1990年代にインターネットが一般家庭に普及してから、早20年以上。

インターネットを通して誰でも簡単にどこでも情報発信ができる時代になるにつれ、様々な新しい働き方や職業が世界中に誕生した。WEBデザイナー、アプリエンジニア、最近ではインスタグラマーやYoutuberも20年前には想像もつかない仕事の一つだろう。

ブログによって生計を立てている職業”プロブロガー”もその中の一つだ。

”プロブロガー”は、ブログの記事内で紹介した書籍や商品のアフィリエイトや広告などで生計を立てる職業で、日本語圏より人口ボリュームのある英語圏においては誠に多種多様なプロブロガーが活躍している。

 

この”プロブロガー”という概念は、オーストラリアのブロガー・Darren Rowse氏のサイトによって誕生した。Darren Rowse氏は、2004年にブログで生計を立てるための方法論を紹介するサイト「ProBlogger」を設立し、サイト内でそのノウハウを展開している。

 

そんなプロブロガーという職業だが、米国の”元”プロブロガーに変わった経歴を持つ人間がいる。
それが今回取材を行なった、Maneesh Sethi(マニーズ・セティ)氏だ。

マニーズ氏は元々、プログラマー兼プロブロガーであり現在ではウェアラブルデバイス「Pavlok」を開発・販売している。

 

電気ショックを与え、悪習慣を止めさせるウェアラブルデバイス・Pavlok

Pavlok 提供:マニーズ・セティ氏

Pavlokは簡単に言うと「電気ショックを与えるウェアラブルデバイス」だ。スマホアプリと連携し、二度寝や喫煙、間食などの悪癖を電気ショックを与えることで止めることができる。

心理学のパブロフの条件反射理論を応用し、電気ショックを避けるべく脳が悪癖をしなくなるシンプルながらも強力に行動をコントロールする仕組みだ。

Pavlokは日本でも販売されており、フジテレビ系列・ワイドナショーなど、数々のTV番組でもユニークなウェアラブルデバイスとして紹介されてきた。

そんなPavlokを開発したマニーズ氏は、もともと自身で運営するブログ「HACK THE SYSTEM」で生計を立て、デジタルノマドとして世界中旅をしていた人気ブロガーである。

 

プロブロガーから一体どういった経緯でウェアラブルデバイスPavlokを開発することになったのか、今回直撃インタビューを行なった。

 

ー早速ですがプロブロガーになるまでのマニーズさんの人生について簡単に教えていただけますか?

 

マニーズ:

筆者撮影

米国カリフォルニアでインド人の両親のもとで生まれました。

10歳の時にプログラミングを習い始めて12歳の時にWebデザインの会社を作り、16歳の時にプログラミング書籍・Game Programming for Teensを出版しました。

 

幼いころからADD(注意欠陥障害)に悩んでいたこともあり、そこから人間の行動に興味を持ち、2005年にスタンフォード大学に入学。BJ Fogg教授に師事し行動経済学や心理学を学ぶことにしました。

2008年からは休学してイタリアに留学し、留学中にティム・フェリスの『「週4時間」だけ働く』を読んだんです。

 

当時はWebサイトを制作するなりノマドワークを開始していましたが、『「週4時間」だけ働く』を読み、Passive-Income(パッシブ・インカム≒不労所得のようなもの)により経済的自由を叶えつつも自由に世界を旅することが可能なのだと知りました。

 

ーーティム・フェリスの本を読んだのですね。マニーズさんは2010年からブログ「HACK THE SYSTEM」を運営されていますよね。どんな想いで始めたブログなのでしょうか?

 

マニーズ:


私は4年間イタリア・スペイン・アルゼンチン・ブラジル・インド・メキシコ・コロンビア・ドイツなど30か国以上の国を旅していました。旅の最中にはスペイン語を含め4か国語を学んだり、DJをやったりと様々なスキルを習得していました。そのスキル習得のノウハウや社会実験、オンラインビジネスのやり方をブログ「HACK THE SYSTEM」で発信していました。

 

同時に「HACK THE SYSTEM」でパッシブ・インカムを実現しました。でもブログだけのパッシブ・インカムの生活にはすぐに満足できなくなりました。オンライン世界よりももっと現実世界に関わりたいと思うようになりました。

 

世界中をノマドし、社会実験として世界から引っ張りだこのDJにもなった。

ーー「HACK THE SYSTEM」はコンセプトがかなり明確ですね。「HACK THE SYSTEM」の記事の中でも「ドイツ・ベルリンで90日間で有名なDJになる」という社会実験の記事は凄く印象的でした。

 

マニーズ:僕はDJが特別上手いわけではありません。
ただ、週末、ショッピングカートにスピーカーを積み込んで路上や電車、駅構内でゲリラ的にエレクトロ音楽を鳴らしてたんですね。

ショッピングカートに積み込んだお手製DJキットに集まるドイツ現地の人々 提供:マニーズ・セティ氏

電車内でショッピングカードから繰り広げられるDJプレイ 提供:マニーズ・セティ氏

駅構内でDJをするマニーズ氏 提供:マニーズ・セティ氏

そしたらドイツ人がいっぱい集まってきて駅の構内がクラブみたいになったんです。

 

で、そのままその人たちをクラブに連れて行ったらDJをしてくれと頼まれました。DJが上手いわけじゃないのですが僕たちが客を連れて来てくれるからのオファーでしょう。

駅構内がクラブ状態 提供:マニーズ・セティ氏

そのあと、自分たちを紹介するWebサイトとFBページを作ってクラブ会場に化した駅構内でトランス状態のドイツ人にページを紹介していいね!を押してもらいました。あとは自分たちで大量のいいね!も購入しました。

そして、私はヨーロッパ中のクラブに「米国で有名なDJのマニーズを紹介します。マニーズのパフォーマンスを予約したいですか?」と連絡を入れました。

すると驚くべきことに様々な国のクラブから「パフォーマンスをしてほしい」と連絡が来ました。

※90日間で有名なDJになった社会実験の様子を撮影した動画はこちらThe 90 Days Project – 90 days to becoming a DJ in Berlin

 

女の子にビンタしてもらうと生産性があがる!?Pavlok開発の意外なきっかけ

ーーそれはすごい!日本だと”錯覚資産”というワードもあるのですが、有名人だと錯覚させる能力があれば本当に有名になってしまえるものなんですね。

 

マニーズ:若毛の至りでしたが、この社会実験の成功は僕の生き方を変えました。それ以降は生産性に関連した実験を始めました。

なぜなら僕は旅をしている間の生産性がものすごく低かったんです。ADDなのもあると思いますが、1つの事に集中できず注意散漫になりがちなんです。

 

そこでクレイグリスト(米国版クラウドワークス)で1時間8ドルで女の子を募集。僕の隣に座ってもらい、もし僕がFacebookを覗いたらビンタをしてくれるようお願いしました。

ビンタする女性を雇い生産性を高める 提供:マニーズ・セティ氏

すると女の子に隣に座ってもらってる間の仕事の生産性がかなり上がりました。女の子が隣にいない時の生産性が28%だったのに対して隣にいた時の生産性は最大98%でした。つまり生産性が3倍になったということです。

それで「HACK THE SYSTEM」にこのことをまとめた記事「Why I Hired A Girl On Craigslist to Slap Me In The Face — And How It Quadrupled My Productivity」を投稿しました。

 

すると物凄い反響がありました。ハフィトンポスト、CNETなど主要メディアに取り上げられFacebookでは1万以上シェアされました。

これだけ反響があったということはそれだけ「Facebookをつい見てしまうような悪習慣を辞めたい、自分の生産性を高めたい」と考えている人がいるのだと考えました。

ただ隣に常に誰かに座ってもらってビンタをしてもらうのは現実的ではありません。そこでビンタをしてもらう代わりに電気ショックを与えるウェアラブルデバイスはどうか、と考えたのです。2012年のことです。

 

ーーウェアラブルデバイスのようなハードウェアの開発は大変ではありませんしたか?

 

マニーズ:そうですね。ただ最初は試しに作ってみようという軽いノリでした。私はハードウェアのバックグラウンドがなかったので、友人の助けを借りてプロトタイプを作り上げました。

提供:マニーズ・セティ氏

で、プロトタイプを作ってみると「これ本当に人の悪い癖を直すのに役立つんじゃないか。そしたら世界にインパクトを与えられるんじゃないか」と思いました。

でも実用化に足るプロダクトを作るにはより専門的な支援が必要だと感じました。そこで、ハードウェアの起業家やエンジニアのアドバイスが受けられるインキュベーターBoltの支援を受けることにしました。

 

認知度向上には、プロブロガーとしての蓄積が活きてきた。

ーその支援のみでプロダクトは完成できたのですか?

 

マニーズ:いえ、ハードウェアの開発はものすごくお金がかかります。
なので、2014年にクラウドファウンディングサイトのIndiegogoでプロジェクトを立ち上げて資金調達を実行したんです。なんと目標調達額5万ドル(約550万円)をはるかに超える28万ドル(約3000万円)を調達することに成功しました。

クラウドファウンディングサイトは資金面において本当に有用でした。

ーなるほど。クラウドファンディングやプロダクトのプロモーションはどのように行なったのですか?

 

マニーズ:Pavlokの認知を広めるのにはIndiegogoが役立ちましたね。また、自分のブログ「HACK THE SYSTEM」の読者もたくさんいるため認知してもらうのは比較的スムーズに進みました。

日本での販売は日本拠点の販売代理店が懸命に動いてくれていることもあって有名なTVショーで取り上げてもらうことができ認知度がかなり上がっています。

グローバルにみると出荷台数の割合は米国が6割、日本が2割、その他が1割といった割合です。

 

ーープロブロガーからウェアラブルデバイスの会社の創業をするキャリアは物凄くユニークだと思います。やはりマーケティング面においてはプロブロガーとしての影響力は役立ったのですね。

 

マニーズ:そうですね。ただ、Pavlokは単なる「電気ショック目覚まし腕時計」みたいに奇をてらったプロダクトとして紹介されがちです。

でも実際に正しく使ってもらうと人々が抱える様々な悪習慣を断ち切れるプロダクトなのです。ユーザーのみなさんにPavlokの使い方をより正しく認識してもらうのが今後の課題ですね。

現段階でもPavlokを使用した世界中のユーザーから
・朝二度寝することなくスッキリ起きれるようになった
・禁煙に成功した
・間食のし過ぎを辞めることに成功した
・Facebookの見すぎを止めるのに成功した
etc……

など、世界中のユーザーのみなさんから嬉しい声が続々と届いています。今後、さらに多くの方にPavlokを使っていただきたいですね。

 

ーー本日はお時間をとってインタビューに対応いただきありがとうございました。

 

マニーズ氏は不労所得を得ながらノマド的に世界中を旅する生活を実現する中で、より現実世界にインパクトを与えたという想いからウェアラブルデバイスの開発に取り組むことになった。

インターネットによって新しい職業は増え続けることが予想されるが、そのうえでさらに次のステップを見ているマニーズ氏のような人間も世界にはいる。

まず発信力をつけ、その次になにをするのか。

とかく発信力やフォロワーの数値を追いかけてしまいがちな昨今だが、ブログ先進国である米国のプロブロガーの進化形ともいえるキャリアから学べることは多いのではないだろうか。

 

 

  • LIKE@COMPASS
  • FOLLOW@COMPASS
森本進也
Post Author

森本進也

ライター。1989年生まれ。IT、経営、マーケティング、金融、バイオ、医療等の領域において海外の最新トレンドを追っている。好きなメディアはTechCrunch、Business Insider、Scientific American。