2019.1.15

「これからは個の時代」と囁かれて久しい。働き方改革は注目を浴び、AIにより十年後なくなる仕事・なくならない仕事の予測は常に話題だ。
自分のスキルを持って、個人で生きていくことに憧れを持つ若者も多いだろう。
やりたいことをやるという風潮が高まり、起業意識を持つ若者も年々増えている。

「別に会社か会社じゃないかっていうのはあまり関係なくて、オモロイことは各々発信できるんじゃないかな。」
クリエイティブチーム・PERIMETRONの佐々木集はそう語る。
PERIMETRONはshu uemuraやFILAなど世界的なコスメ・ファッションブランドの映像や、King GnuやTempalay、Wonkといった若い世代を筆頭するバンドのMV、ポップアップショップや雑誌の連載グラフィックまで形に捉われず幅広い分野を駆け回るクリエイティブレーベルだ。

20代のクリエイター7名で構成されたメンバーには、音楽家、映像作家やスタイリスト、CGモーショングラフィッカーなどそれぞれスキルを持ったメンバーが在籍している。
その多彩なメンバーをまとめているのがプロデューサー/デザイナーである佐々木集だ。

佐々木氏が身を置くPERIMETRONとは一体どのようなチームなのか?
明大前のビルにある、秘密基地のようなアトリエで自身やチームについて聞いた。

PERIMETRONはいわゆる会社ではない。感性の似ている同世代のフリーランスが集ってプロジェクトを遂行している。

 

ーなんかバンドっぽいですよね。会社とかじゃなくて、自主的な。なんていうんでしょうか?そういうのって……。

佐々木自分らではクリエイティブレーベルと言ってはいるんですけど、そうですね、自分達のやりたいこと、伝えたい事を色んな媒介で作ってる集団っていうか。そういう意味ではバンドに近いのかも知れません。もちろん僕たちにもクライアントがいるので、そこを求めてくれるクライアントとマッチすれば大変ありがたいし。内部でいうとあまりみんな肩書きに対して深く考えてはいなくて、役職もラベルみたいなもので。
PERIMETRONという名前にもメンバー各々に共通して存在する深い意味はなく、カッコイイからいいじゃん?って感じで。

 

ー各個人ができることをチームとしてやっていくという感じは今っぽいですよね。どういう風にプロジェクトを進めていくんでしょうか?

佐々木プロジェクトを持ってきたメンバーはその案件をやる意味を一緒にやりたい仲間にプレゼンすることからはじめます。
最低限それに取り掛かる意味を共通認識として持つことが最初。クリエイティブのイニシアチブをとるのは、一番最初にアウトプットのイメージが見えたメンバーがメンバーを役職に割り振っていく。持ってるスキルによってポジションはもちろんあるけど、それだけじゃなくて「こういうアウトプットならあいつが見てきたものが活きるだろう」って感じで割り振りながら補助していく。そうして走り始めてアウトラインが出来てから完成までの間は、割と役職関係なく全員がアイデアを出して進めてます。

写真上・PERIMETRON事務所 写真下・PERIMETRONメンバー

PERIMETRONが明大前に構える3LDKのアトリエにはアートやグラフィック、撮影の小物が所狭しと並び、ビールの空き缶にタバコの吸い殻、漫画が転がる。

天井には、松本大洋の漫画「ピンポン」と「青い春」のページを切って貼り付けてある。
クリエイティブさと少年心が同居する、まるで男子の秘密基地のような空間だ。
ここは撮影スタジオとしても使用するらしく、ネオソウルミュージック・バンド「WONK」や「Tempalay」のMVの一部もこのアトリエで行なったようだ。

Tempalay “どうしよう” (Official Music Video)

アトリエの一室は映像編集用のimacが並ぶ作業部屋になっている。
メンバーは毎日各々の時間でアトリエに来て、毎日顔を合わせコミュニケーションをとり、制作を進めていく。

 

ーなぜ会社にしないのですか?

佐々木窓口や財務管理としての会社は一応持っているんですけどね。プロジェクト毎に一緒に働こうよってやれるのが良くて、クリエイティブに関しては会社か会社じゃないかっていうのはあまり直結しない。
オモロイことは個人でも発信できる時代だけど、ここぞという時により強いパワーを発揮する為には少数精鋭的な個の集団が最適だと思います。
各々がソロでありリーダーであってPERIMETRONのメンバーである、というスタンスが完成すれば良いという考えです。
みんな全然休まないし、ずっと仕事してるし、でもアホみたいな話はするし、友達というよりは同じ何かと戦ってる仲間に近いですね。

 

メンバー全員の価値観として、目先の金よりも作品になりそうな案件を選ぶという。
案件の金額の采配は、プロデューサーが采配するというが、各々の状態と予算を見て臨機応変に決めていくという。


DALLJUB STEP CLUB”SANMAIME”(アートワーク)

 

佐々木目先の小さなお金を稼ぐことではなく、多少金額的な無茶をしてでも今は作りたいと思ったものを最大限のパワーで作った方が絶対にいい。作品は残っていくから。
逆に今、ブレーキをかけたような仕事の仕方をしてたら、この先3040代になったときにめっちゃ怖いよねっていうのがメンバーの共通意識ですね。
メンバー全員がフリーランスとして生きてこれた経験があるから、日本でやる限り職種に縛られなければひもじくて死ぬってことはないってわかってるし。
精神衛生上、健全に生きられるお金と環境はあるに越した事はないですが。(笑)

 

佐々木は、15歳で高校を辞め、バイトに明け暮れ、ベース片手に18歳で単身ロンドンへ渡るという型破りな経歴を持つ。

 

ー高校を辞めてロンドンへ行かれたんですか?

佐々木地元が京都なんすけど、高校を3週間で辞めたんです。辞めてすぐラーメン屋で働きはじめて。当時15歳で、周りは普通に学校行って部活やってたりして遊べないし、時間も有り余っていてずっと働いてました。そしたら結構お金も貯まって海外で暮らそうと決めて。その頃もバンドでベースをやっていたので、楽器とスーツケースだけを持って18歳のときにイギリスへ行きました。

 

 

ロンドンでインディーズレーベルのバンドに加入し、ライブの日々を送り、20歳のタイミングで日本へと帰国。刺激を求めて東京に上京し、アパレルショップで働きながらイベントを主催する日々を送っていた。

 

イベントに出演するバンドを探す中で、KingGnuの前身バンドであるSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)に出会う。Srv.Vinciは、現KingGnuのメンバーでありPERIMETRONの立ち上げ者でもある常田大希が主宰するバンドだ。

King Gnu ” It’s a small world” (Official Music Video)

 

佐々木出会いのきっかけはYoutubeでしたね。

Youtubeで再生回数全然回ってないのにやべーカッコいいバンドいるなと思って(笑)
すぐコンタクトから声をかけてイベントに出てもらって、そこからすごい仲良くなって「なんかやろうよ」って話から一緒にイベントを共同でやるようになって。

ぼくはその頃have no ideasという別のアーティスト集団をやっていて、もともと大希が一人でPERIMETRONって名前で自主の音楽レーベルをやってたんですよ。

そこから色々一緒に動いてるうちにPERIMETRONにジョインして、当時一緒に制作してた仲間とか、
チームが出来てから出会った仲間が徐々に増えて減って増えて今に至りますね。

King Gnu “Flash!!!” (Official Music Video)

 

インプットの質や量は、アウトプットのクオリティに影響する。
PERIMETRONのクリエイティブは一体どこからインスピレーションを受けているのだろうか?

 

佐々木基本的に映像はvimeoなどの海外の動画メディアやSNSでキャッチした情報を見ながらメンバーで共有して、ここの部分って吸収できそうだよねって話したり。
あとは僕や西岡(プロデューサー)は海外経験があるからある程度の英語がわかるので、英語圏の動画を見て「今、こういうことを伝えていくべきなのかもね」と他のメンバーに伝えたりとか。海外の動画のこの部分と、日本的なこういう内容を組み合わせたら面白くない?って話すこともあったり。

雑誌「EYESCREAM」連載グラフィック


メンバーは自然と「海外基準のクリエイティブ」を意識していると語る。

佐々木日本はもちろんですがそれ以外の国からも評価してもらえるようなチームになりたいってことはよく話していますね。

今までって、音楽でもなんでもまず国内で評価されてから海外を視野に入れる、という戦い方だったと思うんですけど、それだとルートが狭すぎるし、何より道のりが長い。今はそういう時代じゃなくて、ぼくらみたいなインディペンデントなクリエイティブチームがそこに無理やりでも土俵を持っていき評価に繋がれば新しいルート開拓になる、って考えが個人的にはあって。

そのルートを先ずはぼくたちが作る事が出来れば、その次の世代やひいてはアーティストやクリエイター全体が日本従来の構造にのらなくても勝負できる体制として1つの説得力になると思ってます。

 

ークリエイティブの雰囲気やスタンスがはっきりしている感じがしますが、自分たちとは合わないような依頼主から来た時はどうしてますか?

佐々木 合わないのであれば全然断ります。時間を切り売りした働き方はしたくないし、このチームだからより良くなる依頼の方が、どう考えてもいい、依頼してくれた側にとっても。
多分他のどんなものでも作ってくれる優秀な制作会社って日本にはあると思うんですよ。それを考えると僕らってどっちかっていうとわがままというか。
納得出来ない事にYESというタイプじゃないし、お互いにとって良くなる会話ができる体制じゃないと進まないなって。

 

つまりそれは、「このクリエイティブは自分たちである必要がある」とハッキリ言えるということだ。その自信をクライアントに伝えるためには経験と自信が不可欠だ。感性やセンスは可視化しにくいが、その自信はどう醸成されるのだろうか?

 

佐々木自信というよりも今やりたい欲ですね。熱さとか。メンバー全員がどうかはわからないですが、僕個人でいうと「今作ったほうがいいもの」や「今伝えるべき事」という主観的である程度説明できる感覚的なことにすごく従順に生きてる。なのでこちらのやりたい事とそれが及ぼすであろう良い結果を考えられるだけクライアントに説明するってことは当たり前で。
仕事として依頼を受けるからには、それを聞いてもらった上で互いが納得してもらわない事には意味がないし、熱意がないと考えるに至らない。

 

個の時代と叫ばれる昨今。PERIMETRONはその働き方のさらにワンステップ上を体現していると感じるが、佐々木自身はどう考えているのだろうか?

 

佐々木個の時代と言われてるけど、結局はどこかの町や村で人と共存して生きていくわけで。
個人で生きるというのは成立しないし、人間社会の構造から抜けて生活するってことはそもそもほぼ不可能。やれる事も限界がある。でも会社とか団体の活動にそぐわない才能ある人間もたくさんいる。

僕自身は、少数のチームが良いとか大企業と言われる会社が良いみたいな構造上のYESNOではなく、小さい社会を作って生活している個の集団でも現状はなんとか楽しくやっていけるよ、ていう気持ちだけですね。今後、「社会舐めんなよ」って言われるかもしれないですけど(笑)、もしかしたらこういう場所が”大きい組織には馴染めない追いやられた天才”にとってはヒーローになるきっかけになるかもしれないし。

NINE Concept & 18Winter Collection Movie

NINE 18Winter Collection Main Visual

 

ひとつのスタンスとしてチームでの活動を行うPERIMETRON

今後のチームとしての展開を考えているのだろうか?

 

佐々木全然考えてないですね(笑)考えていないといえば嘘になるけど言葉に落としきれるとこまでいっていない。

何か予測できない事を唐突に始めるという行為に惹かれるという事もあるので。
チームが動き始めて2年間、自分なりに全力で頭回して日々を楽しみつつも同時に落胆する現状をただ足掻くだけ。
プロジェクトを重ねるうちにPERIMETRONでやる意味や色がどんどん出てくると思うので、その色じゃないものもたまにはやりたいなって思うやつがチームの中にいれば、全然個人でやればいい。PERIMETRONっていうチームをわざわざ辞める必要はないし、個人が他の制作をすればするほど、その色がPERIMETRONにも落ちてくる。

次第にそれが円になるっていう、PERIMETRONの円周率、πっていう意味に繋がるのかなって。

 

PERIMETRONは明文化された強い信念やパッションを掲げているわけではない。
が、時流を捉え、今にあった働き方やクリエイティブを実践しているメンバーが集うことで自ずと色が生まれてくる。もしかしたら、個の時代といわれる現代の本質はそこにあるのかもしれない。

誰もがすぐに実践できることではないが、自分の感性に率直に生きることがそこに辿り着く道ではある。

個の力を最大限に活かせるチーム戦のような働き方は、今後さらに注目されていくだろう。

 

※COMPASSでは、独特の視点から事業を興したミレニアル世代へのインタビュー記事を掲載している。

 

Written by
前田 沙穂
2019年1月からCOMPASSの全ての記事の企画・編集を行う。フリーライター&アートディレクター。マーケティング,ガールズカルチャー,サブカルチャーを軸に企画・ライティングや、女性アイドルやアーティストのクリエイティブディレクションなどを行う。https://twitter.com/sahohohoho
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前田 沙穂
2019年1月からCOMPASSの全ての記事の企画・編集を行う。フリーライター&アートディレクター。マーケティング,ガールズカルチャー,サブカルチャーを軸に企画・ライティングや、女性アイドルやアーティストのクリエイティブディレクションなどを行う。https://twitter.com/sahohohoho
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