ここ数年ではシェアハウスの流行が著しく、それに伴いプライベート空間を重視するソーシャルアパートメントという住み方も広がっています。ソーシャルアパートメントとは自分の空間と時間を確保しながら、人との交流や繋がりを求めて集まる新しいライフスタイルです。また、一人暮らしでは実現できないようなリッチな共用施設があることもメリットの1つです。
スタイリッシュなワーキングスペースも
自由に使用できるBarスペース
今回は株式会社グローバルエージェンツ コミュニケーションデザイン部の廣田 章剛さん、吉田 主恵さんに、ソーシャルアパートメント流行の背景やコミュニティ作り、街との調和、そして未来の求められる空間についてお話を伺いました。
ソーシャルアパートメントは付加価値を足す、足し算方式
—まず、シェアハウスとソーシャルアパートメントの違いを教えてください。
吉田さん
吉田:多くのシェアハウスは安く住むために1つの建物を割るという割り算の考え方をしているため、そこに掃除当番や洗濯当番が入ってくるとプライバシーをなかなか保ちづらいというのがあります。もちろん、それが良いという方も居るのですが、ソーシャルアパートメントが提供しているのは一人暮らし+αのスペースやコミュニティなど付加価値のある、足し算の考え方をしています。
ですから、一人暮らしとしての空間が保たれながら、コミュニティや人との繋がりを形成し、楽しめるのがソーシャルアパートメントですね。賃料に関しても一般賃貸よりも少し高めの設定のため、入居する方もモチベーションが高い方が多く、住む人同士が刺激を受ける環境になっています。
—入居者は、どういった感じの方たちが多いのでしょうか?
廣田:結構バラバラですね。社会人2.3年目から30代前半の方が多く、男女比も半々です。我々は文化創造企業と謳っているのですが、トレンドで終わらせるのではなく、当たり前の選択肢としてソーシャルアパートメントを広げようという目標があります。誰でも選んでいただける物件作りをしているので、大手企業からベンチャー企業、公務員、フリーランスの方もいれば、入居者同士で起業する方までいて、ひとくくりにはしづらいですね。
SNS上の付き合いに飽きて、リアルな付き合いを求める
—ソーシャルアパートメントが、多くの方に支持されている理由は何なのでしょか?
廣田:もちろん様々な理由がありますが、個人的に面白いなと思うのは、転勤や就職などで上京する、地方出身の方が多くいらっしゃるんですよね。誰も知らない中で東京に住むことは不安で、生活に安心感を持つためにソーシャルアパートメントを選ぶという選択肢は、現代の隣人との関係の希薄化と対極にあるなと、と思います。あとは自己投資と考えて、選ばれる方もいらっしゃいます。
—自己投資ですか?
吉田:一般の賃貸と比べてそれほど安いわけではないので、近隣の環境とかハードはもちろん、ソーシャルアパートメントで経験できる事など、全部含めてそれ相応なのか、計算してから住まわれる方もいらっしゃいますね。
—人との繋がりに投資しているということですね。昔からおそらく人と繋がる欲求はあったと思うのですが、今の時代にこれだけ支持されて、流行しているのは何が関係していると思われますか?
廣田さん
廣田:SNS上の付き合いに飽きたんじゃないかなと思っています。結局SNSで見たり聞いたりすることは、その先が無くて結局リアルってどこなんだろうと我に返る瞬間がある。そんな中でリアルを暮らしの中に求めた結果、ソーシャルアパートメントを選んでいただけているのではないかと。
自分が普段やらないことを体験して、それが刺激になり学びになり、最終的に他の人に刺激を与えるという循環ができている。シェアハウスだとその分プライベートが犠牲になっていたりするのですが、その点でソーシャルアパートメントは、今日はラウンジに行きたくないなという日は、共用部を通らず部屋に帰れるような取捨選択できる動線設計をしています。
—コミュニティの活動もいくつかあるとのことなのですが、実際にはどういった活動がありますか?
吉田:ワールドネイバーズ清澄白河はオープンして3ヶ月ですが、すでにたくさん部活が立ち上がっています。ヨガやランニングなど一緒に身体を動かす活動が中心ですね。よく釣りに出かけたり、バスケもしているようです。
廣田:学生生活をもう一度楽しんでいるみたいな感じもありますね。
吉田:活動の内容もそれぞれの仕事の専門性が付いて来て、非常にレベルが高いです。これは二子玉川のソーシャルアパートメントなのですが、自主的に動画を作っていたりもするんです。
—楽しそうですね!季節のイベントの雰囲気など伝わってきます。
吉田:ソーシャルアパートメント内を引っ越し、すでに3軒目の方も居ますよ。1回体験したら一人暮らしするメリットが感じられなくなるって言うんですよね。
—多くの人に囲まれて生活していたら、一人暮らしに戻るのが寂しくなりそうですよね。
街に根付くことの意義とは
—ここ清澄白河のソーシャルアパートメントだと、街の人も使用できるソーシャルランドリーがありますよね。コインランドリーはなぜ作られたのでしょうか?
街の人々にも開放されているソーシャルランドリー
廣田:ここに住んでいる、いわゆるミレニアル世代の人は、30分で何ができるのかということを考えている人たちだと思うんですよね。そういった人たちに向けて、社会的な生き方を提案できるコンテンツを常に私たちは考えている状態です。時短や効率性で、生活をより豊かにする方法論は、これからのライフスタイルに非常にマッチしていると思います。さらにそこにカフェを併設することで人を介し、コミュニケーションを誘発することは我々のコンセプトにも沿います。なので、機能的なコインランドリーはあまり興味がなくてコミュニティ、社会貢献におけるコインランドリーの運営をこれから頑張っていこうと思っています。
先日もランドリーワークショップというのを2回ほどやってみたのですが、入居者の方も全く知らない外部の人も参加してくれて、思い描いていた入居者と外部の方の交流をスタートできたので、これから徐々に育てて大きくしていきたいですね。
カフェには期間限定のランドリーグッズの販売も
—街に対してオープンに開いていくことは、ソーシャルアパートメントに住む方々もポジティブに捉えられているのでしょうか?
廣田:入居者の方が主導で活動をしてくれているソーシャルアパートメントが千葉の新検見川にあります。カフェとかは付いていないのですが大きな中庭があって、そこでイベントを開いているんです。元々海外で行われていた「レストランデイ」という主催者がいなくて、誰でも1日だけレストランを開けるという形のもので、街の八百屋さんも参加してくださって、地域の方を巻き込んでたくさんの人に楽しんでいただいているようです。
ソーシャルアパートメントの入居者と地域の人との距離が近くなって、こういうことが街に開いていくことなのだと実感しました。
—すごいですね!街に根付いていくことの意義や目的はどういう風に考えられていますか?
廣田:僕らがやろうとしているライフスタイルの提案をWEB上だけじゃなくて、リアルでできるというのはすごく大きいかなと思っていますね。
私たちが運営しているホテルが象徴的だと感じています。すべてのホテルに飲食スペースを設け、誰でも入れる空間があることによって、ローカルとゲストの方々が繋がる。この接点を通してゲストの方々はもちろん、ローカルの方々にも新たな発見があり、双方の世界が広がっていく循環を生むような取り組みをしていきたいです。
—暮らしにとどまらず、どういった空間や場所が求められるようになると思われますか?
廣田:集まれる場所を求めているのは明らかだと思います。その場所が今後はさらに細分化されていくのかな、と考えています。最近だと東京オリンピックに向けてスポーツコンテンツも拡大していて、個人的にはフィットネスという分野に興味があったり、これは既に取組みが決定していますが、”WORK”という分野へも今後取り組んでいきます。。そういった細分化されたカテゴライズの中で、住居としてソーシャルアパートメントも増えていくと良いなと思っています。
—ありがとうございました、これからの展開も楽しみにしています!
その住居内に留まらず、街のコミュニティとして存在を広げるソーシャルアパートメント。オープンなマインドを持ち合わせた現在の若者にとっても、必要な存在になっていくのはそれほど遠い未来ではないでしょう。
Photographer:Mariko Kobayashi