イベントマーケティング・SNSマーケティングの情報を発信するWebメディア「COMPASS」(コンパス)が主催するイベント「COMPASS Secret Salon」。その第2回目が2017年3月29日に開催されました。
「オフラインにおけるコミュニティづくりについて」と題した第1部のトークセッションには、株式会社伊藤園広告宣伝部 角野賢一氏が登壇。同社のシリコンバレーでの取り組みや、“お茶×ハッカソン”のイベント「茶ッカソン」をはじめとしたリアルイベントの取り組み、その重要性について語られました。モデレーターは株式会社SnSnap CMO 目良慶太が務めました。
スピーカー:株式会社伊藤園広告宣伝部 角野賢一
モデレーター:株式会社SnSnap CMO 目良慶太
1年目は大失敗に終わった、サンフランシスコでの営業活動
目良:角野さんは2008年にITO EN(North America)INC.へ異動されていますが、その理由は何だったんですか?
角野:異動する2年前くらいに海外研修生として、1年ほどニューヨークに行ったことがあったんです。その経験があってか、西海岸の営業を強化するタイミングで「来ないか?」と声がかかり、異動になりました。
目良:それは、伊藤園の『お~いお茶』のシェアをアメリカで広げることがミッションだったんですか?
角野:そうです。ただ、ちょっと面白いことがあって(笑)。伊藤園は良い意味で、結構大らかな会社で、自分がサンフランシスコに行ったとき、明確なミッションがなかったんですよ。サンフランシスコで『お~いお茶』が広がるんだったら何やってもいいよ、という感じでした。
角野:そんな状態で先輩と二人でサンフランシスコに行きまして。当時は、現地の大きなスーパーに商品を入れてもらって、『お〜いお茶』が広まっていく。そんなことを目標にして、1年くらい営業活動を行ったのですが、そうは上手くいかないですよね。
そもそも、アメリカにいる人は伊藤園というブランド自体を知らないですし、『お~いお茶』も知らない。もっと言えば、無糖のお茶を飲む文化に対して理解がないんです。そうした状態の中、自分たちがどれだけスーパーに営業へ行っても、話すどころか怒られるみたいな。「こんな商品見たことないぞ!」というような感じで追い出されてましたね。
目良:効率よく商品を売っていくためには、日本でいう大手スーパーや、コンビニエンスストアに営業していくのが大事になりますよね。
ターゲットをスーパーからIT企業のオフィスに
角野:現地にもローカルのスーパーや問屋さんは沢山あるので、そこへ商談に行って受注を狙ったのですが、なかなか上手くいかず……。気づいたら1年があっという間に終わってましたね。「来年こそは……」と思っていたら、社長から指令が送られてきて。その内容が、一緒に行動していた先輩がロサンゼルスに行くというもので、突如、自分1人で営業していくことになったんです。
それまで1人で仕事した経験がなかったので、「やばい、どうしよう……」という感じだったのですが、周りの人から「サンフランシスコで中途半端なことやって、日本に帰ったら浦島太郎状態になるぞ」と言われ、それで吹っ切れましたね。ダメでもいいから、めちゃくちゃやってやろうと思いました。
そのタイミングで目標を変えたんです。これまでは、サンフランシスコで『お〜いお茶』の売上を上げたり、導入してもらったりすることを目標にしていたのですが、2年目からサンフランシスコで『お~いお茶』ブームを作ることを目標にしました。もう、どんな小さなコミュニティでもいいから『お〜いお茶』を飲んでもらって、そこからブームを作っていこうと。
目良:具体的にどんなことをやられたんですか?
角野:『お〜いお茶』は無糖のお茶なので、単純に高学歴で高収入、それでいて健康志向な人がターゲットになるのかなと思い、大学のカフェテリアや病院のカフェテリアに行って飛び込み営業をしていたんです。そうしたら、ある日知り合いにシリコンバレーにあるGoogleのオフィスに連れていかれて。最初は何の期待もしていなかったんですが、実際オフィスに入ってみたら、大きな冷蔵庫がたくさんあり、その中には炭酸飲料やスポーツ飲料などのドリンクがいっぱい入っていたんです。「これは何ですか?」と聞いてみたら、それらはGoogleの福利厚生の一環で提供されているフリードリンクで、それを知ったときに、「あ、ここに置くべきだ」と。
色とりどりのアメリカの飲料の中に、無糖の健康的なお茶が置いてあったら、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか。しかも、オフィスの冷蔵庫に導入してもらえれば、Googleの社員は無料で飲めるから、『お〜いお茶』を好きになったら平気で1日2本〜3本くらいは飲む。スーパーに導入してもらうよりも売上が立つと思いましたし、また宣伝効果も見込めるな、と思ったんです。
目良:当時、シリコンバレーにお茶はなかったんですか?
角野:『オネストティー』や、『タゾティー』といった茶系飲料があったのですが、そこまで浸透しているわけではなかったですし、無糖のお茶はなかったので、ここで営業するしかないと思いました。
それでシリコンバレーに移動してきたんですけど、当時、IT企業のコネクションが全くなかったので、アルファベット順に会社リストを作り、大きいところから飛び込み営業していったんです。それで『お~いお茶』を片手にヤフーの受付のお姉さんに、とりあえずカフェテリアの人を紹介してくださいと言ってみたんですけど、結果はダメで……。数十もの企業に足を運んだんですけど全滅で……。
カフェテリアの人だったらこの健康的なドリンクを社員の人にみんなに飲んでもらって、健康的に仕事をしてもらうっていうのがわかってもらえると思うから、紹介してくださいってGoogleやFacebookに導入してもらえるのは多額の契約金を払える大企業だけか、と半ば諦めかけた状態でいろんな人の話を聞きに行ったら、Evernoteの外村さんという方から、「飛び込み営業でヤフーに行くのはすごく面白いし良いと思うんだけど、ちょっと無理がある。シリコンバレーはエンジニアの街だから、まずはエンジニアと仲良くなってコミュニティに入るなど、現地の生活を知ることから始めればいいんじゃないか?」というアドバイスをいただいたんです。
熱量の高さが周りを巻き込む。シリコンバレーで得た成功体験
目良:泥臭く、じわじわ営業していけよと。
角野:そうですね。個人的には飛び込み営業で泥臭いことをしてきたと思っていたので、何か画期的な方法を教えてくれるのかと思ったら、さらに泥臭いことで衝撃を受けましたね(笑)。それで翌週からバケツと氷とお茶を持って、夜な夜なシリコンバレーのエンジニアが集まるセミナーやイベントに足を運ぶことにしました。
主催者に話をして、会場の後方のスペースで『お〜いお茶』を配っていたんですけど、全然相手にされなくて。「あー、やっぱり駄目なんだな」と思ったのですが、毎週同じイベントに足を運び続けたら、「お前、毎週なにやってるの?」みたいな感じで話しかけてきてくれる人が出始めて。それで、「このお茶を売れないと、日本に帰れないんだよ」とか言っていたら、「じゃあ飲んでやるよ」ということになって、少しずつ飲んでくれるようになっていったんです。
エンジニアが集まっているパーティーの様子
角野:現地のイベントはピザを食べて、ビールを飲んで……というのが一般的なのですが、毎週イベントに足を運んでいたら、最後はお茶で締める文化が出来上がってきて。それを半年くらい続けていったら、ある日、「この商品、すごいいいと思うし広がると思うから、もっと大きなイベントで大体的にサンプリングやった方がいい。なんなら紹介してあげるよ」と声をかけてくれるエンジニアが現れて、内心すごく嬉しかったのですが、「ノー」と断りました。大規模なイベントでサンプリングをして、次の日からスーパーでどれくらいの人が購入してくれるかといったら、数パーセント。
多分、1000人に配って5人が買えばいい方だと思ったので、「サンプリングするのではなく、あなた達の会社に導入したい」と言ったんです。もし、Googleの社員が『お〜いお茶』を飲んで美味しいと感じ、毎日カフェテリアで飲むようになったら、Googleのカフェテリアに置かれるようになる。そうしたら、Googleのオフィスで伊藤園や『お~いお茶』という言葉が会話の中で使われるようになり、2〜3年経てば文化になっていくと思うから、自分はそういう営業がやりたいと話をしたら、「お前がそこまで言うなら応援してあげるよ」と言ってもらえて。
そうしたら、本当に電話やメールでカフェテリアの人につないでくれて、Facebookのトップシェフやヤフーのカフェテリアのマネージャーと会うことができ、食事やカラオケに行ったら、すごく仲良くなったんです。今ではGoogleはで毎年3000ケース分のオーダーをくれますし、ヤフーは伊藤園専用のの冷蔵庫を作ってくれて1000ケースオーダーしてくれて、Facebookも700ケースくらいオーダーをくれるようになりましたね。
シリコンバレーでの様子
今後は「茶ッカソン」を世界に持っていきたい
目良:シリコンバレーでの取り組みには、そんなストーリーがあったんですね。伊藤園が主催するハッカソンである「茶ッカソン」はどういった経緯で始まったんですか?
角野:シリコンバレーで5年間営業をやり終えて、今後のことを考える機会があったんです。シリコンバレーに残る選択もあったのですが、起業家の「世の中にインパクトを与えて世界を変えたい」という思いや、スタンフォード大学で若い人が「僕にしかできないサービスで世界を変えたい」というプレゼンを聞いたときに、自分もこういう生き方をしなきゃ駄目だと強烈に感じてしまって。
当時、自分もスタートアップしたほうが良いのかな、と思ったんですけど、伊藤園に育てられましたし、サンフランシスコで5年間も自由にやらせてもらったので、伊藤園に恩返ししたい思いの方が強く、会社に所属しながら世の中にインパクトを起こすことをやればいいと思ったんです。
それで何をやろうか考えていたときに、シリコンバレーではハッカソンやアイデアソンがよく行われていたな、と思って、それを伊藤園主催でやってみたら面白いんじゃないか、と思ったのがきっかけですね。
目良:これは何かアイデアを競うものではなく、伊藤園のブランディングが目的になっているんですか?
角野:一応、最後に順位をつけるので競い合っているのですが、普通のハッカソンやアイデアソンとは違う部分がありまして。やっぱり、伊藤園は味覚を中心とした五感を大切にしてる会社なので、茶ッカソンではフィーリング×アイデアで新しいものが生まれるとよく言ってますね。実際、畳の上で座禅をしたり、抹茶をみんなでたてたり、普段やらないことをやると、何かがちょっと変わるんですよ。茶ッカソンでは、そういった体験を大事にしています。
茶ッカソンでの座禅
目良:話を聞いていて、角野さんの「伊藤園をかっこよくして行きたい」という思いがコミュニティづくりに活かされてるのかな、と思いました。
角野:そうですね。マーケッターとしては、あまりよくないかもしれないですが、どちらかといえば『お~いお茶』をあんまり売ろうとしてないです。やっぱり、カッコよくすれば普通に売れるようになるのかな、と。だからこそ、今後、茶ッカソンを世界に持って行きたいと思っています。例えば、エッフェル塔の下で畳を置いて、茶ッカソンをやってみたいですね。
角野:そうすることで伊藤園はペットボトルのお茶を売るのではなく、お茶の文化を世界に広めている会社だと思ってもらえる。今後は海外も視野に入れながら、活動していきたいなと思っています。
目良:ありがとうございました!今後の活動も楽しみにしています!
角野さんにご協力頂き、マーケター向けに行った第2回目の「COMPASS Seacret Salon」。ファン化を図るため、積極的にリアルな場を活用し、コミュニケーションを図っている事例です。次回のCOMPASS Secret Salonは6月に開催予定です。イベントの様子も配信予定ですので、お楽しみに!
Photographer:Shohki Eno