2019.5.24

日本の高齢社会のスピードが止まらない。
日本は現在、「4人に1人が高齢者」という「超高齢社会」に突入している。

日本の高齢化は1950年以降一貫して上昇しており、この割合は今後も上昇を続け、2040年には35.3%になると言われている。(国立社会保障・人口問題研究所推計より)
この頃には、日本以外の欧米諸国やオーストラリアなどの先進国も高齢化が進み、イタリア・ドイツ、アジアでは香港や韓国、シンガポールが超高齢社会に突入するといわれている。

世界でいまミレニアル世代が注目されている理由は、ミレニアル世代の特徴であるデジタルネイティブな世代が労働者に占める割合が2025年に75%になるといわれているからだ。そのため、いち早くその価値観を捉え、マーケティングに活かすことが世界規模で注目されている。

が、日本の2025年はミレニアル世代が占める割合は50%であり、世界でも類を見ない超高齢社会となっている。

2025年問題ともいわれている、日本の超高齢社会。社会保障や医療、介護など問題は山積みだ。どの国も直面していない超高齢社会に対して、テクノロジーはどんな解決ができるのだろうか?


2013年から政府は介護ロボットの開発を推進。だが・・

高齢者が増え続けていることに対して、介護現場では人手不足が深刻化している。
介護労働安全センターが調査した「平成29年度介護実態労働調査」では、66%の介護施設で人手不足だという調査結果が出ている。
理由には、賃金の低さやイメージのネガティヴさや人間関係があげられており、採用が困難であると事業者は答えている。
とはいえ、介護サービス職業従事者は年々増加を続けており、職業に就く人数は増えている。が、それに対して高齢者の増えるスピードが早すぎて追いついていないのも現実だろう。

深刻化する介護職の人手不足に対して、介護ロボットがその問題を解決できるのではないかと考えられている。

2013年6月に政府は、ロボット介護機器の開発・導入促進に戦略的に取り組むことを発表し、介護ロボットの開発支援に踏み出している。
しかし、2019年現在で、介護ロボットの開発は進んでいるものの、一般的にはまだ普及していない。介護ロボットONLINEが行なったアンケートによると、介護ロボットを利用している施設は全体の3割程度だという。

その理由は、価格の高さや、介護ロボットができるのは単一作業のみであるため、多種の介護ロボットを組み合わせて使う必要がある手間や、使用感の問題などがあがっている。

現在も、電動歩行をアシストするロボットアシストウォーカー(RT.ワークス株式会社)や、TOTO株式会社が開発するベッドサイドに設置できる水洗便器や、アザラシ型のコミュニケーションロボット・PALO(産総研)など、実際に介護の現場でロボット・テクノロジー分野の製品は活躍しているが、まだまだ発展が望まれる分野だ。


高齢者xテクノロジー。キーワードは、「寄り添うこと」

高齢者のためのテクノロジーとは、一体どのようなものが求められるのだろうか?
それは、生活が不自由になった方や、高齢で夫や妻を亡くした方の生活に寄り添うものである。

例えば、GoogleHomeやAlexaに代表されるスマートスピーカー。
これらは高齢者向けに開発されたものではないが、介護の分野でも注目されている。

機械操作が困難であったり、視力が低下していても、パソコンやスマートフォンを操作することなく調べ物や買い物ができ、予定管理や電話、時刻の確認などを行うことが可能だ。

認知症の高齢者が忘れがちな、今日の日にちや予定もスマートスピーカーに尋ねることで教えてもらうことができる。

Amazonから発売されているEcho Spotにはカメラが搭載されており、ビデオ通話も可能。

これにより、例えば一人暮らしの高齢者とのビデオ通話を通して、日々を見守ることもできる。まだ一般家庭に浸透しつつある段階のスマートスピーカーだが、来たる超高齢社会に対応できるデバイスとしての需要も増えていくのではないだろうか。


分身ロボット「OriHime」公式サイトより

遠隔操作型分身ロボット・OriHimeもそんなデバイスの一つだ。
カメラ・マイク・スピーカーが搭載されているロボットであるOriHimeは、心身の問題や物理的な理由で行きたいところに行けない方のために開発されている。

ロボットを通して、周囲を見ることができ、リアクションを取ることもできる。

開発者の吉藤オリィ氏は、OriHimeを活用してALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が、ロボットを通して仕事を行える社会を実現している。

寝たきりの高齢者や入院患者の方々など、身体が動かせない方々に寄り添い、孤独感や社会との接点をOriHimeは解決している。

今年のCES2019でも出展されていた、介護テクノロジーのスタートアップにも注目だ。CES2019を特集した記事で排泄予測デバイス・Dfreeについて紹介しているので、こちらの記事も参照いただきたい。(CES記事:https://compass-media.tokyo/ces2019socialissues/


高齢者同士でVR空間を共有。心の介護が注目される。

また、欧米諸国などの先進国でも高齢化は進んでおり、海外のスタートアップは高齢者のためのテクノロジーに注目し始めている。

例えば、高齢者のためにVRサービスを展開するRendeverは、自力で外出するのが困難になった人に対して、VRで外に出かけさせてくれるサービス。

VRを通じて高齢者の生活向上を図り、高齢で夫や妻を亡くした方の孤独感をなくすため、複数のVRを同期させている。これにより、高齢者同士がVR空間を共有することができ、寂しさや孤独感を解消できる。

VR startup Rendever serves nursing homes with virtual realityより:https://www.youtube.com/watch?v=l7TZit7tKPA

また、高齢者が社会や家族とつながるのをサポートするロボットElliQにも注目だ。ロボットの横には専用のタブレットが併設されており、ロボットが話しかけるだけでなく、タブレットを使って予定のリマインドや、メッセージの確認を行うことができる。

ElliQより)

ElliQは自身が使用者と対話できるため、子供が自立した高齢者家庭にやってきた新しい家族のような存在となれる。


ゲームにも介護の可能性が眠る。

意外な分野も、介護分野に結びついている。それがゲーム業界だ。
なぜなら、ゲームのプレイデータから認知症かどうかを検査するためのデータを取得したり、ゲームによってうつ病の回復を支援することが可能になってきているからである。

 

国内最大のゲーム開発者向け技術交流会・CEDEC2017では、「診察室でゲームが「処方」される未来へー医師の視点から見る「ヘルスケア×ゲーム」の先進事例紹介と展望」という講演も行われており、そこではゲーム開発と、医療・介護分野の研究者が、ゲーム業界からどのように医療や介護の分野をサポートしていけるか討論を行なった。

4Gamer.netより)

ゲームを用いた医療・介護分野の研究は、現在も毎年開催されている、ゲームの医療応用をテーマとした会議「Games for Health Conference」が2004年にスタートしたことから、発展を遂げてきたという。

このカンファレンスは、ヨーロッパで毎年開催されており、2019年10月にはオランダでの開催を発表している。世界には様々な病気や精神的な問題をゲームで解決するという取り組みが起きており、恐怖症やパニック障害の治療にゲームやVR技術を取り入れているカリフォルニアのVRMC(The Virtual Reality Medical Center)や、弱った心や身体の回復を支援する、Super Betteなどがある。

 

その中でも、特に高齢者医療と関わっているゲームが、Sea Hero Questだ。これは、VRを用いたゲームで、高齢者に多い認知症を検査することができるゲームとなっている。

Oculusより)

そもそも、Sea Hero Questはゲーム会社と協力してイギリス・スイスの大学の研究者、認知症関連団体が開発を行ったゲーム。ゲームの内容としては、VRを用いて、船に乗って海を探検するものとなっている。VRを用いて海を探検する際にどのような判断をしているか、どのような視線の動きをしているか、などのデータを取ることにより、認知症の初期症状である判断能力の低下などを測定でき、それが認知症の早期発見につながるという。

Sea Hero Questはスマートフォンまたはタブレットで遊ぶことができ、プレーヤーのデータは匿名でドイツのデータセンターに集められる。プレーヤーが2分間のゲームをすることで、従来の実験の5時間分のデータが得られるという。10万人がゲームをすれば、過去50年間の研究データが集められるという画期的な仕組みだ。
また、世界中からデバイスでプレイできるため、国ごとのデータも取得できる。

超高齢社会が進むなか、ビックデータを手軽に集め、治療の発展に貢献できる、こうしたゲームの開発が日本でも進んでいくことが望まれる。

また、介護予防のためのリハビリ支援ゲームなども開発されている。正興ソリューションが開発しているTVゲーム「起立の森」は、起立運動に連動してアニメーション画面が変化し、単純な動きの繰り返しで飽きやすい起立運動をサポートする。介護施設などのレクリエーションの一つとしても、ゲームの活用される需要は大きい。

 

超高齢社会の課題は山積みだ。高齢者に関する課題は、日本にとどまらず世界中で注目されている。高齢者の生活に寄り添い、高齢者が高いQOLを維持しながら生活するために、様々なテクノロジー需要が生まれている。介護の現場を知り、どのような需要が高齢者にあるのかを見つめることで、新たなアイデアが出てくるだろう。

Written by
竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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