1717年に京都・伏見で創業。「先義後利」という理念を掲げ、顧客を第一に考えたサービスを提供することで発展を遂げてきた大丸。みなさんも一度はお店に足を運んだことがあるのではないでしょうか?
呉服屋としてスタートし、長い歴史をもつ大丸も今年で創業300年。それを記念し、大丸では3月に入ってから大々的なキャンペーンを展開しています。
さまざまなコンテンツが用意されていますが、中でも目を引くのがデジタル技術を組み合わせた取り組み「FLOWER MIRROR」(フラワーミラー)。これは鏡の前に立って姿を映したり、浮かび上がってくる文字や形を見たりして楽しめる、というもの。
なぜ、大丸はFLOWER MIRRORに取り組もうと思ったのか?そして、今後どのような取り組みを考えているのか?この300周年記念キャンペーンの仕掛け人である大丸松坂屋百貨店の村本光児さんとFLOWER MIRRORの立ち上げを行った宮原大尭さんに話を伺ってきました。
古きを尊び、新しきを取り入れる「不易流行」がコンセプト
—「300周年記念キャンペーン」と銘打って、さまざまなコンテンツを展開されていますが、まずは全体のコンセプトを教えてください。
村本:300周年記念キャンペーンのきっかけになっているのが、「町家プロジェクト」。これは京都・祇園にある町家をリノベーションし、2016年11月3日「大丸京都店 祇園町家」 を出店するというもので、第1弾の取り組みとして「エルメス祇園店」を期間限定でオープンしました。
エルメス祇園店をオープンするにあたり、300周年記念キャンペーンのコンセプトを考えることになって。さまざまなコンセプトを考えた結果、伝統や古きものを尊びつつも、流行を取り入れていく「不易流行」という言葉が良いな、と。
村本さん
現状維持のままではなく、新しいものを取り入れていくことは町家プロジェクトにもぴったりだと思いましたし、300周年以降の大丸の方向性を示すのにも良いと思い。不易流行を300周年記念キャンペーンのテーマにしました。
—FLOWER MIRRORを展開しようと思った、きっかけはなんだったのでしょうか?
宮原:村本が申し上げたように、不易流行を全体のコンセプトとして掲げて300周年記念キャンペーンを展開していくことになったのですが、看板となる目玉のコンテンツがないな、と思ったんです。
宮原さん
それでどんなコンテンツを提供するのが良いのか考えた結果、「FLOWER MIRROR」のアイデアが出てきて。アナログとデジタルを融合させ、リアルな店舗で体験してもらえるコンテンツであれば不易流行を取り入れつつ、実店舗を持つ百貨店の強みを活かせる。そう思い、FLOWER MIRRORを立ち上げていくことになりました。
—なぜ、花だったのでしょうか?
宮原:私たちは300年間、お客様に支えられて事業を続けてこれたので、その感謝の気持ちとお祝いを表現するのに花がふさわしいと思ったので、花を使うことにしました。また昨今、FacebookやTwitter、Instgramが活発に使われていることもあって、お客様の目を引き、SNS上での拡散も狙えそうなフォトジェニックなものにしよう、という思いもありましたね。
—実際に東京駅八重洲北口を通りかかった際、FLOWER MIRRORを見かけたのですが、何人かが動くなどして楽しんでいるのが印象的でした。
宮原:静止物として置いておいても拡散されていきそうだな、と思ったのですが、百貨店の強みは実店舗を構えているところにある。実際に足を運んでもらえるように、動きに反応したり、文字や模様を表現したり、体験型のコンテンツを提供することにしました。
—FLOWER MIRRORはデジタル技術を使っている点も他のものとは違うなと思ったのですが、デジタル技術の活用について何か課題があったのでしょうか?
宮原:個人的な感覚として百貨店はアナログの色が強いな、と。そんな状況を少しずつ変えていくためにも、今後はデジタル化やICT技術の活用により一層アクセルを踏んでいかなければいけないと思っています。
ただし、急に全てをデジタル化させていくことは難しいので、その先駆けとしてアナログなアウトプットながら、デジタルを組み合わせていく。どちらの良さも殺さずに活かしていく象徴がFLOWER MIRRORであればいいのかな、と思っています。
時代に適した形でモノの価値を伝える
—こうしたキャンペーンを通して、“モノからコト”の提供へと軸足をズラしていっているんでしょうか?
村本:今後はコトの提供、つまりはお客様に体験してもらうことが大切だとは思っています。ただ、モノを売る立場として300年間やらせてもらっている以上、我々がモノの良さをきっちり伝えることを諦めてはいけない。
もちろん、これまで我々がモノの価値をお客様に十分に伝えられていない部分もあったと思っていますし、価値の伝え方も変わってきていると感じているので、今の時代に適した手法で伝えていくように工夫しています。
その取り組みのひとつが、3月15日からスタートしている「いいモノ語り プチコレクション」。これは我々が取引させてもらっている99のブランドに1/6サイズのドールを作ってもらい、ウェブ上で各商品のこだわりが分かるようにし、新しいモノの価値の伝え方にチャレンジしています。また今の時代、コンテンツを生成していかなければ見向きもされないと思っているので、今後も継続的にやっていきたいです。
—ということは、今後は若いお客様も取り込んでいきたいと考えているのでしょうか?
村本:そうですね。若いお客様を取り込んでいければと思っているのですが、今の商品ではなかなか集客するのは難しい……。
多分、若いお客様は地下1階の食品売り場だけの滞在になっていると思っているので、2017年3月3日に大丸東京店の6階に葉山の人気ショップのオーナー高須勇人氏がプロデュースする、物販とカフェ、書籍が一体なったコンセプト型セレクトゾーン。「Lib Tokyo(リブ トーキョー)」を試験的にオープンしてみました。
大丸東京店の中では異色といいますか、海辺のような気持ちのいい風が吹く場所をイメージした店内になっていて、シンプルな服や雑貨、レザー製品を販売しています。こうしたスペースを構えることで、百貨店に足を運んでもらうハードルを下げられればいいと思っていますし、滞在する時間を長くしていければ、と思っています。
今後はデジタル技術の活用を推進していく
—デジタルの活用に関して、今後の取り組み関して何か考えていることはありますか?
村本:短期と長期、この2軸で出来ることは違ってくるかな、と思います。まず長期的に取り組むべきことはWi-Fi環境の整備を筆頭に顧客データの活用です。まだアイデアベースで恐縮ですが、今後はアプリを開発してお客様がおトクに買い物ができたり、ちょっといいサービスが受けられたり、ということには着手していきたいです。
それを実現するためにも短期的には、お客様とのつながりを作っていきたいと思っています。まずは現金ポイントカードなどで接点を作り、そこを起点に情報を発信したり、コミュニケーションをとったりしていきたい、と思っています。
—今回、春のキャンペーンということで秋以降の展望が何かあれば教えてください。
村本:今後も「不易流行」というコンセプトはブラさずにキャンペーンを展開していきたいと思っています。まだキャンペーンは始まったばかりですが、今度は百貨店にある大きなスペースや催し会場を活用して、百貨店全体を巻き込んで企画を展開していきたいですね。
この300周年は大丸が新たな一歩を踏み出していくための契機。経営理念でもある先義後利の思いを持ち続け、こうした取り組みは継続していきたいと思います。
—300周年記念キャンペーンに対する思い、そして今後の展望もお伺いすることができてよかったです。本日はありがとうございました!
アナログな印象が強い百貨店。そんな現状を認識し、300周年を機に「不易流行」をコンセプトに掲げ、変わっていこうとしている大丸。今後、どういった施策やキャンペーンを展開していくのか、非常に楽しみです。
Interview photo:ENO SHOHKI