マーケター向けのメディアであるCOMPASS。若者たちの消費行動や実態に迫るのであれば、今若者たちに支持を集め、影響を与える時代のアイコンたちに話を聞いてみればいいのではないだろうか。今気になる、時代を彩るアイコンに会って話を聞き、ミレニアル世代の実態に迫る企画「#ミレニアルズ解剖」をはじめます。
第一弾となる今回は、インディペンデントマガジンHIGH(er)magazineの編集長ハルさんと、元SEALDsのメンバーとして活動し、現在は『Making-Love Club』という政治について考えるカルチャーイベントを企画している中川えりなさんに迫ります。数年前から親交があり、様々なファッション、カルチャーメディアでアイコニックに取り上げられる2人。何を考え、どのような活動をしているのか。SNSや発信することについて、彼女たちはどのように捉えているのでしょうか。
【左】ハル:東京藝術大学に通う大学3年生。インディペンデントマガジン「HIGH(er) MAGAZINE」を立ち上げる。クラウドファンディングで資金を集め、出版活動をしている。Instagram: @hahaharu777
【右】中川えりな:上智大学神学部に通う大学3年生。元SEALDsのメンバー。フリーランスでモデルとしても活動し、現在はカルチャーイベント『MAIKING LOVE Club』を企画する。Instagram:@erinacarmen
政治について知る機会を作ろうと思った
—えりなさんはSEALDsのメンバーだったそうですが、最初のSEALDsデモに誘ったのはハルさんだと聞きました。ハルさんは政治に対して興味をずっと持たれていたのでしょうか?
ハル:私の祖父母はドイツにいて、そこでしばらく暮らしながら学校に通っていたこともあって、歴史教育をみっちり受けたんですよ。ドイツの国柄として若者が政治に興味を持ち、自分が意見を持ち立場を表明するのは、当たり前のことなんですよね。私は当時の日本の空気に危機感や恐怖心しか感じなかったので、政権に抵抗しうるデモがあるなら、足を運ばざるを得なかったという感じです。もともとえりなが国会前の座り込み活動に参加していたのをSNSを通じて知っていたので誘いました。
えりな:やっぱり学校教育の影響が大きいですよね。私の場合は参加してみて、後から政治の実態について知っていったから。その現場に自分が足を運んで、身にしみてわかったのは、「自分もこの国の政治や未来に、参加している一人である」ということ。それまでは「自分一人にも政治や世の中を変える能力がある」なんて思ったことなかった。デモに参加していない世間大多数の若者もそうなんじゃないかな。けれどアメリカやドイツ、フランスなどデモが活発な国の人たちは、「自分の意見が政治を変える」ということを自覚している。だから現場で体験することがどれくらい大事かを知りましたね。
―デモに参加するようになってから、周囲の状況はどう移り変わっていきましたか?
ハル:学校の皆は政治に興味はあっても、声を上げている人はあまりいなかったな。そういう変化から日本ではデモに対するイメージが悪いのだとはじめて知りました。一方で「デモどうだった?」みたいに参加する気はないけど興味を持って話を聞きに来る子や「リサーチで一度現場に来るよ」って言ってくる子もいて。いろんな反応が返って来ましたね。
えりな:私も同じ。意外だったのは、私の周りにいるファッションの感度が高い子たちとかから政治や私の活動に興味を持って「教えて教えて!」と話を聞きにくることがあった。本来、政治って頭のいい人たちや(意識の高い人たち)だけのものではなくって、もっと普通の人が声に出していいもの。これが政治のあるべき姿だと思ったし、政治について知る機会を作っていきたいなと思うようになりました。
SNSで宣伝できたからこそ、クラウドファンディングで制作費が集まった
—ハルさんが発行している「HIGH(er)magazine」は、政治やフェミニズムの問題、ジェンダーなど普段語られないことをテーマに制作されていますね。自分でメディアを立ち上げようと思った理由はなんですか?
ハルが編集長を務める「HIGH(er)magazine」
ハル:とにかく自分で雑誌を作ってみたかったという他ないですね。普段あまり声に出さないようなトピックでも、実はみんなが共通して感じていることや考えていることがあって。少しでもそういうテーマについて考えるきっかけになるような本を出せたらいいなと思いはじめました。私たちがいる世界がちょっとでもいい方向に向かえたらいいなと思っています。一緒につくっているメンバーも口には出さないけどそういう気持ちは共通しているんじゃないかな、と感じます。
—資金集めは、どのように行ったのでしょうか?
ハル:1号目の制作費はお母さんに前借りしました。だけどいつまでもそれを続ける訳にはいかない。2号目を出す資金はクラウドファンディングで集めました。これからもハイアーを続けられるための資金という名目で、目標金額の25万円を無事に達成することができました。それからはコンスタントに販売し続けている雑誌やグッズの売り上げを制作費に充てています。イベントでは読者の顔が見えるので面白いですね。冊子自体も特定の世代に向けて作っているわけではなかったので、イベントに若者や10代20代だけではなく、パチンコ屋さんのオーナーといった上の世代に人達に来てもらえたのは嬉しかったです。
—一方でえりなさんは、政治についてのトークセッションやライブなどを交えたカルチャーイベント「Making-Love Club」を開催されましたよね。その経緯について教えてください。
「Making-Love Club」のフライヤー
えりな:SEALDsが解散して以降、若い人が政治に参加する機会がなくなっているように思えました。SEALDsがデモやサロンを開いていたときは、「政治はみんなのものだから、一緒に考えていこう」っていうオープンな姿勢だったから、政治に詳しくない人でも参加しやすい雰囲気があった。政治に興味を持ち始めている人たちは増えているのに、解散後そういう場があまり出てきてないのはちょっとヤバい気がして。だから、ターゲットは学がある人というより、どちらかといえばカルチャーやファッション感度が高い政治に対して特別知識がある訳ではない人達。そこに向けてのイベントにしたかったのでミュージシャンのライブの時間を設けたり、DJイベントを企画したりしました。
—イベントの宣伝はどのように行ったのでしょうか?
えりな:イベント用のSNSアカウントを作らない代わりに『i-D』などファッション感度、カルチャーの感度が高い層が読んでいそうなメディアにプレスリリースを送ったり、取材を受けたりしました。そうするなかで私のイベントに自然と感心を向けてくれる人がくればいいなと。正直、不安に思った部分もあったのですが、蓋を開けて見たら狙い通りのターゲットの人達がきた。
SNSで必死に仕事をもらおうとすることへのアンチ
—これまでも話に出ましたが、SNSはどのようなツールだと思いますか?
ハル:SNSは宣伝する上でなくてはならないツールですね。クラウドファンディングもそうですけど、SNSがなかったらここまで「HIGH(er)magazine」の活動は広まらなかったかもしれない。地方の人達も私がやっていることを知ることができたのは、SNSがあったからこそだと感じています。
えりな:私は今ちょっと違う立場ですね。今SNSでセルフブランディングをしすぎる子達に対して、ちょっと冷ややか。 私の場合は自分のSNSにメディアとしての役割をあまり持たせたくないし、自分がどの媒体に載ったかを宣伝したいと思わない。実際は、インタビューを受けた媒体からSNSでの宣伝を頼まれるので私的にはちょっと微妙だけど(笑)自分のインスタグラムページを匿名性のあるコンテンツに徐々にシフトチェンジしたいと思っています(笑)
ハル: SNSに対する比重の置き方、リアルとの距離感を間違えないようにしたいなとは思うけど。SNS上での影響力が強い人が必ずしもリアルでそうかと言われれば、そうじゃないかもしれない。だからSNSとリアルは別のものだと認識できていれば、いいんじゃないかな。えりなはSEALDsにいた頃は、「自分がアイコンになって広めて行きたい」って発言していたから、この変化は面白いね。
えりな:それはやっぱりイベントの影響が大きいかもしれない。SNSで自分や活動をアピールすることよりも、プラットフォームを作って、そこで生で議論を生むことの価値みたいなものを感じる。その時にメディアの力を借りたいな、という気持ちになっています。
SNSに載せる内容は線引きしない。上手く付き合っていけたら
—Facebook、TwitterなどSNSに載せる内容に対しては、どのように使い分けていますか?
えりな:言語化できていないけれど自分自身でこれは載せる・載せないという線引きは確かにありますね。SEALDsが解散してから今SNSはInstagramだけに絞っていて、SNSに対する比重が減りましたね。
ハル:私は結構色々使っていて。宣伝だけじゃなくって日々の日常も書いているし、それぞれのサイトを使い分けています。モデルとして雑誌に載ったときの宣伝もするし、日常のことも綴る。どんなところでも興味を持ってくれた人に「HIGH(er)MAGAZINE」のことを知ってもらえたらいいし、うまく付き合っていけたらいいなと思っています。
—最後にこれからの活動を通じて、やりたいことを教えてください。
えりな:イベントを継続させていくことですね。イベントも立場が近すぎる人を読んでも面白くないし、ちょっと意見が合わない人も出てもらったりすることが大事なのかなって思っています。「一緒に飲みたくはないけど、議論できる人」みたいな距離感の人に出てもらいたい(笑)。イベントは継続させていくとして、いずれはネット番組やラジオなど言葉を通じて発信・発言できる場を持てたらいいなと思います。
ハル:マガジンの4号目では、フリーランスとして働いている人たちや、自分で道を開拓してきた人たちにフォーカスを当てたコンテンツを作りたいなと思っています。私自身、どこか企業に入って働くような人間ではないし、日本はどこか会社に入らないといけない、みたいな風潮がある気がする。だからそういう定説を気にせず、軽やかに行きている人達の意見に触れていきたいし、そういう生き方があることを伝えていきたいです。
Interviewer , Editor:Rina Ishii
Photographer:Mariko kobayashi