2018.3.12

既成概念を軽やかに打ち砕くミレニアル世代。これからの時代を担うミレニアルズは今、何に駆り立てられ、何を追い求めているのか。その実像を探るTHE MILLENNIALS PEOPLE。

ソーシャルメディア発のアパレルブランド「カメレオン」を立ち上げたRauni(ラウニ)は、ガーナ人とロシア人の血を受け継ぐ東京生まれの22歳。何が彼女を駆り立て服作りへと向かわせるのか。彼女の言葉を手掛かりにミレニアル世代の現在地を明らかにする。

カメレオンのiPhoneケース

体色を七変化させて見る者を欺くカメレオン。その名を冠したアパレルブランドでデザインと販売を行うラウニは、中学時代を東京・町田で過ごした。かつて「西の歌舞伎町」と呼ばれた町田は、東京有数の犯罪多発エリアとして悪名をはせた時期もあった。

ラウニ本人も「割りとゲットーなエリアで、毎日がサバイブするためのハードデイズ、というのは冗談だけど」と笑って見せた。町田には母親が水商売をしていた関係で住むようになったという。

自宅のソファでくつろぐラウニ。手に持っているのは私物の洋服

ラウニの原点はこの中学時代にある。彼女は瞼が深く刻まれた眼でまっすぐ先を見つめて話す。

「女の人のきらびやかな感じとか、歓楽街にあるラブホテルのロゴやその世界観が好きになった。高校を卒業してから、そういう歓楽街に足を運んで、なんだか落ち着くからという理由でラブホテルに泊まったり、バーの看板を写真にとって集めたりするようになった」

さらに、高校時代の友人たちから受けた刺激も原動力になっている。

「中学時代からの同級生がVineを使って、どんどん有名になっていくのをそばで見ていたのが大きいかもしれない」

同級生はアメリカ・ロサンゼルスに留学し、その様子をYouTubeにアップしていた。ラウニがロスへ遊びに行ったときのこと。一緒にふざけて遊んでいる様子をアップすると、SNSのフォロワーが1000人から2000人くらい増えていった。

「私のことを面白がってくれる子たちがいるなら、どこかに属さなくても、自分でやりたかったことやってみるチャンスかもしれない!と思って、去年ブランドを立ち上げたの」

高岡早紀の写真集を見ているラウニ。「90年代初期の雰囲気に惹かれるんですよね」

経験より直感

ラウニはファッションに関して専門的な教育を受けていない。服飾の学校も出ていなければ、ブランドでデザイナーとして経験を積んだわけでもない。だが彼女は、そんなことは気にもとめなかった。

「どこかに弟子入りをして知識を得てから、というやり方もあるかもしれないけど、洋服のことが好きならできるだろうし、やりながら学ぶこともできるかなって。だから自分でロゴのレイアウトをして、価格帯を決めて、買ってほしい年齢層とかプロジェクトの概要を決めた」

そして、2017年にブランドをつくった。買い付けた古着と作った服を持って、レンタルでポップアップストアを始めた。ここでの売り上げを資金に新しいオリジナル商品を作り、オンラインストアを始め、再びポップアップストアを開いた。

「今のところ、きちんと次につながるくらいには進められているので、バカなりにお客さんのことを大事に考えながら、やってよかったなあって」

まだブランドのビジネスが本格的に軌道に乗っていないのか、普段は東京・代々木上原のバーでアルバイトもこなしているという。

お気に入りのサングラスが並ぶ。18個以上を気分によって使い分けている

リアルを求めて

ラウニは自分のことを「本当に恵まれた世代」だという。SNSやネットがあれば、好きな情報にすぐに手が届く。SNSで自分のことを面白がってくれる人もいる。それがビジネスにもつながっている。

ただ、ラウニは「ラッキーだったな」と思う反面、「目の前に提示されている情報が多すぎるから、ひとまず、カテゴライズしないと落ち着かないみたいなしんどさはあるかもしれない」とも感じている。

「判断を保留できないというか…。あと、逆に提示される写真や一言一句から背景を想像しすぎてしまって、それが本当のこととの間にズレが生じることもある。SNSの恩恵を受けて、それありきでブランドを始められたけど、そこでのアピールばっかりだと皆離れていってしまうでしょ。前例がないことだから、適切な距離感を私たちも探しているのかも。もしかしたら、意外と行き詰まってるところもあるかもしれないね」

好きな品々が並ぶラウニの部屋。「後ろの日本画にはおりくさんと名前を与えました」

ソーシャルメディアでのコミュニケーションに戸惑いつつも、自らの意志を貫き邁進するラウニ。今はリアルなつながりに強く惹かれている。

「服飾の学校に通っている子たちとか、グラフィックデザイナーとかを巻き込んでプロジェクトをやっていきたいって思って。これだけ選択股があるなかで私が服を作って売るのがどういうことなのかを考えると、お客さんの意見は真摯に聞きつつも、私は自分の表現したい世界観をどんどん提示したほうがいいなって思うな。だから間口はポップに見せつつも、自分の中にある表現したいものを同時に突き詰めていきたいな」

(敬称略)

【プロフィール】Rauni(ラウニ)
1995年生まれ。2017年、アパレルストア「カメレオン」を設立。イベント「ホテル・カメレオン」を不定期で行う。

Twitter:@Rauni_22
Instagram:@Rauni815
HP: アパレルストア・カメレオン

<撮影>池野詩織
1991年生まれ。2012年より写真家として活動を開始。日常のドキュメンタリースナップ写真を作品として発表している。作家活動とともに、雑誌やウェブなどで活動中。展示やZINEフェアにも定期的に参加している。

Twitter:@ikenoshiori
Instagram:@ikenoshiori
HP:SHIORI IKENO

Written by
冨手公嘉
1988年生まれ。フリーで編集・ライター業を行う。
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