2017.3.23

何か知りたい情報があれば検索し、何か欲しいものがあれば購入する。日常生活のほとんどのことがスマートフォン上で完結できるようになって以降、私たちにとってアプリは欠かせないものになっています。

 

事実、アプリ情報プラットフォームを提供するApp Annie(アップアニー)によれば、消費者のモバイル利用時間は「ブラウザ」から「アプリ」へ移行。1時間のスマートフォン利用のうち、53分がアプリの利用になっているそうです。

 

そんなスマホファーストの時代において、企業はどうアプリを活用していけばいいのか。2月22日、App Annie主催のもとアプリを起点とするマーケティング活動の最新事例を共有するイベント「App Annie DECODE Tokyo」がアークヒルズカフェにて開催されました。

 

第1部の講演には、日本ロレアル株式会社CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)の長瀬次英さんが登壇。「コスメビジネスにおけるアプリの意義とは?」と題し、消費者接点の変化やデジタルマーケティングにおけるアプリの位置づけについて語りました。

 

予算の50%以上を投資、日本ロレアルのデジタルメディア活用

多数のキュレーションアプリが登場し、自分の興味・関心にマッチする情報に気軽にアクセスできるようになっている昨今。この時代の変化をいち早く掴み取り、具体的な行動を起こしているのが日本ロレアルです。同社は2015年10月にCDOと呼ばれる役職を国内で初めて導入し、デジタルマーケティングはもとより、会社全体のデジタル化を推進してきています。
 
「コスメ&ビューティー分野はまだまだ遅れをとっているマーケットですが、日本ロレアルは積極的にデジタルにシフトしていまして、現在予算の50%以上をデジタルメディアへ投資しています。その効果もあって、オンラインセールスも年10〜12%ずつの割合で伸びていっています」(長瀬さん)

 

例えば、同社が保有するブランドのひとつである「ランコム」はLINE LIVEやInstagram などを活用してライブ動画を配信したり、「メイベリン ニューヨーク」ではYoutubeを活用してメイク動画を配信したりしています。

ちなみに、調査会社L2によるレポート「デジタルで最も活発な上位10ビューティーブランド」 によると、10ブランドのうち半数がロレアルが保有するブランドとのこと。

 

 なぜ、日本ロレアルはどこよりも早くデジタル化を推し進めているのか。その裏には、これまでのマーケティング活動に対する危機感がありました。

 

「ロレアルはこれまで研究開発を中心にした“イノベーション・セントリック(研究開発中心)”なマーケティング活動が中心になっていましたが、スマートフォンで情報収集や購買、口コミ、シェアなどあらゆる行為できる時代に、そのやり方は通用しない。これからは“コンシューマー・セントリック(顧客中心)”なマーケティングへ転換し、顧客との距離を縮めていくことが求められるようになっていくので、デジタルを積極的に取り入れています」(長瀬さん)

 

ブランドを体験できる場をいかに作り出すか。コスメビジネスにおけるアプリの意義とは?

スマートフォンが普及したことで顧客の声を拾い上げることは容易になりましたが、距離を縮めていくことは決して簡単ではありません。実際、日本ロレアルはどのようにして、顧客との距離を縮めていっているのでしょうか?

 

そのキーワードとなるのが、「データホルダーと仲間になる」。具体的にはインフルエンサーの雇用やソーシャルリスニングツールの採用、ソーシャルルームの設置などによって顧客のことを学んだり、プラットフォームの提携やスタートアップの買収、テータベースの活用などパートナーと手を組むといったことを行っているそう。

 

こうして得た関心、興味、習慣、傾向といった顧客個々のデータを一元管理。カスタマージャーニー(どの様に情報に触れ、得て、調べ、判断し、どこで購入し、またシェアするか)の中に、いかに商品やサービスとのタッチポイントを作るか。これを考えていくことが顧客との距離を縮めていくにあたって大切になっていくそうです。

 

ただし、長瀬さんによればコスメビジネスにはもう一つ別の要素が必要とのこと。

 

「コスメ&ビューティー市場のオンライン購入率は、時代と環境の変化とともに伸びてきていますが、そのほとんどはスキンケア。コスメは実際に試してみて購入するかどうかの意思決定を下すため、オンラインで購入する人が少ない。上記のカスタマージャーニーの中に、いかにブランドを体験できる情報や場を提供するか。これがオンラインでの売上を伸ばすためには欠かせないイチ要素になります」(長瀬さん)

 

その一つとして、日本ロレアルはアプリの中で実際に商品の使用感を試せるメイクアップアプリ「MAKEUP GENIUS」を開発。

もちろん開発して終わりではなく、イベントなどにMAKEUP GENIUSを設置。インフルエンサーに使ってもらい、拡散してもらうことでターゲットユーザーにリーチしているとのこと。最後に、長瀬さんはコスメビジネスにおけるアプリの意義をこう語りました。

 

 

「アプリは顧客により近づき、インサイトを知るためのツールでもあり、仮想商品でもある。またアフプリでのコスメブランドの体験無しにEコマースは成長していかない。アプリはコスメビジネスにおいて完全なカスタマージャーニーを作れる可能性を秘めている、と個人的に思っています」(長瀬さん)

 

国内で初めてCDOという役職を導入するなど、デジタルマーケティングを積極的に推進している日本ロレアル。時代の変化をいち早く察知し、そこに合わせた戦略をとる。アプリを中心とした、同社のデジタルマーケティングに対する考えは非常に参考になるのではないでしょうか。

 

Written by
新國 翔大
1991年生まれ。埼玉県出身。U-NOTE、サムライトでライター・編集者としての経験を積み、現在はBASEに所属。ショッピングメディア「BASE Mag」の運営をしつつ、フリーのライターとして活動している。
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新國 翔大
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