2018.12.21

映像配信大手のNetflixがオリジナルコンテンツの制作に注力し始めたことで、コンテンツ勢力図に変化が起こりつつある。

世界190ヵ国以上でサービスを展開し、全世界に1億3,000万人の会員を持つNetflix。(2018年7月発表資料より)

これまで世界的に知名度のある映画やドラマなどのコンテンツは米国発信のものがほとんどだったが、Netflixによって世界各地のユニークなローカルコンテンツがグローバルに流通し視聴者の支持を得るようになってきたのだ。
本記事ではコロンビアの現地情報をもとにNetflixによるグローバル規模でクリエイターを巻き込んだ”適地適作”なコンテンツ戦略の様相を解き明かす。

 

潤沢な予算で適地適作なコンテンツ制作を進めるNetflix

2017年10月16日、Netflixは2018年のコンテンツ予算額は80億ドル(約9000億円)予定と発表。しかし、予算額はそれ以上に膨らんだと推測されている。
2018年6月30日にエコノミスト誌に掲載されたゴールドマンサックスの試算によると

2018年のコンテンツ予算額は120億ドル~130億ドル(おおよそ1兆4000億円)に上るとのこと。

その潤沢な予算は米国内でのコンテンツ制作のみに充てられるわけではない。米国外のヨーロッパ、アジア、中南米までの世界各地におけるコンテンツ制作に充てられる。さらにNetflixは”適地適作”したコンテンツをグローバルに届ける。

”適地適作”とは、その土地の社会、歴史、環境などその国固有の強みを生かしたコンテンツをNetflixが制作することだ。たとえば日本だとアニメ中心にコンテンツ制作を進めており2019年には新作5作がリリースされる予定だ。
実際に、ドイツで制作されたNetflixオリジナルドラマ『Dark』はドイツ国外の視聴者が90%以上であったり、日本で制作されたNetflixオリジナルアニメも日本国外の視聴者が90%以上となっている。

 

さらに新興国の”適地適作”のローカルコンテンツにも注目が集まっている。

コロンビアでも、国内における麻薬戦争を取り扱った「ナルコス(2015年)」、左翼ゲリラから脱出後、社会復帰を目指す男の苦闘を取り扱った「Distrito Salvaje(英語:Wild District)(2018年)」などコロンビア固有の歴史や社会を描いたドラマがこれまでにリリースされている。
「ナルコス」はコロンビア現地の撮影プロダクションの協力の元制作され、全世界で大ヒットを飛ばした。が、現地コロンビアでの評判は芳しくなかった。そもそもポルトガル母語のブラジル人の俳優がスペイン語母語のパブロ・エスコバルを演じていたり、ほとんどがアメリカのメキシコ人俳優であるなど雑さが目立ったためだ。

それを経て今年リリースされた「WildDistrict」はコロンビア現地の意向を反映する形でのドラマ制作に取り組むようになったようだ。Netflixはコロンビアの制作会社に撮影を委任し、コロンビア人俳優中心で制作。作品を見てもかなり自由度高く制作したように思われる。こちらのドラマはコロンビア人の支持を得ているようだ。

 

多言語対応によって世界中で広がるコンテンツ

世界中の視聴者にコンテンツを届けるのに有効に機能するのがNetflixのリコメンドシステムと多言語対応だ。コンテンツのジャンルや制作された国や言語に縛られることなくユーザーが好みそうなコンテンツが垣根を超えてリコメンドされる。日本において、スペイン語の、しかもほとんど縁のないコロンビア発のドラマ『ナルコス』が大ヒットしたのもNetflixだからこそだろう。

 

2019年にはコロンビア現地で制作された新作ドラマ6作がリリースされる。ちなみにコロンビア含むラテンアメリカ全域においては今後、計70以上のオリジナルドラマ制作が始動する予定だ。

NetflixのCEOリード・ヘイスティング氏は声明でこのように述べている。

「Netflixが現地のクリエイターらと協業しコロンビア人視聴者のみならず世界中の視聴者にコロンビア発のユニークな物語を届けることができるのを誇りに思います。」

 

新興国クリエイターらがNetflixを支持するワケ

Netflixのオリジナルコンテンツ制作を支えているのはコンテンツ制作現場の才能あるクリエイターである。

「Distrito Salvaje(英語:Wild District)(2018年)」はコロンビア現地撮影プロダクションDynamoが制作総指揮を執り、現地の俳優を中心に撮影を行ったそうだ。

Dynamo撮影プロデューサーのCristian Conti氏はコロンビアのニュースメディアProduにおいてNetflixのような動画配信サービスについてこんな意見を述べている。
「これまで英語のコンテンツでなければ(グローバル規模で)視聴されませんでした。アングロサクソンのコンテンツは自動的にその他地域のコンテンツに優越する構図がありました。しかしその構図は変わり始めています。英語以外でコンテンツを制作している私たちにとってこの傾向は非常に良いことです。」

このConti氏だけでなくコロンビア現地のクリエイターからNetflixの”適地適作”は好意的に受け止められている。新興国のクリエイターらにとってNetflixはグローバルに打って出る千載一遇のチャンスだからだ。

 

クリエイターに干渉しないNetflix

もう1つクリエイターに歓迎されているのが、Netflixは制作に干渉しすぎない点だ。広告主を抱えているテレビ放送向けコンテンツの制作とNetflix向けコンテンツ制作では大きく異なる点がある。それが自由度の高さだ。

前述のドラマ『Distrito Salvaje』にはコロンビア国内の政治家の腐敗等に対する政治批判も含まれている。テレビ放送向けコンテンツだと難しかったのではないかと思わされる内容でありクリエイターらは相当自由度高くドラマを制作した形跡が伺える。

Newspicksの特集記事「ネットフリックス作品がヒットする秘密を教えよう」(前編)」でNetflixのコンテンツ制作の最高責任者Ted Sarandosは作品がヒットする秘訣は制作に干渉しすぎず、信頼できるクリエイターを選び信頼しきって任せることだと語っている。

クリエイターらが自由度高く意欲的にコンテンツを制作でき、かつそれをグローバルの視聴者に届けることが可能であるNetflix。クリエイターにとってコンテンツ提供先として魅力的なのは間違いない。

記事ですでに述べたようにNetflixの適地適作のコンテンツ戦略によって米国で制作されたコンテンツのみがグローバル規模で視聴される状態は変わりつつある。世界中から調達されるローカルコンテンツがNetflixを経由して世界中の視聴者に配信・視聴される状態となりつつある。

このようなNetflixによるコンテンツ勢力図書き換えの背景には世界各地でコンテンツ制作に取り組む才能あるローカルのクリエイターたちの存在も見逃せない。今後もNetflixの動向から目が離せない。

 

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Written by
若 旦那
若旦那 Webメディア運営、Webマーケティング代行業のほか現代ビジネスやGetNaviでも連載中。南米コロンビアと日本の2拠点生活実験中。運営ブログはこちら(https://kaigaihanno.com/kaigai/)
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