広告表示さえ我慢すれば、YouTubeやSpotifyでいくらでも無料で音楽を聴け、アーティストにも報酬が支払われる現代。ビジネスが大きく変わった今、どう作品を届ければいいのか。誰でも表現者になれる時代だからこそ、その方法を誰もが知りたいことだろう。

日本の音楽シーンでメジャーにいながらオルタナティブな活躍を見せるm-floは、その意味で格好の先輩といえる。CD全盛の時代からストリーミング時代の今まで、常に最前線で最先端の音楽を送り出して結果を残してきた。その中心的な存在が、DJの☆Taku Takahashiだ。

 

新曲はm-floそのもの

2016年12月15日、クリスマスを目前に控えた東京・六本木のライブ会場で、数百人のオーディエンスがm-floの登場を待ちわびていた。

「All right,take you back to the days m-flo classics」

始まりを告げる掛け声が会場に響くと、一斉に歓声があがった。

☆Takuはこの日、2002年にグループを抜けたヴォーカリストのLISAと久しぶりの共演を果たし、2人で数々の名曲を披露した。

この日からちょうど1年後、LISAのm-flo復帰が発表された。2018年3月にはVERBALを含めたオリジナルメンバー3人で作られたアルバム『the tripod e.p.2』がリリースされた。アルバム名はメジャーデビュー作『he tripod e.p.』になぞらえている。

『the tripod e.p.2』には『No Question』という曲がある。☆TakuはJ-WAVEの番組でこう語っている。

「『No Question』は今のm-floと今までのm-floがいい感じで混ざっている曲で、“僕らそのもの”が詰まっている曲です」

新曲のサブスク配信があまりに実験的

いわばm-floを象徴する曲である『No Question』で、m-floは思い切った仕掛けを見せた。音楽配信サービスでリリースする際、トラックを個別に配信したのである。

ドラムパートの『Taku Beats』、音モノパートの『Taku Synth』、ボーカルとラップのみが収録された『LISA』と『VERBAL』。これら全てを同時に再生すると、曲がフルバージョンで聴けるという仕組みになっていた。

一見、「わざわざ面倒なことを」と思うかもしれないが、音楽を聴くスタイルがユーザー側の裁量に委ねられたと言えば分かりやすいだろうか。例えば、サウンドのパートだけ再生して「カラオケモード」にすれば、歌う様子をYouTubeにアップできる。ヴォーカルパートだけ抜き出せば、サンプリングやリミックスだってできる。音楽の受け取り方をユーザー自身が選べる配信スタイルは、これまでにない試みである。

これを発案したのが☆Takuだった。多くのアーティストがマーケティングをレコード会社に丸投げする中、☆Takuは人任せにせず自分で考え実践してきたという。『No Question』を使った新しい試みも、その姿勢の表れといえるだろう。☆Takuは言う。

「今の時代、マーケティングのアイデアを考えるのはアーティストの領域でいいと思います。効果検証だけその道のプロに任せればいい。曲がいいから売れるというのがマネタイズの基本だとは思うけど、放っといて売れるものなんてない」

 

CDが売れなくなるのは分かっていた

「今の若いヤツよく聞いとけ。昔はCDってものがあったんだよ。丸くてペッチャンコなんだぜ」

「今はデモ・レコードですよね。自分のウチで作ったり凄いすね」

m-floのメジャー1stアルバム『Planet Shining』に収録された『Radio Show:Interlude 4』にはこんな掛け合いがある。アルバムが出た2000年は、今では考えられないくらい、飛ぶようにCDが売れていた。それ以前からm-floの面々は、CDが売れなくなる時代を予見していた。

「当時、こういう話をよくしていました。VERBALがアメリカにいたから、データのやり取りをMP3でしていたんです。絶対こうなっていくっていうことを肌で感じていました。1996年まで連載されていた漫画『沈黙の艦隊』に、将来は個々がメディアになる時代が来る、というセリフがあった。今まさに現実になっていますよね」

「ただ、錯覚してはいけない」と言葉を紡ぎ、☆Takuはこう続ける。

「メディアの在り方、人と人とのつながり方が変わってきて『個』の時代になっています。でも、『個』によるプロモーションが正解だと決めつけてはいけない」

マスの時代は終わったとよく言われるが、そうではないのだろうか。

「マスがダメだから自分でやれば成功するというわけでもない。マスメディア投下のプロモーションはいまも有効だと思いますが、結局、マスでやろうが個人でやろうが、大変なことには変わりない。難しい部分はどちらにもあって、それを適切に選択していかなくてはいけないということなんです」

 

日本は20年前から変わっていない

m-floがインディーズデビューした1998年、ダンスミュージックやヒップホップは、日本の音楽シーンにおいてまだまだニッチなジャンルだった。その中にあって、☆Takuがつくる洗練されたビートに、LISAとVERBALのスムースなフロウが乗るm-floのダンスミュージックは、明らかに異彩を放っていた。☆Takuは当時をこう回想する。

「時代が目まぐるしく変わり始めるタイミングでしたね。僕もVERBALもLISAも、ヒップホップやR&B、海外のクラブで流れているような実験的な音楽が、もっと日本のポップスの領域に広がっていけばいいなと考えていました。世界の音楽の動きに日本が追いついていないと感じたんです。音楽体験をみんなで楽しみながらわかちあえる状況を作りたいと思ってやってきて、その気持ちは今も変わらないですね」

1998年から20年。☆Takuは今の日本の音楽シーンをどう見ているのか。

「日本が保守的な国だということは、当時も今も変わらないと思います。時代は変わっているのに日本は変わっていない。そこにすごくフラストレーションを感じる。世界にはいいものがいっぱいあるのに、日本にだけ届いていないという状況がある」

 

しがらみを戦略で回避する

日本の音楽シーンが旧態依然としていることは論を俟たないだろう。「CD大国」と呼ばれるほど、ストリーミング全盛の時代にいまだCDが売れている。無論、CDを後進性の象徴と見なすことに反対の意見もあるだろうが、それにしてもストリーミングの普及率は海外に比べると極めて低い。ビジネスもCDを軸に考えた内容になりがちになり、新しい感性を持ったアーティストが活躍しにくいという指摘もある。

日本が世界に後れを取っているのは何も音楽シーンに限らないが、なぜこうなっているのだろうか。☆Takuは自らの実体験を交えてこう話す。

「エグゼクティブ層、簡単に言うと年配の人たちが最新の音楽やテクノロジーに詳しくない。今これが一番かっこいいんです!って伝えても、決定権を持ってる人がそれを理解できない。分からないから別の人に任せる、という姿勢であればまだいいけど、分かっていないのにコントロールしようとする人も少なくない」

音楽業界に限らず、どこも同じ問題を抱えているようである。

「そこから僕が感じるのは、日本の企業はマーケティングが下手だ、ということです。マーケティングがしっかりしていたら、エビデンスとしてかっこいいものがメジャーなシーンに出てくるはず。それがうまいと思うのがアメリカですね」

m-floではマーケティングの問題をどう克服してきたのか。

「年上の人たちに、これがイケてるんだよって説得してきました。しがらみはどこにだってあります。しがらみを戦術で乗り越えるのではなく戦略で回避することを意識していますね」

 

ユーザーが求めているものは

「お付き合いされていた方と復縁したことってありますか?」

LISAがm-floに復帰したタイミングを問うと、☆Takuはこう返してきた。

「このタイミングで起こった明確な説明ができないけど、3人の気持ちとタイミングが重なったということなんです。恋愛に例えると、別れても友達としては関係が続いていたんですよ。僕にもVERBALにもLISAにも、また3人でやろう、という気持ちが自然に芽生えていった」

「復縁」した3人が世に放った『No Question』の4端末同時再生という音楽配信の新境地。m-floが所属するレコード会社avexに加え、Spotifyの協力も得て、☆Takuはこのプロジェクトを主導した。

「Spotifyであれば、プラットフォームとしてスピーディに新しい試みができる。時代が変化するスピードが速い今は戦況がどんどん変わっていく。今までの方法では対応できない。出たアイデアがすぐに公開できる、みたいなスピード感が良かった」

プロモーションにおいては「口コミ」を最も重視するという。

「バズってるという状況だけにこだわらず、リアルな反応こそが重要です。それは音楽を届ける側、楽しむ側、どちらにとっても重要だと思いますね」

そして☆Takuはきっぱりと言う。

「ユーザーはやっぱりリアリティのあるものを求めてるんですよ」

 

(文中敬称略)

写真:小林茂太 

 

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長嶋太陽
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長嶋太陽

長嶋太陽(ナガシマタイヨウ) エディター/ライター/コピーライター。 1988年平塚生まれ。電通コピーライターとして社会人生活をスタート。 ウェブマガジン/雑誌の編集者を経て、現在はコピーライターとして企業に属しながら、フリーのエディター/ライターとして活動中。父は達磨職人。元フィンスイミング日本代表。