バーチャルリアリティ、VRという言葉が一般的に普及しだした昨今。
VRの家庭用装置の販売も進み、VRが楽しめる施設も増加している。
今回はそんなバーチャルリアリティという概念の歴史や現状を振り返ることで未来を見据えたい。
1935年に誕生した「バーチャルリアリティ(VR)」という概念
バーチャルリアリティとは、現実ではないが、ユーザーの五感を含む感覚を刺激し、あたかもリアルのように感じる空間を理工学的に作り出す技術や体験のことを言う。
初めてVRという概念が登場したのは1935年。アメリカのSF作家・スタンリイ・G・ワインボウムが書いた短編小説「Pygmalion’s Spectacles」に、ゴーグル型のVRが登場している。
これは、五感を記録し、ゴーグルに投影するというもので、「バーチャルリアリティ」のコンセプトの先駆けとなった。
1962年には、アメリカの映像技師・モートンホーリーが視覚、聴覚、嗅覚、触覚を模擬する機械装置として、VRをの試作機を開発。
その後も、1970年・1980年と様々な機関がVRの研究を行い、1990年代に入ると、アーケードゲームや家庭用ゲームなど、ゲーム機を主体にVR装置の開発が行われた。
しかし、当時はコンピュータの処理能力の原因などで、本格的な普及には至らなかった。
そして2000年代。アメリカ軍がパラシュート訓練にVRを活用し始め、2012年にOculus社がOculus Riftを開発し、VRへの投資が急速に普及する。
2016年にはスマートフォンに装着して使うモバイルVRやPlayStation4と接続すPlayStation VRが登場し、ついに「VR元年」と呼ばれる時代が訪れた。
いま身近に存在し始めた「VR」は、約85年前に想像され、様々なエンジニアが約60年をかけて普及を夢見て開発を進めてきた、「SFの中の装置」のような存在なのだ。
徐々に普及しつつある「バーチャルリアリティ」
VR元年と呼ばれた2016年から3年、今やVRは家庭用ゲームなどの一般利用やユーザー体験型イベントのコンテンツなどとして様々な場面で利用されている。VRで体験できる世界はVirtualであるがゆえに自由度が高い。そのため、近年はVRを活用したユーザー体験型イベントが増えている。
例えば、2018年末には、映画「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」で主演のトム・クルーズが挑んだリアルスタンドを体感できるイベントが開催された。このイベントでは、VRを用いて雪山でのヘリ操縦や、高速で飛行するヘリに吊るされたロープをよじ登るスタントが体験できたが、このように一般的にはできない体験ができるのがVRの良さだ。
また、VRはアニメ・ゲームコンテンツとの親和性が高いのも特徴だ。「仮想空間を冒険する」というテーマのアニメ「ソードアート・オンライン」では、アニメ内で登場人物がVRを活用。さらに、2017年12月・2018年10月にはソードアート・オンラインの世界を体験できるVRゲーム体験会が登場。仮想空間を冒険するアニメの世界を仮想空間によって体験するという行為さえも可能にするのがVRの力である。
バーチャルユーチューバーが持つ未来
昨年、日本を騒がせた「バーチャルな存在」といえば、Vtuberだろう。
VR装置のように空間こそ持たないが、人間とバーチャルな存在との距離が近づいているという一つの大きな事例として紹介する。
「Vtuber」とは「Virtual Youtuber」の略称で、2Dや3Dのアイコンを使って動画投稿を行う。Vtuberは日本だけに留まらず、欧米諸国やアジア諸国にも多数存在し、特に韓国やインドネシアに数が多い。
日本のVtuberに焦点を当てると、もっとも知名度が高いのは2016年末から活動を開始したキズナアイだろう。
彼女のYoutubeチャンネルは2019年2月現在で登録者が240万人を超え、またTwitterのフォロワーは50万人を、Instagramのフォロワーは13万人を超えるなど、その数字からも人気の高さがうかがえる。
キズナアイが活動を開始したのは2016年末であるが、実は活動媒体をYoutubeに限定しなければ、Virtualなアイドルの歴史は意外と古い。1990年代にはすでにVirtualアイドルが存在している。その後2000年代・2010年代に入ると“ボカロ“で知られる「初音ミク」や、ゲーム「THE IDOLM@STER」、AKB48メンバーの顔のパーツを合成して作られた仮想メンバー「江口愛実」の登場など、Virtualアイドルは世間からも注目を浴びる存在となった。
現在、Vtuberという単語が取り上げられることが多いが、Virtualなアイコンを使った活動はこのようにYoutubeだけに留まらない。先日COMPASSで取り上げたVirtual Instagrammerや、アジアで最大規模を誇るライブ配信サービス17Liveを活用したVirtual Liverなどが次々に登場している。
2019年2月19日には、株式会社ジャニーズ事務所とSHOWROOM株式会社が共同で「バーチャルジャニーズプロジェクト」を開始し、特に「Virtualなアイコン×ライブ配信サービス」への注目度はますます上がっている。
様々な分野で活用されるVR技術
現在、VRはビジネスシーンを含む様々な場面で利用されている。その幅はアパレル・インテリアなどのショッピングシーンから、旅行・観光業、さらには医療・教育の現場にまで広がる。これらは全て、現実に酷似した状況を360度世界で忠実に再現できることが大きな理由となっている。
ネットショッピング
従来のネットショッピングではウェブ上で商品の写真を見ることしかできなかった。しかし、VR空間にお店そのものを作ってしまえば、顧客はVR空間内でウィンドウショッピングを楽しむことも、洋服などの試着も行うこともできる。
旅行
VRを使えば簡単に世界中を旅することもできる。さらにVRで旅することによって、空を飛んでいる体験もすることができる。
Googleが提供するバーチャル地球儀システム「GoogleEarth」はVR技術に対応しており、VRヘッドセットを持っていれば誰でも自宅で世界中を旅できる。
また、旅行会社として知られる株式会社エイチ・アイ・エスは、地上にいながら航空・世界旅行の体験を味わうサービスを提供しているFIRST AIRLINESと共同で、VRを用いた「体験型世界一周旅行説明会」を開催。普通の説明会ではなく、VRを活用することにより、実際の旅のイメージをより強く想起させることができる。
医療・教育
VRは医療や教育の現場でも活用されている。医療現場では、実際の手術前にVRを用いた模擬手術を行なったり、VR空間で様々な状況をシミュレーションすることで、高所恐怖症や軍人のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を取り除く試みが行われている。
また、教育現場ではVR空間上で理科の実験を行ったり、世界遺産の探索を行ったりするという取り組みが行われている。危険な薬品を扱う実験が安全に行えたり、実際に実験器具を購入する費用や実験場所を用意しなくて良いことなどがVRを用いた実験の特徴だ。
2022年には市場が5倍に。4年以内で、VRはさらなる変化を遂げる
2018年11月、Facebook社がアメリカ・ワシントンにOculusの研究開発施設を建設予定だと報じられた。
VR/ARに関する研究開発に注力しているFacebook社のOculus。2019年もVR/AR分野への投資には力を入れていくことが見込まれている。
VR市場は2022年には現在の5倍以上の成長をし、3兆円規模の市場になると予測されており、さらに、2025年には12兆円のテレビ市場を抜き、13兆円市場に成長するとの予測もある。
また、動画コンテンツの制作によって収入を得る人口も増え、VtuberやアニメなどのエンタメコンテンツとVRの融合も進んで行くと思われる。今後もさらにバーチャルリアリティコンテンツの増加・多様化は進むだろう。
約85年前には、SF作品の中の空想でしかなかった「バーチャルリアリティ」。
人間の技術革新によってSFの世界が現実化していくテクノロジーの発展を追い続けたい。