2020.1.29

 

いま「睡眠」に世界が注目している。

「スリープテック」と呼ばれる睡眠の質を向上させるデバイスやテクノロジーの市場価値が世界規模で飛躍的に拡大しているのだ。

その規模は、2020年には9兆円にも達すると予測されており、日本だけでも1兆3000億円と見込まれている。潜在市場規模だと3-5兆円にものぼると予測されている。

今世界でトレンドとなっている「スリープテック」に迫る。

知ってた?日本は世界でも最低の睡眠時間。「睡眠不足大国」の日本

 

人間の三大欲求の、睡眠。人間が1日の3分の1を睡眠に費やしているため、その市場や潜在顧客は老若男女問わず、すべての人間が該当する。

適切な睡眠は8時間前後といわれているが、日本人の約4割が6時間未満の睡眠という調査結果も2015年の厚生労働省から出ている。

経済協力開発機構(OECD)の2018年に行った調査によると、日本は加盟国中、最も睡眠不足な国となっている。睡眠時間を最もとっている国の平均は南アフリカで553分、次いで中国で542分、エストニア530分となっており、日本は最低の442分。

日本の次に睡眠時間の少ない韓国は461分で、最下位の日本とは20分の開きがある。

2014年に行った同じ調査では、日本の睡眠時間平均は456分でこの4年でさらに睡眠不足が加速していることになる。

また、不眠の割合も多く、日本人の5人に1人が不眠といわれている。

睡眠不足や不眠の理由には働きすぎやストレス、スマホへの依存など様々な社会問題が原因だといわれており、こうした症状は日本だけでなく世界中に広がっており、アメリカでも7000万人が慢性的な不眠症に悩んでいるという。

いま、世界でスリープテックが加速する背景には、そうした現代病の存在が大きいだろう。

 

質の良い睡眠とはなにか?レム睡眠とノンレム睡眠を操る

そもそもスリープテックが追求する、良い睡眠とはなんだろうか?

睡眠の質は、単純に睡眠時間が長ければ良いものではなく、良い睡眠とは、「体も脳や心もしっかり休息できる睡眠」のことだ。

人間の睡眠の状態は、「レム睡眠」「ノンレム睡眠」と2つに分けられ、この2つの特性を活用し、睡眠をコントロールすることで良い眠りが得られるといわれている。

「レム睡眠」は浅い眠りで、身体は眠っているが脳は覚醒しており、夢を見ているときはレム睡眠状態だ。

「ノンレム睡眠」は心身ともに休息している深い眠りで、脳も身体も休んでいるため「ぐっすり寝た」という感覚を得られる睡眠だ。

人間は1度の睡眠で何度もこの「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しており、朝起きる時には「レム睡眠」の浅い眠り、寝入る時間には「ノンレム睡眠」の深い睡眠状態をコントロールできれば、質の良い睡眠を得ることができる。

質の良い睡眠を取れていれば、朝スッキリと目覚めることができ、日中の身体の疲れを癒すことができ、夜も不眠になることなくすんなりと眠りに入ることができる。

スリープテックはこうした睡眠のサイクルを管理し、より質の良い睡眠へと誘うためのテクノロジーだ。

様々な事業で睡眠課題の解決に挑む、日本の企業たち

睡眠不足大国な日本で、多角的な事業領域で睡眠課題の解決に挑むスタートアップがある。
株式会社ニューロスペースは、睡眠課題解決を掲げたスタートアップで、2019年7月には4月の総額3億4000万円の資金調達に加え、1億7000万円の資金調達を実施している。

株式会社ニューロスペース公式サイトより

代表の小林CEOは学生時代から社会人時代まで不眠に悩んでいたことをきっかけに立ち上げたという同社では、事業向けの睡眠課題解決プログラムや睡眠APIの開発、企業の仮眠室へのコンサルタントなど、睡眠を軸に主に企業向けに幅広い事業を行なっている。

昨年には航空会社のANAと共同で時差ボケアプリの開発や、東急不動産ホールディングスの会社内に東急ハンズと連携した「オリジナル仮眠室」の提供、東京メトロの従業員向けの「睡眠改善プログラム」を提供するなど、様々な大手企業に対して睡眠改善事業を行なっているようだ。


東急不動産新本社の仮眠室の様子/プレスリリースより

その他にも、ニューロスペースはKDDIのホームIoTサービス「au HOMEデバイス」にも布団の下に置いて呼吸や体温をモニターする専用センサー機能の提供を行なっている。

また、国内大手家電メーカーであるパナソニックもスリープテック領域に挑んでいる。
同社は2013年から睡眠時の明かりを調節できるライトを開発し、昨年には寝具メーカー大手の西川産業との協業で「快眠環境サポートサービス」を研究開発を行うことを発表。


Panasonic公式サイトより

睡眠データにあわせて家電や寝具を自動制御でき、睡眠の結果を可視化・アドバイスで、よりよい睡眠環境を提供することを目指すという。

その他にも、高反発マットレスを販売するエアウィーヴやフランスベッド、シャープなどもスリープテック領域に挑んでおり、国内でも今後ますますの競争が見込まれる。

先日行われたCES2020でもスリープテックは多数出展

毎年1月に行われる世界一の家電見本市・CESでも今年、スリープテックの出展が多く見られた。

前述の寝具メーカー・西川も日本で唯一のスリープテック領域へ出展を行い、睡眠科学を取り入れたマットレスの展示を行なっていた。

ここでは、CES2020に出展されていたスリープテックを紹介する。

URGOnight


URGOnight公式ホームページより

フランスのスタートアップが提供するUrgonightは、ゲームを使用して、睡眠に影響を与える脳波を制御する方法を測定するヘッドバンド。脳の活動をリアルタイムで表示し、さまざまなエクササイズで行動を特定・変更する方法を教える。このデバイスによって、40%速く眠りにつけ、夜間の睡眠中断を半分に減らすことができるそうだ。

Climate360スマートベッド

質の良い睡眠には温度の管理も大切だ。Climate360スマートベッドは、パーソナライズされた温度制御を使用して、眠りを早め、睡眠を中断することなく眠り続けることができるベッド。睡眠サイクルを観測し、ベッドの温度を調整してくれる。ベッドに入ると足の部分が温まり、より早く眠りにつくことができ、深い眠りに入ると、ベッドが冷えて血圧が下がり、朝、ベッドはゆっくりと暖まり始めるようになっている。国外流通は未定だが、2021年に発売予定だという。 

Muse S

睡眠時や日常心が乱れた時に効果的とされる瞑想。Muse Sは、瞑想のアシストを行なってくれるヘッドバンドとアプリのデバイス。
ヘッドバンドは、脳の活動、心拍数、呼吸、体の動きに関するリアルタイムのフィードバックを提供し、より効果的に瞑想するのに役立つ。睡眠に入るためのガイド付き瞑想と、より早く眠りにつくためのサウンドも搭載。

SmartSleep ディープスリープヘッドバンド

 

世界的なヘルクテック企業・フィリップスが開発する睡眠のためのヘッドバンドの最新バージョン。ユーザーの睡眠データ、睡眠医師との研究、早期導入者からのフィードバックを活用して、完全な睡眠体験を作成するという。ヘッドバンドには、眠りにつくためのサウンドと、希望する起床時刻から30分以内に睡眠の最も軽い段階で目覚めるアラームが含まれており、レム睡眠とノンレム睡眠をコントロールすることができる。
日本でも大手家電量販店やAmazonで購入が可能だ。

「睡眠不足大国」はスリープテックで眠れるか?

かつて、寝ずに働いて国を発展させてきた高度経済成長時代は、眠らないことが美徳であった日本。
1989年に流行語となった「24時間戦えますか。」というコピーライティングが流行った時代からはとうに時間も過ぎ、
寝ずに生産する働き方では、クリエイティブでグローバルな世界企業に打ち勝つことは難しい。
また、仕事でのインターネット活用は常識になり、勤務時間を制限せずに働くこともできる時代にもなりつつある。

働き方改革がやっと推進される中、まだまだこうした睡眠課題は大きな問題として取り上げられていないが、こうしたスタートアップと大手企業の睡眠課題解決ソリューションによって結果を出していくことで社員ひとりひとりの睡眠課題の解決が、企業の成長を促すことが証明されれば、より多くの企業が睡眠課題解決に向けて挑んでいくだろう。

研究や開発に強く、職人気質な日本が、「睡眠不足大国」を返上し、睡眠をとることでより生産性を高め、世界水準で戦える人員を多く排出することを願う。

 

 

Written by
前田 沙穂
2019年1月からCOMPASSの全ての記事の企画・編集を行う。フリーライター&アートディレクター。マーケティング,ガールズカルチャー,サブカルチャーを軸に企画・ライティングや、女性アイドルやアーティストのクリエイティブディレクションなどを行う。https://twitter.com/sahohohoho
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