2017.4.27

時代を彩るアイコンに会い、ミレニアル世代の実態に迫る企画「#ミレニアルズ解剖」。

今回はSatellie Young(サテライトヤング)という音楽ユニットのボーカリストを務める草野絵美さん。80年代のシンセウェイブを再構築した音像やキャッチーな歌詞、そして80年代のファッションやメイクをオマージュしたMVなどのビジュアルが海外で人気に火が付き、4月にリリースした同名タイトルの1stアルバムが話題となっています。

高校時代から写真家としても活動し、大学時代にはネットベンチャーを起業するほか、ラジオ番組のパーソナリティも務めた経験があるなど、異色の経歴の持ち主。10代からさまざまなチャレンジをしてきた彼女が、今の活動に行き着いた経緯とは。デジタルネイティブな彼女と、インターネットとの距離にも迫ります。

草野絵美: 80年代のアイドル文化をオマージュしたシンセ音楽とビジュアルが異彩を放つ注目の歌謡エレクトロユニット Satellite Young(サテライトヤング)の歌唱担当。世界でトレンドになっている音楽ジャンル「レトロウェイブ」の文脈の一バンドとして語られて、国際的なアニメや音楽ファンから注目を集めている。2017年3月アメリカテキサスで行われたフェスティバル「SXSW」に出演を果たす。4月に1stアルバム「Satellite Young」が発売された。
Twitter:@gyorome  Instagram:@emiksn

 

10歳でホームページを制作。20歳で起業。

—今の自分の活動のルーツはいつに遡りますか?

Emi小学低学年の頃ですね。父親が50年代のカルチャーを再現するようなファッションデザイナーとして活動しているため、過去のファッション文化を紐解くような雑誌やカタログなどのアーカイブが自宅にあるんです。そのため、小さいころから年代ごとのファッションを中心としたカルチャーを調べることにのめり込んでいました。7歳の頃には自宅にMacが届き、勝手に触って遊んでいました。結局家族の中で一番Macに慣れ親しんだのは私で、親に使い方を教えていましたね。

 

—どんな作品に影響を受けていましたか?

Emi一番はアニメですね。当時一番影響を受けたのは、60年代に放映されていたアメリカのSFカートゥーンの「宇宙家族ジェットソン」。それからテレビで放映されていた「ひみつのアッコちゃん」、「がんばれ!!ロボコン」「Dr.スランプ アラレちゃん」といった70年代80年代に放送されていたリバイバル作品。TSUTAYAで過去作品をレンタルして、時代ごとのテイストを比較することが楽しくて仕方がなかったのです。

 

—古い時代のファッションに惹かれたのはどうしてですか?

Emiテクノロジーは技術革新されていくものだけど、ファッションは時代ごとに流行があって、いつか廃れてしまうアーカイブの文化。アーカイブだからこそ、リバイバルされるし、一つのジャンルとして成立する。そこに魅力を感じたんです。だけど、そんなことを同級生にいってもまったく理解してもらえなくって。中学生の頃の一番の友人は大学院に通う家庭教師の先生でした。

—音楽活動される前にも、様々な方面で活動をされていたんですよね?

Emi10歳の頃には「GeoCities(ジオシティーズ)」というホームページ作成ツールを作って、自前のサイトを持っていました。けれども、毎日ブログを更新することがしんどくなってしまったし、SEO対策みたいなことまでのめり込むことができなかった。大学時代にはファッション系の写真撮影の仕事を特派員的にやっていたのですが、レタッチやライティング技術を覚えられなくて、プロとしてやってくのは難しいと思いました。

 

それから20歳になってソーシャルグッドなことをしたいと思って、会社を起業したんです。でもそれも空中分解してしまった。今になって思い返すと、私はゼロからイチを作れても、それを継続できない人間なんだなと思います。話題のライターにもなれないし、起業家として活躍することもできない、フォトグラファーでもない。何をしても中途半端で不器用な人間だなって思うことばかりでした。

 

フラットに好きな人同士で繋がれる時代だからこそ

―でも、学生時代からそれだけのバイタリティーを持っている人はあまりいないと思います。それから音楽活動するのにはどのような経緯がありましたか?

Emi実は音楽をやろうとか、シンガーになろうとは思っていなかったんですよ。大学在籍時に結婚し、その後に子供を授かったのですが、その頃、暇すぎてYouTubeであらゆるMVを調べる時期がありました。その頃見た作品に刺激されて、「80年代のカルチャーを再現するような映像作品を作るプロジェクトを立ち上げたい」と考えるようになりました。たまたま起業時に知り合ったアート・ユニット明和電機の元工員だった、髙橋 征資(バイバイワールド)に、企画の相談をしたんです。

 

彼が、特撮アニメを模した作品を自作自演で作られていた作品を見せてくださった。そのときに「私はまさにこれがしたいんです!」とお伝えしたところ、ご紹介してもらったのが、今のメンバーのベルメゾン関根でした。彼はメディアアーティストとしての顔も持っていますし、曲も作れる。同じ大学であるSFCの先輩ということもあり、盛り上がりました。それから半年くらいあって、最初の曲「ジャック同士」の鼻歌のメロや歌詞ができて、そのボイスメモを関根さんに渡したところすぐに編曲してくれました。それからトントン拍子で楽曲ができてSoundcloudに上げてからというもの、2ヶ月に1度くらい楽曲をSoundcloud上にあげていくというサイクルができていったんです。

 

—インターネットを介して、世界で話題になったのにはどういう経緯だったのでしょうか?

Emiちょうど海外で80年代の音を回帰したシンセウェイブ、レトロウェイブというシーンがインターネット発でできていました。同時に日本のアニメカルチャーも受け入れられていたので、そこのシーンに刺さるのでは、と関根は意識していたと思います。しかも歌詞は日本語で歌っているという海外のレトロウェイブ勢とは圧倒的な違いがある。そうするうちにレトロウェイブの音源を発掘しているアメリカの ”NewRetroWave” や ”Future City Records” というレーベルから声が掛かりました。そのレーベルから楽曲をリリースところ、認知度が広まって、今年の3月のSXSWに出演できることになりました。

—狙っているマーケットに刺さったということですね。

Emiそうですね。「最初は80年代を完全再現した映像を作りたい」というところからはじまったプロジェクトですが、マーケットのなかでの立ち位置も見えてきたことで、今は「日本発の80’sシンセウェイブ」の一つのジャンルを私たちが作っていけたらいいなと思っています。

 

—インターネットを通じて、世界で話題になったSatellite Youngですが、ネット上で情報を発信することをどのように意識していますか?

Emi7歳でのインターネットに出会ってからというものいろんな時代のものにアクセスできるようになって、過去のアーカイブをディグる(掘り下げて調べる)ようになれたので、インターネットの恩恵しか受けていないなと思っています。スウェーデン人のユニット「makebabi.es(メイクベイビーズ)」が手がけるYoutube上のアニメ「せんぱいクラブ」の主題歌としてSatellite Youngがコラボすることになったのも、ネットでのやりとりがきっかけです。

Emi私より年下のスウェーデン人が、80年代の日本のアニメを模した作品を作るって時空が歪んでいる気がしますよね。この映像を手掛けているクリエイターとは来日時にあったのですが、彼はテレビを見ないし、YouTubeで好きなものをディグるうちに80年代の日本のアニメにのめり込んでいき、映像をつくるようになったと話していました。

 

時代も国籍も、コンテンツのヒストリーもフラットにインターネット上で見ることができるし、好きな人同士で繋がれる時代だからコラボレーションができたし、自分たちも世界で受け入れられたのかなと思う部分もあります。

 

現在に対して感じる違和感を提示

—80年代のファッション、音楽を再構築して表現している一方で、『フェイクメモリー』という曲では<3秒以内でシェアして>という歌詞など、今の時代を投影しているものが散見されますが、草野さんは現代をどのように捉えているのでしょうか?

 

Emi情報が溢れている時代で、それを無意識的に摂取しているから友達じゃないのに、インターネット上で見ている人を既にあったことがあったり友達な気がしたり、行ったことのないお店の料理を既に食べた気がしていることってあるじゃないですか。そういう違和感を歌詞で表現したいなって思って書きました。音楽をはじめとするアートってこれが問題だ、だからそれを解決しよう、みたいなソーシャルグッド的な価値観ではなくて、時代に対して感じる違和感を提示することが役割だと思っていて。キャッチーなメロディーとして受け入れてもらうのもいいし、問題意識を持ってもらうでもいい。解釈は受け手に委ねていますね。

 

—現在OLをやりながら、音楽活動をされているようですが、バランスは難しくないですか?

EmiOLになってからの方が、たくさん曲のアイデアが浮かぶようになりました。また、自分たちの見せ方を俯瞰して考えることもできるようになりました。社会人として学べることが多いですね。会社の先輩にもダイバーシティ枠というか、不思議なことやっている子持ち社員みたいな目で見られますが、それも結構楽しいです。

 

—これからの野望はありますか?

Emi私は大きな野望とか大きな目標とか持ったことないんですよ。有名になりたいわけでもないですし。しいてあげるなら、面白い人たちとコラボレーションを続けていきたいということだけ。例えば今だとKickstarterでお金を集めてNetflixで配信されることになった『Kung Fury』という80年代風B級カンフー映画があるのですが、その2に出てみたい、とか(笑)。

 

Emi音楽を担当しているのが、ミッチ・マーダーという既にコラボを果たしているプロデューサーさんなので、もしかしたら叶うかもしれないですね。いずれにしても、Satellite Youngというプロジェクトを面白がっていけたらいいなと思いますね。

 

 

最新MV: Dividual Heart

 

5/14(日)19:30〜@阿佐ヶ谷ロフト
Satellite Young待望の1stアルバム『Satellite Young』リリース記念パーティー開催決定。詳細はこちらから。

 


Interviewer:Hiroyoshi Tomite
Editor:Rina Ishii
Photographer:Mariko kobayashi
HairMakeup Artist:KATO

Written by
冨手公嘉
1988年生まれ。フリーで編集・ライター業を行う。
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