「女性にパワーを!」そんな広告をたびたび目にします。史上初の女性都知事の誕生や、リケジョ・ドボジョといった言葉の流行からも、社会全体が女性を押し上げようというムードを感じます。政治家や経営者を目指すわけじゃなくても、この空気、女性としては悪い気はしません。でも、社会の権利を女性に委譲しようとしているこの感じ、どこかで知っているような……

 

あれ?女性活躍推進=フェミニズム?いつの間にか社会はフェミニスト化していたの?

 

「フェミニスト」というと、かつては「男嫌いで気難しい女性」というイメージがありました。しかしここ数年、フェミニストに対する印象は「クール」なものに変わりつつあります。

 

そのきっかけの一つに、イギリスの女優、エマ・ワトソンの存在が。彼女は、2014年7月に国連のUN Women親善大使に任命され、国連本部でジェンダー平等についてのスピーチを行いました。スピーチ内容はこのようなものでした。

 

「なぜ、フェミニズムという言葉が不快なものになってしまったのでしょうか?女性の権利の主張が、男性嫌悪と同等に捉えられてしまうことに問題を感じています。大切なのは、フェミニストという言葉の背景にある考えや思いなのです。男性も女性も、繊細でいられる自由、強くいられる自由があるべきです。」

 

女性のエンパワーメントには賛同したい、でもフェミニストと呼ばれたくない。そんな本音を抱える人々に、勇気を与えるスピーチでした。多くの著名人やタレントがこのスピーチを支持し、フェミニスト宣言をしたことで、フェミニストは以前の冴えないイメージから脱却。「クールでイケてる存在」へと印象を変えていきました。


マーケティングにもフェミニズムを活用。「フェムバタイジング」という言葉も

私たちが普段目にする広告にも、ここ数年女性へのエンパワーを目指すものが増えてきています。アメリカでは「Feminisim(フェミニズム)」と「Advertising(広告)」を掛け合わせた「フェムバタイジング(Femvertising)」という造語も生まれるほど。

 

代表的なフェムバタイジングといえば、P&Gが展開するサニタリー用品「Always」(日本の商品名はウィスパー)のキャンペーン「#LikeAGirl」です。

「本当の女の子らしさとは何か」に迫った広告キャンペーンです。大人と子どもそれぞれに、「女の子らしさ」を体で表現してもらう実験を行いました。大人に「女の子らしく走ってみて」と言うと、ぶりっ子のような内股走りをし、「女の子らしく投げてみて」と言えば、いかにも運動音痴のようなフォームを見せる。しかし、小学生ほどの“女の子”に同じ質問を投げかけると、彼女たちはありのままの姿で、力いっぱい走り、力強く投げます。

 

「女の子らしさ」は、思春期を経ると、いつしか固定概念を植え付けられ、女性自身の価値を貶める形容詞になっていることに疑問を投げかけた同作品。サニタリー用品を使い始める思春期に、価値観の変容が進んでいくことを指摘し、「女の子らしいことは素晴らしいことだと意識を変えよう」というメッセージを発信しました。

 

インパクトは絶大でした。世界最大級の広告アワード・カンヌライオンズ2015でグランプリを獲得し、さらにPR部門・フィルム部門・プロモ&アクティベーション部門など、多くの部門賞を受賞。「概念の変化を起こした」と全世界で共感を呼び、センセーションを巻き起こしました。


「フェミニズムをビジネスに利用しないで」時には嫌悪感に変わることも

それから2年後、2017年8月に公開されたAlways「#LikeAGirl」の新たなクリエイティブは「Keep Going」がコンセプト。生理中の失敗への不安を描いています。

スポーツをする日や長時間座っていなければならないときなど、さまざまなシーンで、経血の「漏れ」を心配したことは、女性誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。

 

この動画は「思春期の女性は、失敗に対する恐怖心に怯えている」と始まります。登場する思春期の女性が「私たちは何度も失敗したし、これからもしていくだろう。でもそれでいいのです」と語りかけます。最後は「TRY. FAIL. LEARN. KEEP GOING」というメッセージで締めくくるというもの。

 

しかし、この新しいクリエイティブには、批判の声も上がっています。イギリスのオンライン新聞「The Independent」には、次のような声が寄せられました。「この広告のロジックは、単に女性の“下の部分”について語るだけで、それを女性主義と結びつけている節がある。もしAlwaysが男性に対して同じような広告を作ったら、問題はもっと明確。例えばジョックストラップ(=スポーツなどで用いられる局部のサポーター)を売るときに、#LikeABoyというハッシュタグを使ってツイートをするよう言われたらどうなるだろうか?現実を見よう。生理用品はゾッとするものだ。私ならこれを女性のエンパワーメントに使わず、思春期に置き去りたい」

 

フェムバタイジングがブームになったからこそ、企業が広告を通して女性をエンパワーすることに、消費者がよりシビアになった事例です。

 

“フェミニズムの思想を、ビジネスに利用しないでほしい”

 

このクリエイティブに嫌悪感を示す人々は、そのように思ったのではないでしょうか。「本当の女の子らしさとは何か」に迫った、Alwaysの2015年のクリエイティブに比べ、今回の「Keep Going」は、よりサニタリー用品のプロダクトを意識させるものでした。The Independentへの寄稿者が示唆するように、広告ありきの「こじつけ感」があったのかもしれません。Youtubeの評価を見ると、2015年の動画は低評価の割合が1割ほどなのに対し、今回の動画は低評価の割合が約半数にまで達しています。


フェムバタイジングの風潮は日本にも

女性のエンパワーメント広告は、日本でも見受けられます。成功例はPOLAの「Call Her Name」でしょうか。

日本の女性は、結婚をして母親になると、名前ではなく、「お母さん」や「ママ」などの呼称で呼ばれるようになる人が77%に上ります(※ポーラ社調べ)。そこで、POLAはファーストネームで呼ばれなくなった母親を再び名前で呼ぶことで、彼女たちに眠る「美しさという本能」を呼び覚ますことができるのではないか、という仮説を持って行われた実験です。

 

2015年のAlwaysもPOLAも、「気付かなかったけど、確かにそうだよね」と思わせるような、本質的で根源的なテーマに迫った点で共通していました。何より、自分の中の概念に変化を起こすものでした。


「キレイになりたい」と「女性に力を」は切り離してほしい

一方で、美容的な観点での「女子力」をキーワードにする広告には批判が集まりやすい傾向があります。脱毛サロンや駅ビル型のショッピングセンターなどの広告で、「女子力」をフックに訴求したものがそれです。

 

「キレイになりたい」という感情は、素晴らしいもの。しかし、女性のエンパワーメントの文脈とは切り離されるべきものではないでしょうか。脱毛もファッションも、一見「女性に力を」とメッセージングしているように見えて、男性に媚びるようなコンテクストで使われてしまっています。サービス自体がジェンダー平等を推進するものではないために、「女性に力を」といったメッセージが、かえって「女子力を上げなきゃ」という強迫観念とも捉えられかねない訴求になっているのです。このように、同じ「女性に力を」という言葉でも、フェミニズムとは方向性が異なるために、批判が集まるのではないでしょうか。

 

マーケティングの目的である「行動変容」を起こすには、従来の概念を変えるようなインパクトが必要になります。そして、そのメッセージはサービスの質と重なっていなければなりません。広告的な「つかみ」のみでは、行動変容を起こせないばかりか、反感まで買ってしまうのです。


男性の中にも女性性はある。フェミニズムは女性だけのものではない

批判の対象になったとしても、フェムバタイジングは女性の在り方を考える「きっかけ」になります。それまでフェミニズムに関心がなかった人でも、それらの広告に賛同や反感を抱けば、社会の共通話題にすることができます。

 

誰しもが、心の中に女性性と男性性を持っています。フェミニズムは女性だけのものではありません。この思想が市民権を得ることによって、男性の中にある女性性も認められるようになるのです。

 

フェミニストはクールだと、一過性のブームで終わらせないためには、個人が自分自身の生き方を模索し、発言していくことが重要です。同調でも嫌悪でも構わない。まずは意見を言わないことには、社会は変わりません。私たちが目指すべきは、社会の総意を一つにまとめあげることではなく、自分の好き嫌いを憶することなく言える社会なのだと思います。

 

 

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ニシブ マリエ
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ニシブ マリエ

ライター・PR。人材領域を中心とした総合情報サービス企業での営業・広報を経て独立。HRや広報マーケ、ジェンダー、多様性に関する記事を執筆中。趣味は海外一人旅。三脚かついで自撮りしてます。