2018.10.9

「好きなことを仕事に」。SNS時代の近年、働き方を語る上で常套句になりつつある言葉だ。好きなことは誰しもにあることかもしれない。けれどもそれを仕事にするということは……?

今回探るミレニアルズは、まさに「好きなことを仕事にした人」。

株式会社ライトアップコーヒー(以下LIGHT UP COFFEE)の創業者であり、代表を務める川野優馬(以下川野)。川野は大学在学中にLIGHT UP COFFEEを創業し、現在東京と京都に計3店舗を展開している。元リクルート社員という経歴を持つ彼は、“美味しいコーヒーで世界を変える“と語る。

だが、その道のりは決して生半可なものではない。

 

LIGHT UP COFFEEは、自家焙煎コーヒーショップとして2016年に吉祥寺にオープン。アジアを中心に世界各国のコーヒーの産地から直接取り寄せた豆をその場でハンドドリップで提供する。

2016年に吉祥寺に第1店舗目をオープンしてから、京都・出町柳に2店舗、東京・新代田に3店舗目をオープンするなど、勢いのあるコーヒースタンドだ。その他、バリスタを目指す方のためのセミナーや自宅用としてティーバッグ型のコーヒーの販売など、店舗運営の枠を超えた展開も話題だ。

そんなLIGHT UP COFFEEを大学在学中に設立した川野が起業を考えたのは、小学校一年生の頃だったという。

 

「学校にいても窮屈さを感じていて、規則とかに縛られるのが嫌だった。学校とか超つまんなくて。なんのために使うのか分からないような授業をたくさん聞くのもそうだし、先生も楽しそうじゃないし、時間が止まっているような感じがしたんですよね。そんな環境の中で僕は自由でいたい、自分はルールを変える側になりたいって強く思って。ならば、ルールを作る側にならないといけない、だったら経営者になろう、ビジネスを作ろうって」

特別裕福な家庭ではなかったが、親はとても自由な考えで意思を尊重してくれたと語る。起業をしようという目標を持った少年時代を過ごし、「起業家になれる」を軸に大学選びをしていた。

 

「東大の理系は在学中に起業をすると補助金を大学が出すという制度があると知り、東大を目指してました。当時は起業=発明というイメージがあって。でも落ちて、受かったのが早稲田の理系と慶應の経済で、イメージに合ったのが慶應でした。それで大学に入って、好きなことを探していたらコーヒーに夢中になって」

 

大学1年生の頃、カフェでバイトをはじめたのをきっかけに、コーヒーに興味を持ち始める。ラテアートに異様なまでにのめり込み、Youtubeで動画を見て練習し、なんとラテアート全国大会で優勝まで果たす。
輝かしい才能を開花した彼だが、コーヒーで起業をするとはその頃は考えていなかった。

 

「海外でコーヒーショップのオーナーに熱くコーヒービジネスについて語られことがあって。農家から普通より高い値段で買って付加価値をつけて販売する、ということなんですけど、コーヒー豆の生産という重労働の対価に見合ったお金をちゃんと払って、コーヒーを焙煎し、そこにファンがついてサイクルが回っていくって作っている人も飲む人もみんなハッピーになる。すごく本質的で気持ちの良いビジネスモデルですよね、それに感銘を受けて」

そこからの行動は速かった。
貯金をはたき、銀行から融資を受けて焙煎機を購入し、リビングの壁に穴を開け、自宅に焙煎機を設置し、ローマやパリなど世界各国のコーヒーを巡り100杯以上のコーヒーを飲み歩き、取材をし研究を重ね、ついには大学4年の夏に吉祥寺にLIGHT UP COFFEEをオープンした。

一度ハマったことにはとことんまでのめりこむ。異常なまでの熱量の高さが垣間見える。

2014年夏にオープンした吉祥寺のLIGHT UP COFFEE 第1店舗

だが、ここで意外な選択を彼は選ぶ。吉祥寺でコーヒービジネスをスタートした彼は、就活をし、株式会社リクルートホールディングスへ就職をした。

 

「周りの友達もみんな就活をしているし、新卒という機会はその時しかないし、とりあえず就活をしてみようと思って。会社経営をしながらの就職になるので、内定をもらったあとも実際に就職をするかはとても悩みました。様々な経営者とお話しをする中で言われたんです。『パラレルワークをするうえでのリスクはなにか?見方を変えるとリスクはプラスになるし、とりあえず内定もらったならやってみれば?』と。誰もができることではないこの機会をフルに活かそうと思って入社を決めて」

厚生労働省が働き方改革を切り出し、副業やパラレルワークの推奨がささやかれる昨今だが、実際に2つの業務を両立して働くのはなかなかに厳しい。そこに強い意志や軸がないとそう簡単にはいかない。ましてや、店舗経営と新卒社員の二足のわらじを履く選択は、大学生の彼にとって難しい選択だったことは想像に難くない。

 

リクルートではUXデザイナーとして働くことになる。
UXデザインとは、ユーザー体験を考えてデザインを考えるというデザイン思考のことだ。

彼は会社員時代、WEB上のユーザー体験を設計する仕事をするなかで、コーヒースタンドというリアルな体験をどうデザインしていくかを考え出す。

 

「当時はコーヒーのクオリティを突き詰めることが一番の体験を与えられる、と思っていたけれどお客さんによってはクオリティではなくスピードを求めている人もいる。
例えばセブンイレブンのコーヒーがウケているのは特に会話をすることなく手軽にコーヒーを飲めることで、コーヒースタンドの客層とは違う。そういった視点が広がったのはリクルートで仕事をして思ったことですね。そのうえで、WEBの中ではなく、自分はリアルなユーザー体験を突き詰めることをもっとやりたい!と思えたからリクルートを辞めて経営に専念することを決めました」

会社員を辞め、ついに「好きなことを仕事にする」道へと向き合うことを決めた川野。そして、LIGHT UP COFFEEを法人化し、起業家になる夢を叶え、東京・京都で店を構えるコーヒースタンドを経営する。

「好きなことを仕事にしたい」から、起業をしたい若者は増えている。起業とはいかずとも、個人で仕事を作って働きたいと思う若者は増えていると聞く。それ自体は素晴らしい傾向だが、会社や組織に属して働く意義を軽視する必要はない。

 

「会社に属さずに働くとしても、日本って人付き合いや礼儀の文化があるじゃないですか。僕は重視していないけれど人によって社会人としてのルールを重視している人もいる。仕事相手がどういうルールの中で生きている人なのか把握して付き合うためにも、会社員経験がある方がいいことは多々あります。会社員はとても良いですよ。仲間もスキルもつくし、給料だってもらえる。学生で就職せずに起業したくて悩んでいるってよく聞くんですが、まず始めることも大切だけれど会社に入って学ぶことも多いよ、って言ってます。そういう人には社内で声をあげたらなんでもやらせてくれるような社風の会社にいくべき。リクルートはまさにそういう会社でした」

 

一方で、好きなことが見つからないという悩みを抱える若者も多いだろう。
「好きなことを仕事に、というけれどその好きがなにかわからない」といったつぶやきはTwitterに溢れている。川野は、好きなことを見つけられた人。そうでない人がビジネスを作るにはどうしたらいいのか?ビジネスとは好きなことであることが大切なのか?

「ビジネスを作る上での根源的なモチベーションは人それぞれ。とにかくお金を儲けたいというモチベーションもあるし、僕は社会をこうしたいっていうビジョン先行。世の中の負を見つけて、こうやったら幸せなんじゃないかな?と負を解決することで両方をつなぐというビジネスもそうだし、好きなことを見つけてそれを自分の力で仕事にするのもビジョン先行タイプ」

 

どんなビジネスを作るにしても、まずは自分が様々なことに挑戦して触れてみないと見えてこない。遊ぶことや旅行もその一つだと川野は言う。

「好きなことを見つけたとして、そのタイプも2つある。消費することが好きなのか、作ることが好きなのか。コーヒーでいうと、コーヒーを作るのが好きという人もいるし、コーヒー屋巡りが好きという人もいて、同じ好きでもタイプが違う。
前者はコーヒーを仕事にするのに向いているけれど、後者が好きな人はコーヒーを仕事にするのは難しくて。いろんなことを経験して、これ面白いなと思うことがあったら、これは自分が作り出す側に立って面白いのか、消費する側で満足しているのかを整理してみると、意外と自分がやってもいいなと思うことっていくつかあると思う。それをとりあえず始めてみたらなんかビジネスになる気がする。好きなことで生きていくって、まずは自分の好きを分析することから始まるんじゃないのかな」

小学一年生で起業を志した彼は、同時代を生き抜く同世代をどう見ているのか。

 

「1つは壁を感じない世代。幼少期からインターネットをしていて、アクセシビリティに抵抗を感じない。なんでも届くし、なんでもできるというのが根本にあるのは間違いない。僕も世界中のコーヒー産地から豆を買って、自分でお店を作って、自分で作ったコーヒーを販売しているけど、難しいと考える前にまずやってみようとする。行動に制限をしない人は多いですね。
2つ目は敷かれたレールで生きて行く人生に対してストレスや抵抗を持っている人は多いかな。起業している人は自分でやりたいからしているわけで、やりたくないことをやりたくないから起業してたり、世の中にはやりたくないことがたくさんあるなと認識してる世代なのかなと。例えば満員電車で通勤して仕事をするのは、やりたくないな、じゃあ自分で何かを探そう、といった具合に起業という選択肢をとる人たちは結構いるのかなと思う」

好きなことを見つけるのは難しくても、やりたくないことの解決の手順を考えることはできるかもしれない。ビジネスを作るきっかけは、日常の様々なところに転がっているのだ。

最後に、川野が見据えるビジョンを聞いた。

 

「主要な場所全てに、すごく美味しいコーヒーショップがある。なおかつ、そのコーヒーショップはコンビニよりも気軽に入れる。そんな世界が僕の理想かな。そしてそのコーヒーショップに立ち寄ることが、誰かのライフスタイルになっていればいい。コーヒーってワインに似た文化だと思うんですよ。でもワインは注文するとき、料理に合わせたワインを選んだり、ちゃんと品種でオーダーしたりしますよね。コーヒーも同じようになればいいなって。もっともっと、色んな人にコーヒーを知ってほしい」

小学生時代の夢を叶えた川野。そこに至るまで、明確なビジョンを持ち続け、行動を続けた。そして彼はこれからもコーヒーを通して世界を覗き、世界を変え続けていく。

 

編集:保科さほ
撮影:上溝恭香

 【プロフィール】

川野優馬
1990年生まれ。慶應義塾大学在学中に、LIGHT UP COFFEEを創業。“美味しいコーヒーで世界を変える”というビジョンで、日々コーヒーの魅力を発信し続ける。

HP:LIGHT UP COFFEE

 

※COMPASSでは、独特の視点から事業を興したミレニアル世代へのインタビュー記事を掲載している。

Written by
竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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竹林広
1996年生まれのフリーライター。京都出身。慶應義塾大学文学部に在学し、人間科学を専攻。フリーライターの父を持ち、父の働く姿を見てライター業に興味を持つ。趣味は麻雀。
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