が果たせなくなってきました。これが仕様変更の主な理由の一つかもしれません。

以前から、企業や公式アカウントの投稿のリーチが低くなっていると感じるユーザーも、少なくなかったのではないでしょうか。費用を支払って投稿をリーチする広告表示や、「トップに固定」した企業ページの投稿を見る機会は確実に減少しています。

こうした中で発表された仕様変更は、企業の広報やマーケティング担当者、メディア関係者には文字通り「悲報」となったでしょう。

当のザッカーバーグ氏も「悲報」を受け取ったようです。報道によると、表示方針の変更を発表した後、フェイスブックの株価は4.5%以上下落したとのことです。それでもザッカーバーグ氏は「正しいことをすれば、長期的にはコミュニティーとビジネスにも好影響を与えられると信じている」と前向きな姿勢を崩していません。


しおたん、ホリエモンはどう見たか

今回の発表を業界のキープレーヤーたちはどう受け止めたのでしょうか。彼らの見解は、今後起こりうるであろうトレンドを読む上で格好の材料になると思います。

企業が発信する情報がユーザーにリーチしなくなれば、個人の影響力が最も重要な情報源に取って代わります。「触れるコンテンツすべてをバズらせる」と評判のウェブ編集者・塩谷舞さん(通称しおたん)や、ツイッターでのコメントが度々ニュースになる実業家・堀江貴文さん(通称ホリエモン)の存在が何よりそれを物語っています。

「インフルエンサー」「インスタグラマー」といったワードをよく耳にするように、SNSで多数のフォロワーを抱える個人を活用したマーケティングが効果を発揮する時代が到来しています。

情報の信頼性を担保するのは、メディアや企業のネームバリューではなく、個人の信用なのです。この記事で前出の2人のコメントを引用しているのも、他メディアの見方より彼らの見解を信用している証左に他なりません。


ステマが加速する?

今後「企業から個人へ」の流れがますます加速していくと考えられます。実際、興味の有無にかかわらず、企業広告に辟易としていたユーザーも多いでしょう。インフルエンサー(個人)によるマーケティング活動も増えていくとみられています。

この際、情報の受け手であるユーザーも、注意を払わなくてはなりません。インフルエンサーが商品やサービスを宣伝したり推奨したりする際、取引関係にあることを隠したままプロモーションを行う「ステルスマーケティング」を行う企業がすでに多数存在しているからです。

企業ニュースやフェイクニュースがタイムラインに流れてこなくなるとはいえ、タイムラインが「浄化される」とは限りません。


ユーザーのリテラシーが問われる

ステルスマーケティングの例もそうですが、今回の仕様変更によって「コミュニティの分断が加速する」との指摘もあります。情報を取捨選択する姿勢を持たなければ、フィード上に流れてくる情報をひたすら鵜呑みにし、偏った考えに陥る可能性も拭えないでしょう。

この点では、元五輪陸上選手で実業家・為末大さんや、ジャーナリスト・津田大介さんのコメントが参考になります。

今回の仕様変更は、個人にもメディアとの関係性の再定義を問うているようにも感じられます。企業は「ユーザーが無知である」ことを利用するべきではありませんが、ユーザーもリテラシーを向上していく必要があります。

フェイスブックの新たな表示方針は、SNS上のコミュニケーションの在り方を問い直す機会を、企業、メディア、そしてユーザーに提供しているのです。

Written by
オバラミツフミ
秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。 obaramitsufumi@gmail.com
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